キーワードは“面”
メカニックデザイナー、アニメ監督 河森正治氏


新しく日本で発売される車のプロモーション用モデルとしてパワードスーツを使ったイメージができないだろうか、と広告代理店から相談を受けた河森正治氏。


河森正治氏
河森正治氏

「コンペ次第で決まらないかもしれないけど、決まってから始めたんでは間に合わないので取りかかってほしい、という依頼でした。まずスケッチを提出し、CMコンペそのもののために準備。デュアリスでパワードスーツをつくるならどんな感じなのか、まだ勝手にスケッチしていた段階ですね。

その後、正式に決定したのでより具体的に描いた最初の提案は、乗り込み型でコックピットがあるものと、体の一部が外に出ているタイプの2案。完全に人間主体で、次にメカっぽくなったものから最終的に車を意識したものへとアイデアをふくらませていきました」


お互いにデザインの意図を共有するためにも、と直接、日産のデザイナーと会い、スケッチをもとに話し合った。

河森正治氏


「非常に印象的だったのが、一般的にブランドイメージを考えると、車の記号になる部分を残してほしいと言われると思い込んでいたのですがそうではありませんでした。自分もデザイナーなので共感するんですが、終わった仕事は飽きてしまっているというか(笑)、だから変えてみてほしい、と。たとえば日産のエンブレムが目立つところになくても構わない、という点なのですが、おもしろいなと思いましたね。



日産デュアリス

ただ、同じデザイン、クリエイティブといっても車のデザイナーと僕らとでは言語の違いがあるので、たとえば“面質”という感覚の意味を汲み取るのに時間が必要でした。アニメーションでは線で描いたり、CGで表現するので、面の質という感覚が弱いんです。でも車は車輪や乗客、エンジンスペースといった制約の中に新しさをつくり出すので、そういったちょっとした面の塊感とか質感、シルエットで個性を出している。そこに差がありました。同じことしゃべっているはずなんだけどどうも違うぞ(笑)と気づき、その差を理解してからはスムーズでしたね。ロボット系のCGでは、より映えるようにディティールアクセントをつけていきますが、そうではなくて微妙な面で表情をつけてほしい、と。デュアリスのデザインスケッチ類も見せていただき、シルエットのモーションの取り方やコンセプトの説明を受けて、おもちゃっぽくならないような形を検討しました」

車のパーツを全て盛り込もうとすると、子供っぽいおもちゃになってしまうからメタモルフォーゼで良いのではないか。そんな提案が生まれた。


「変形ではなくて、イメージが変容する手法で構わない。でもアイデンティティとなる部分はあくまでも面であってほしい、ということですね。確かに、実際に車を見ると面質に気を配っていることは明らかでした。面の処理はていねいで、全体のフォルムの印象はスクエアなんですが細かい部分の面にこだわっている。くぼみをつけたり、エッヂを緩やかにつなげたり、同種の他車とクオリティが違うのはこうした理由があったのかと、すごく興味深かったです。


スケッチ

車というのはほぼ直方体の大きな面をたくさんもっていて、細かい面のうねりなどが表現しやすい。でもパワードスーツを考えたとき、人間にはその大きな面がないので表現をつなげにくいんです。人間の体は1個1個のパーツが細くて小さくてブロック構造になり、節でつながっているので、ひとつの面を表現するには全く向かないんですね。その条件の中で表現しなければならないので、いろいろ考えた結果、肩から胸にかけてできるだけ大きな面をとろうと思い至りました。
車のパーツ、たとえばヘッドライト部分を顔に据えるとトランスフォーマーに見えてしまうので腕に配置してみたら、面を表現できるなと分かりました。つまり、パワードスーツにどう大きな面をつくり、つなげていくか。そこを模索していきました」



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「interview 4 / 身体能力と感受性を拡張するパワードスーツ」




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