駅舎写真:松岡満男


新しい街の一部となるために
新高島駅:UG都市建築 山下昌彦氏 岡松敦子氏


駅舎の仕上げは、構造上、消防上の諸問題から、実績ある建材に選択肢が限られていたため、似通った雰囲気になることが多かった。


山下昌彦氏

山下昌彦氏(以下Y)「たとえば、レールから巻き上がる鉄の粉塵が赤錆にならないよう、粉塵が付着しにくい壁材に限定されるし、床材は滑らず、磨耗しにくいものでなければならない。地下駅だから必ず水が出るので、その対策は万全でなければならないし、電車の出入りに伴う風圧に耐える強度も必要です。
だから下地のディーテイル、素材を含め建材が非常に限られてくるんです。経験値がなくてどうなるかわからない素材は避けられてしまう。
新しく提案した建材は現地であらゆる実験をして導入できるか検討するのですが、いくつも却下されましたね。
土木業界の方たちは馴れているから、危ない素材や危ない構造には手をださないんです。どこかの駅で使ったものをまた別の駅で使ってきたということも、日本の駅は同じような画一的なデザインばかりになってしまった原因かもしれませんね。
建築家である我々はそこへ入ろうとしたわけです。
岡松も次から次へと新しい建材とアイデアを出していく。先方にとっては実験もせずに提案ばかりするなと怒りますよ。ケンカです(笑)。でもね、ケンカばかりしていると相手も、なぜそういうことを言い出すのか、手ごわいなあと思ってくるんですよ。で、しまいには“こいつらは良い物を完成させようとしてるんだな”と思ってもらえるようになりましたね」


新高島駅

岡松敦子氏(以下O)「最終案をつくるだけで丸2年かかりました。でも最後には鉄道運輸の方も強い味方になってくださり、建築(駅の内装工事、上屋などの意味)が使うのは全体予算の1%なんだから好きにやれ! と。でもその1%のために死にものぐるいでやらないと認められない、1%のために駅はつまらないものになってしまうこともある、とおっしゃいましたね」

「前例が無い」という壁にぶつかりながらも、全面ガラスの出入り口など、新高島でなければできなかったデザインも実現した。
街の顔として機能するよう、照明計画に発光ダイオードを利用したこともその例だ。昼と夜で光の色を変える演出で表情を生み出している。


岡松敦子氏
O「LEDも今でこそ広く知られていますが、当時は新しい光源でしたので、公共建築で採用するにはイニシャルコストが高いと難色を示されました。実験を繰り返し、モックアップで何度もプレゼンして許可を得るのが大変でしたね。 横浜高速鉄道の太田さんのように意識の高い方々に恵まれたこともあり、何もなかった周辺に若者達も集まるような、記念写真を撮りたくなるような、雰囲気を作り上げてほしいと期待されたのだと思います。半分プレッシャーであり、楽しみでもあるお題をいただいたので、それに対してライティングやライトアップの演出を提案しました」

Y「駅には、将来いろいろな需要が考えられる。そうしたものにフレキシブルに対応できる空間、どんなものがやってきても受容できる駅舎でなければなりません。公共空間なので、公共性によって縛られる部分と同時に、まちの玄関として多目的に使われることになる。既存の駅舎はそのバリエーションが著しく少ないということが、今回のプロジェクトで分かりました。
新高島はそういう意味ではかなりの許容が与えられ、革新的な駅になったと思っています」


O「土木だけではなく、電気関係、通信関係の方々にもこちらの意図が伝わり、次第に『これでいいのか、こういう方がいいんじゃないか』と聞いてきてくれる、それが現場冥利に尽きるといいますか(笑)。
路線が開業してからも、みなとみらい線に乗り合わせた方が、新高島駅を通過する際に車窓からホームを見返す姿を見た時が何より、関われてよかったと思う瞬間です」



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