身体能力と感受性を拡張するパワードスーツ

車がパワードスーツにメタモルフォーズする。その時いったい何メートルになると想定するか、スケールも問題だった。


メタモルフォーズ

「人間が着ているなら2.5メートルくらいですが、そうすると実物大をつくって展示した場合に迫力が出ないし、車がそんなに小さくなるのもおかしい。でも4メートルのサイズそのままでは上半身がコックピットになってしまい、着ている感じになりません。人の体がむき出しで見えているとバイクに見えてしまうけれど、完全に着込んで体が見えなくなると、ロボットのようになる…考え込んだ末、車の特徴である広いスカイウィンドウに着目し、窓として生かすことにしてみました。

また、車の上下でシルバーと黒の2層になっている部分も明らかな特徴なので、パワードスーツの前と後ろで色を分けるデザインに落とし込みました。足もディテールをつけずに膨らみ感をもたせ、車の面質を表現しています。デュアリスそのもの、ではないんですが、Rの比率や膨らみとへこみの対比率を利用してイメージを近づけていった感じですね。

河森正治氏

車を見たまま、人の形に置き換えていったらどうなるんだろうというところから始めたので、デザイナーの方々と話をしたときには、車に忠実すぎるからもっとデザインとして突飛でいい、と言われましたね(笑)。ガチャンガチャンと動くようなロボットじゃなくて、変形から想起されるような、流体的にメタモルフォーズする形とスタイリングを考えていきました」

極端すぎるデザインなので戻してくれとオーダーされるケースが多い中、より大胆さを求められるのは珍しい。本来やりたかった方向に戻っていく感覚でデザインを進め、最終的に実物は3.5メートルになった。車よりかなり小さいが、立ち上がった姿が大きく見えるのは人間の目の錯覚によるものだ。


「自分がイメージするデュアリスのスーツは、走っているだけで外界の、たとえば草木の匂いや、動物を感知したり、鳥の声が聞こえたり、路面の状態にも敏感である、そういう身体の拡張です。運動機能として身体能力が拡張するだけではなく、密閉された車内でも走っているときの車外の情報を得ることができ、旅するとその情報がどんどん大きくなっていくようなものになればいいという話を、デザイナーの方々と交わしたことを覚えています。
攻撃力と防御力のためにだけ働く戦闘スーツではなく、感受性の拡張までイメージできるデザインを、自分自身でも求めていました」


ほぼ決定したデザインをもとに、細かい内部の機構や動きの構造を計算した設計図をひくのはCGで制作する場合でも必要なプロセスだ。


メタモルフォーズ

「それをやらないとデザインとはいえません。前からはシンプル、後からは複雑な機構が見えるようなデザインにしました。それは車の下から見た場合と同じイメージですね。車のヘッドライトやバックミラーなどの要素を盛り込みながら部分的に、肘などはぐるりと回転するような、人間離れした形にしたり、足も極端に長くしたりしています。
自分でもいちばんデュアリスらしさが出たのは、面の表現だと思っています。現物ではコンマ数ミリを変えれば違ってみせられる部分も、CGではもっと強調して影が落ちるようにしないと効果がないので、抑揚の付け方に差を出し、本物よりもデフォルメして膨らみやへこみを強調しています」


細部のデザインも含めてCGの担当者に渡し、モデリングがきたら指示を入れて戻す。

河森正治氏


「線で描くだけじゃむずかしい面の表現をみせていこうとか、その表現のどこを切り取るとおもしろいのか、考えるようになったのはこのプロジェクトが良い経験だったからでしょう。この直後に制作した『マクロス・フロンティア』のバルキリーにも影響していると思います。事実、アニメーション業界でもこれからはデジタルが主流になり、手で描くより細かい表現が可能になっていくのではないでしょうか」



つぎのページへ

「profile and works」




デザイン関連求人情報あります  エイクエント

デザイナーの皆様のご連絡をお待ちしています。


Copyright (c) 2008 Japan Design Net All rights reserved.
クリエイティブのタテ軸ヨコ軸 produced by AQUENT