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産廃サミット

産廃サミット

“廃棄”を新しい価値の“生産”へ

2012/08/22

レポーター:イトウジュン

これまでの“廃棄”を新しい価値の“生産”へと変換する新しい産業を創りだすイベント「産廃サミット」が、7月14日~16日、中間産廃業者のナカダイ株式会社前橋支店「モノ:ファクトリー」で開催された。

多種多様な優れた廃棄物を材料に新しい価値を発想する

今回が2回目となる産廃サミットは、ナカダイが「ソーシャル・マテリアル」と呼ぶ廃棄物を使った、プロダクトやアートなどの作品展だ。テーマは「廃棄物を言い訳にしないデザイン」。

モノ:ファクトリーの2階建ての棟屋をメイン会場とし、1階は主にワークショップスペース、2階では作品が展示された。展示台には約1m角のシャンプーのコンテナが用いられた。また、メイン会場棟の周囲に、トラックやコンテナなどが配され、インスタレーションや作品、また量り売りのマテリアルが展示された。

メイン会場の棟屋
メイン会場の棟屋

マテリアルは大きく分けると、中古品、売れ残りの在庫品(新品)、製品にする前の半製品や部品、製造工程で発生する不要部分の4種類になるのではないかと思う。それらを自由に作品の素材として用いる。

  • 電池の絶縁用に使用されるシートの打ち抜き後の廃棄物
    電池の絶縁用に使用されるシートの打ち抜き後の廃棄物
  • 人気のソーシャル・マテリアル、電子基盤
    人気のソーシャル・マテリアル、電子基盤
  • 釘のロール。同じ形の反復が大量に続くと面白く感じる
    釘のロール。同じ形の反復が大量に続くと面白く感じる

マテリアルの特性を生かした作品展示

色や触感、またその発生過程も含めて素材として面白いのがLANケーブルのバリだ。LANケーブルを製作する過程で、ケーブルのコーティング材のバリが直径約0.5mm程度の細さで発生するという。1本1本の長さは非常に長い。このマテリアルは、柔らかく、また軽く熱を加えると融着するので、成形が可能である。本イベントでも様々な形で利用されていた。

出展作品のうち、プロダクトとしての完成度が高いのは布モノだ。スイスの『FREITAG』の成功を見れば明らかなように、屋外使用のファブリックやシートベルト、エアバッグ等はバッグと相性が良い。また、未使用で持ち込まれた半製品素材(原反)はそのまま素材として縫製できるので、デザイン次第では「元廃棄物」というストーリーすらも必要ないような完成度のプロダクトを作ることができる。

一方、成型された樹脂の部品は一つ一つが面白い形状をしているのだが、これを転用してプロダクトを生み出すのはなかなか難易度が高いように感じられた。布の縫製や金属の溶接に比べて、接着剤での接着は少なからず「工作」感が出てしまう。レーザーカットなどで新たな部材をカスタマイズして組み合わせるなどの工夫が必要となる。会期中行われた飯山千里建築設計事務所によるワークショップ『マテリアルシティ あわせて街つくろう!』のように、工作の材料としての用途が最も適しているように感じられた。

LANケーブルのバリの山。寝るとなかなか気持ちがいい
LANケーブルのバリの山。寝るとなかなか気持ちがいい
大人も子供も夢中で作った、上海やドバイ顔負けのミニチュア建造物の都市。(写真提供:飯山千里建築設計事務所)
大人も子供も夢中で作った、上海やドバイ顔負けのミニチュア建造物の都市。(写真提供:飯山千里建築設計事務所)
  • LANケーブルのバリを熱で成形して作られた(と思われる)スリッパ『もじゃっぱ』。出展者のコメントには「気分はランラン」とある。(出展者:K)
    LANケーブルのバリを熱で成形して作られた(と思われる)スリッパ『もじゃっぱ』。出展者のコメントには「気分はランラン」とある。(出展者:K)
  • 住宅メーカーから排出される日除けから作られたバッグ『蝉 semi x NAKADAI sunroof』。(出展者・写真提供:蝉 semi)
    住宅メーカーから排出される日除けから作られたバッグ『蝉 semi x NAKADAI sunroof』。(出展者・写真提供:蝉 semi)
  • 写真右のスタイラス『N stylus』はペンの軸部品にレーザーカットしたアクリルのクリップを加えている。(出展者:金原佑樹/f.Labo+)
    写真右のスタイラス『N stylus』はペンの軸部品にレーザーカットしたアクリルのクリップを加えている。(出展者:金原佑樹/f.Labo+)

イベントとしてではなくビジネスとしての今後の課題

出展者のほとんどは、建築家やデザイナーの有志だ。各自マテリアルを購入し(大抵のものは材質ごとに100g単位での量り売り)、出展作品を作る。千葉工業大学山崎研究室、群馬県立女子大学、芝浦工業大学、情報科学芸術大学院大学チーム「f.Labo+」も参加していた。確かに大学が取り組むのにも適したテーマだ。

初参加となる筆者は、事前に見学をし、マテリアルを選びに何度か通い、出展の構想を練った結果、廃棄物を茶道具として「見立て」る、というテーマで茶席を設けることにした。マテリアルに手を加えることはせず、特殊な文脈の中に放り込むことでマテリアルの違った魅力を引き出せるのではないか、というアプローチの試みである。実験室等で使われるデシケーター(防湿庫)を棚として用い、蓋置、建水、花入も産廃マテリアルで見立てた。

イベントでは作品の販売も行われていたのだが、作品を購入する人よりも、作品を参考に自分で作ってみよう、とマテリアルを購入する人が多かったように思う。主催するナカダイにとってはマテリアルを創作素材として多くの人に買って使ってもらうことは喜ばしいことなのだろうが、作品を販売している出展者の側からすると不本意な状況だったのではないかと思う。今後の運営上の課題だろう。

トラックでのマテリアルの展示。購入もできる
トラックでのマテリアルの展示。購入もできる
電子部品メーカーから排出される銅コイルを結界とした茶席『HOGO』。(出展者:イトウジュン/.:.:.:)
電子部品メーカーから排出される銅コイルを結界とした茶席『HOGO』。(出展者:イトウジュン/.:.:.:)

未使用のモノを廃棄処分するのは「もったいない」ことだ。「コスト削減」が重視されるこの時代に、売ればお金になるものを捨てる、ということが何故起こるのか、疑問に思う方もいるかもしれない。未使用のモノが廃棄されるのはまさに「コスト削減」のためなのである。ほとんど売れないもの、いつ売れるかわからないものをきちんと保管しておくにはコストがかかるからだ。メーカーはそうならないように生産管理・調整をしているわけだが、新製品発売やモデルチェンジによる廃番などで、どうしても「不要な新品」は生じてしまう。そういったものをすくい上げて、デザインの力で還流させられるのか、デザイナーの力量が問われる。

  • 縫製ではなく熱溶着で処理されたステーショナリー『Air Pocket』。(出展者:早川和彦/MOM)
    縫製ではなく熱溶着で処理されたステーショナリー『Air Pocket』。(出展者:早川和彦/MOM)
  • チャイルドカー用のファブリックを使用したiPadケース『FB CASE』。(出展者:手島彰/Teshima Design Studio)
    チャイルドカー用のファブリックを使用したiPadケース『FB CASE』。(出展者:手島彰/Teshima Design Studio)
  • 郵便局内で使用されていた真鍮プレートを利用したルームプレート『Posting Number』。(出展者・写真提供:SOL style)
    郵便局内で使用されていた真鍮プレートを利用したルームプレート『Posting Number』。(出展者・写真提供:SOL style)

マテリアルから作品やプロダクトに転生させるために注ぎ込んだエネルギー以上の価値を生み出せるか、ということが重要になってくるだろう。「エネルギー」と「価値」は平たく言えば「お金」である。手間ひまかけてマテリアルを扱って、経済的にペイするのかどうか。一過性のイベントではなく、持続性のある経済活動として成立させることができるのか。私ももう少し試行錯誤してみたいと思っている。

Profile

イトウジュン

イトウジュン/インダストリアルデザイナー

東京大学大学院農学生命科学研究科修了。東京大学工学部建築学科卒。インハウスデザイナー経験を積み、2011年より.:.:.:として活動。グッドデザイン賞、GOOD DESIGN(米)、iF design award(独)、reddot design award(独)等受賞多数。
http://www.9dots-design.com/