アイデアはプロセスで発展させる
クリエイティブディレクター 田中耕一郎氏


2006年春、ユニクロ社内にできた「新メディア情報発信チーム」から声をかけられ、ちょうどその1週間前に転属してきたばかりの勝部健太郎氏とともに、新たなプロジェクトに取り組むことになった田中耕一郎氏。
そこで最初に立ち上げたのが「ユニクロミックスプレイ」。身体表現と服をつなぐ要素としてダンス表現が用いられ、インタラクティブに楽しめる広告として評判を呼んだ。


田中耕一郎氏
田中耕一郎氏

「新メディア発信チームという名前の中にミッションが含まれていますよね。ウェブ上で情報が拡散したり継続していくような仕組みをつくるということ。それが『ユニクロミックスプレイ』ではまだ達成できていませんでした。ウェブをつくることと、ウェブ上で新しいメディアをつくることは全く違いますから。
何かアイデアがあったらもっていきます、ということになっていて実はしばらく時間が空いていました。メディアや広告的視点、表現などを隔てなくいろいろ発想してみましたね」

天板をホワイトボード仕様にした打ち合わせテーブルで、頭に思い浮かんだキーワードを書き連ね、つながりを探っていく。

「ユニクロとメディアをつなぐ。ネットを介してユーザーをユニクロに引き込まないといけないわけだから、必然的にメディアを考えないといけないわけですよね。どこのメディアを使えば何か新しい枠組みを作れるのか、どういう表現の軸を作っていけばユニクロらしさを出せるのか。1回目はYoutubeを利用しましたから、次はそれを変えたいじゃないですか。
もっとダイレクトに、ユニクロから発信して戻って来る仕組みをソーシャルメディア上に作ることを考えると、ブログパーツだったんですね。勝部さんとの打ち合わせでもブログパーツっていうのはもう議題として上がっていたんですが、まだクリアじゃなかった。
様々なブログをずっと見ていると、人の行動、感情が埋まっているのが分かってきます。そこに表れる、人間的な感情にひっかかるものは何だろうと考えながら、同時に、時計が気になっていたんですよね。表現として時計が一番ブログという環境に溶け込んでいる、と」


しかし、時計であれば何でもいいわけではもちろんない。ひとつのデザインやアートとして感知できる価値観が見出せるような時計がブログメディア上になかった点に着目した。


「極論をいうと、ブログには美術館で永久保存に指定されたプロダクトがもつアート性や高いデザイン性を備えた時計がありません。時計というひとつの作品を作りたいと思ったんです。
だからまず設定したのが、時計。時計とダンスと音とをつなげないか、とイメージしたときに、秒のリズムが出てきました。で、秒のリズムはダンスになるよな、と。でもまだはっきりしないまま、ウーンと唸っていたら、『ユニクロック』という言葉が出てきたんです。ミュージック・ダンス・クロックで『ユニクロック』! ビビッときました(笑)。

ユニクロックという言葉の伝染力があるなあと感じたのと、ひとつの言葉に圧縮される何かが詰まっていると直感したんですね。とりあえず、『永遠に続くダンス時計』って書いて、『ブログというオンラインのメディア、そこから広がっていく構造』。『これはひとつのアプリケーションで、店舗の壁に時計として設置し、屋外広告やCMまで拡張できる』というプレゼンをしました。企画書は2枚。あとはバーッと喋るだけ」


勝部氏への提案は実際、まるで形のみえないイメージを伝えるようなもの。


田中耕一郎氏
「そのときは勝部さんの頭にはきっと『?』マークがいっぱい浮かんでいましたよね(笑)。クライアントとしてプレゼンをジャッジする立場では、こんなに表現が見えていない企画にゴーを出すのは、非常に大変だったと思います。
でも、僕はこのプロジェクトで一番重要な視点は、ブランドとユーザーをダイレクトに結ぶ新しいメディアを作り、世界中に拡散し、継続的に伝えていくというミッション。それを実現する方法があったら完成形が分からなくてもスタートを切れる、そんな関係性がないとできなかったと思っています。勝部さんじゃないとダメでしたね」


具体的なアイデアや設計図に基づきオペレーションしていくというプロセスではなく、試行錯誤しながら作り上げるのが田中氏の手法だ。


「だから公開ギリギリまでアイデアも完成していません。プロセスの中で発展させ、解像度を上げるという感じですね。それは僕だけが発展させるんじゃなく、いろんなジャンルの人たちが加わり、映像、音楽、アプリケーションという視点、あるいはインテグレイテッドキャンペーンというシナリオの視点、PRとしてメディア側がどう取り上げてもらうかという視点、いろいろな方向から発展させます。ゴーサインが出てからスタッフィングに入りますが、そのメンバー次第で発展の仕方も変わってくるものです」



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「interview 4 / 表現の芯を射ぬくクリエイターのスタッフィングも、アイデアのひとつ」




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