第302回 吉添裕人 (空間デザイナー・アーティスト)

[高橋美礼の推薦文]

形ある“もの”かどうかを問わず、さまざまな感覚への向き合い方がデザインの深度にあらわれる。

吉添裕人さんのクリエイションが想起させるのは、その深度だ。大型のスクリーンや手元で優しくゆらめく明かり、あるいはすでに完成されている製品を伝える商業的な場であっても、人がもつ感覚を優しく揺さぶりながら、いつのまにか強い印象を残している。

振り返れば2021年、コロナ禍に異例づくしの開催となったミラノサローネ会場で、ひときわ目を惹いたのが吉添さんの「hymn」だった。アンビエンテック社のブース設計まで手がけて最適な見せ方にも成功していたが、空間デザインにバックボーンがあると知り、納得した。これからも領域にとらわれない活動を広げてほしい。

高橋美礼(デザインジャーナリスト)

ミラノ・ドムスアカデミーにてマスターデザインコース修了後、フリーランスとして多領域のデザインにかかわりながら国内外のデザインを考察し、書籍や雑誌、ウェブ媒体での執筆、編集をおこなう。多摩美術大学芸術学科非常勤講師、法政大学デザイン工学部兼任講師。

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編集部からの推薦文
吉添さんにJDNで初登場いただいたのは、「LEXUS DESIGN AWARD」の受賞者インタビュー。2017年に、今回の記事でも紹介している「PIXEL」でグランプリを受賞した。当時の取材では、名前を出さないクライアントワークが多いと話していたが、近年ではイッセイ ミヤケや荒川技研工業、アンビエンテックなど名だたる企業とタッグを組んでいる。

ポータブル照明の「hymn」は、はじめて実物を見た際、火のゆらぎや光り方から、人類がはじめて火を見たときのような原始的な魅力を思い起こさせた。個人の作品はもちろん、展覧会のディレクターとしても魅力を増幅させている吉添さん。今後の多方面での活躍を楽しみにしている。
吉添裕人(空間デザイナー・アーティスト)

吉添裕人(空間デザイナー・アーティスト)

1986年生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。独立後、都市開発や商業施設開発等の空間デザインを主軸としたクライアントワークに従事。制作活動では日本の文化背景や宗教観と通ずる「変化」「動き」「時間」といった不完全で流動性のある事象を扱う。なかでも変容し続ける「光と影」の要素を軸に探究。すべての事物(素材)は光と影を瞬間的にかたちに留め、認知するための媒体であると捉え、その間に生じる現象と知覚の関係性を用いて制作を行う。HUBLOT DESIGN PRIZE 2022 Finalist、LEXUS DESIGN AWARD 2017グランプリなど受賞多数。京都芸術大学非常勤講師。

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