トータルでそこにある状況をつくるのがデザインの役割-TSUGIインタビュー(2)

トータルでそこにある状況をつくるのがデザインの役割-TSUGIインタビュー(2)
1500年の歴史を持つ越前漆器や、眼鏡づくりの産地として知られる、福井県鯖江市東部の河和田(かわだ)地区。この「ものづくりのまち」に大阪から移住してきた6人組、デザイン+ものづくりユニット「TSUGI」をご存知だろうか?「支える・作る・売る」をキーワードに、地域や地場産業のブランディングを行う注目のクリエイティブカンパニーだ。河和田で活動するメーカーやクリエイターが工房を開放し、つくり手の思いや背景に直接触れることができる体験型マーケット「RENEW」の実行委員としても活動する、「TSUGI」の新山直広さんと寺田千夏さんに「RENEW」で伝えたかったこと、そして彼らの目指す未来についてお話を伺った。

トータルでそこにある状況のつくるのがデザインの役割

新山:「河和田アートキャンプ」があったから、移住するきっかけになってるのは間違いないですけど、それ以外にも色んな要素があって。やっぱり「ものづくり」がすごい集積しているからなんですね。漆器、和紙、刃物、焼き物、箪笥っていう、いわゆる国の伝統工芸指定みたいなのあるじゃないですか。それらが半径10km圏内にあって、それこそ眼鏡の製造は国内のシェア96%だったりとか、ぎゅぎゅっとコンパクトに詰まって地域全体がファクトリーみたいな感じで。

ただ、ブランディングかなかなかできていないと。というのもOEMをずっとやってきたので、どうしても遅れているところがあるんですよ、他の地域に比べてみると。でも時代の流れ的にOEMでそのまま行けるのかと言ったら、取引先が中国に移っているので危なかったりする。やっぱり自活する必要があるんですよね。その時にデザインが介入していくことできる。なんか偉そうに言ってますけど、そう感じるんですよね。

9E5A6159

僕はデザインはすごい素晴らしい世界だと思っていて、本当にこれからの時代はクリエイティブしかねえ!と断言できるぐらい思うんですよ。ただですね、一番風下にいるのもデザインだと思っていて、そもそも「ものづくり」のつくり手がいないと自分たちの存在価値がないですよね?そういう意味でも、いわゆるステレオタイプのデザイン事務所ではなくて、地方ならではのデザイン事務所のあり方を模索しなくちゃいけないなというのがあるから、こういう「RENEW」みたいなイベントとかを黒子でやるっていうのも大事な気がしています。

9E5A6069

体験型マーケット「RENEW」が見せたかったもの

新山:今回、「RENEW」で一番見せたかったポイントは、「厚み」というか多様性の有る「ものづくり」をしているところですね。けっこう自分たちで「漆器のまち」で言っちゃいがちなんですけど、深掘りすると同じ漆器でも戦い方が全然違うんですよ。

実は福井県は社長輩出率一位で、なんでかというと単に家族経営の中小企業が家内制手工業がめちゃめちゃあるからで。言ってみれば「俺が一番だぜ」っていう人の集まりなので、みんな違う戦い方をしている一種のダイバーシティーですよね。

色々な伝統工芸の街があるなかで、よくある枕言葉の「1500年の歴史が息づく伝統工芸の郷」みたいな表現してしまうと、それは間違いではないんだけど他にもあるんですよと伝えたい。輪島や京都とかとの差別化のポイントがどこにあるのか考えた時に、時代に合わせて知恵を絞って工夫をしてきた、したたかに「ものづくり」を考えてきた、そういう今までの土壌があるんですよね。そういうところが、これからの「ものづくり」のヒントになるんじゃないか?と思っていて。

9E5A6099

あとは「じぶんごと」っていうのがすごい大事。9月に「河和田くらしの祭典」というイベントがあって、それはネーミングから、ロゴとか、パンフレット、WEBとかのグラフィックツールに僕らは関わったんですけど、イベントの財源が補助金なんですよ。地方創生の一環で県内の市町村に補助金が投入されて、それを使っておもろいことせえ!みたいな(笑)。

そこで鯖江市で選ばれたのが河和田。いきなり補助金が入って「地域活性やー」とか言ってるんですけど、とはいえ財布の紐は県が握っているので、事務局である市職員も手探りになっちゃう。そうなると地域住民も受け身になって内発的に動けない。どうしても皆が「他人ごと」のような感じになっちゃうんですよね。まちの未来は住民自らが考えないといけないのに、「やれ行政が悪い」とかそういう話になっちゃうと生産性がないわけですよ。だからこそ持続可能なまちをつくっていくために行政に頼りっぱなしではなく、自分たちで考える「場」をちゃんとつくりたかった。

「RENEW」は予算があまりなかったんですよ。30万円ぐらい。別になかったらなかったでええわ!と思ってますけど、その代わりみんなから出展料を徴収するから「じぶんごと」にしてくださいと。ちゃんとペイできるように動いてくださいということを、理解してもらったうえでやるのが大事なステップかなって。これまではすぐに「補助金はあるのか?」という話になったりしてて、もうみんなして補助金漬けだったんですよ…(笑)。

次ページ:これまでを否定してもはじまらない、大事なのはいかに繋いでいくか