5秒ごとに切り替わるデジタル時計表示とダンス映像。音楽と重なり、永遠に時を刻み続けるかのごとくループする、ユニクロの服を着て踊る少女4人につい見入ってしまう「ユニクロック」。アパレルメーカーとして常に時代にフィットした感性で各種プロモーションを仕掛けるユニクロが、世界へ発信したブログパーツである。
2007年6月に第1弾を発表すると瞬く間にウェブ上で話題となり、ついには世界最高峰の広告賞「カンヌ国際広告祭(通称:Cannes Lions)」の2部門でグランプリ。すでにインタラクティブ部門でグランプリを受賞していた「One Show」「CLIO AWARDS」とあわせて世界三大広告賞を総なめ。快挙!という言葉でも足りない前代未聞の事件となった。
二人のキーパーソンから、その全く新しいメディアを立ち上げるに至った背景と、完成までの試行錯誤に迫ってみたい。


クリエイティブの力が集まったとき、足し算ではなくかけ算になる
ユニクロ マーケティング部 勝部健太郎氏


もともとユニクロのマーケティング部でマスメディアのキャンペーン担当していた勝部氏が、情報発信やプロモーション面をより強化し、マスメディア以外の媒体で新規顧客開拓のために発足した「新メディア情報発信チーム」を任されたのは2006年8月のこと。


勝部健太郎氏
勝部健太郎氏

「それまで製品の単品ベースで見せていたやり方を、トータルコーディネートとしてアピールしていこうという中で、『ユニクロミックス』サイトを立ち上げました。でもアクセスを増やすにはバナー広告やリスティング広告などが必要。こうした手法ではコストもかかるし期間も限定されているので継続的な効果は期待できない、自社独自のメディアが必要だと感じていました」

低コストで継続して情報発信できること、顧客の手元に直接届けられること。そういった可能性をもつブログパーツを、ユニクロのメディアにできるのでは、というアイデアが生まれた。

「ブログユーザーが使いたくなるようなパーツを提供していく、という形が見えてきました。ブログユーザーにとって有効な時計の機能をもたせようとか、ユニクロの製品を見せる手法のひとつとして身体表現で服を見せようとか。でも、ユーザーがブログパーツを貼り付けたくなるためには広告色が強過ぎてはだめだろうと。
いくら自社メディアを持ちたいといっても、広告が前面に出てきては誰も相手にしてくれないだろうということで、いかにコンテンツメディアとして提供できるかという視点がありました」




グローバル化も視野にいれ、世界中の誰が見ても同じように魅力を感じられるような軸で、クリエイティブディレクター田中耕一郎氏らとディスカッションを重ねるうちに浮かび上がったのが「ユニクロック」だった。


「うまくいく自信は当初、全くありませんでしたし(笑)、予測もつきませんでした」

「田中耕一郎さんから、こういう感じとかこういうキャスティングと音楽で、と提案を受けるんですがまるで想像つかないというか。ただ、メディアをつくる視点やコンセプトについては同意できるものだったし、田中さんとは『ユニクロミックス』の頃から一緒に仕事をして感覚もわかっていたので、やろうと踏み切った。たぶん、僕が普通の企業の普通のポストにいたらGOを出さなかったかもしれません」


今までに存在していない全く新しい表現を制作するためには、社内決裁が壁となるケースは少なくない。しかし「ユニクロック」ではその壁が少なかったことが功を奏したといえる。



ブログパーツ(SMALL)
「コンセプトやメリットのほかに、具体論になると好き嫌いが大きくなってきますので、まずは総論としてOKの承認を得ておきました。こういった企画というのは想像しがたいもの、誰も見たことがないものなので、概要の部分で同意を得て、具体例は後出しになりますよね。企画の骨格と、ミュージック・ダンス・クロックといったキーワードがあり、その後で具体化していった感じです
承認までのレイヤーが増えれば増えるほど、企画の純度って落ちていくと思うんですよね。ただ、ユニクロの体制はトップまでの距離がとても近い状況なので、純度が保てたまま世に出せたと思っています」


実際のところ、完成するまで具体的な形が見えてはいなかった。


「初めて形になったとき、特にWORLD UNIQLOCK.を見た時には良い意味でぞっとしました(笑)! これはすごい、いける、ぜったい勝てるなって。
コンセプトも優れていますが、ミリ単位で細部がきちんとチューニングされたというか、つまり最後まで手を抜かないっていう当たり前のことなんですが、全体をアッセンブリーしたときに強い核としてみえる、スピードが早い遅いといったこと、1ミリのデザイン精度とか、コンセプトを最後まで貫き通すことであるとか、あらゆることまで含めてチューニングできていました」


2007年6月に第1弾、10月から第2弾、2008年4月から第3弾が次々と配布されるに至った。


勝部健太郎氏

「僕らがクリエイターに望むのはコミットメントです。僕らと一緒に、やり切る、考え抜いてくれることですね。そして、それぞれが才能を発揮すると同時に互いの領域に関与していくことも必要です。僕は企業の中にいる人間ですが、クリエイティブ領域にもガンガン口を出すし、外部の仲間も商業的なコアの部分に向かって鋭く領域を浸食し、そこを磨き上げていっています。
僕も『これじゃまったくピンとこないんで困るんですけど』って言ったりしますし、みんな本音で言うから、一瞬むかっとくることもありますけど(笑)結果としてうまくいけばそれがいい。
お互い得るべきメリットがあるからコミットできるんです。クリエイターにとってみれば、僕らと仕事をすると自由度の高いクリエイティブを発揮でき、世の中でも高く評価される。僕らにとっては、そういうプロジェクトを通じて、企業として驚くべきプレゼンテーションが可能になり、コンテンツを提供できるというメリットがある。
互いが際限までいくことによってメリットをバッティングしない形で享受できるっていう関係性、それがビジネスなんです。逆にそうでなければ成り立たない。僕らはその水準を高く見据え、企業として世界で突き抜けることを目指していきたいし、クリエイターサイドとしても世界一になりたいという思いがあるから、こういう関係性が生まれるんじゃないでしょうか。
そういった個々の才能がぐっと集まったときに、クリエイティブは足し算じゃなくかけ算になると思っています」



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「interview 2 / グローバルな視点から仕掛けるバズ・メイキング」




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