駅舎写真:松岡満男


職人技と現場の理解が実現のカギ
新高島駅:UG都市建築 山下昌彦氏 岡松敦子氏


埋め立て地に位置し、地上には既存の街がなかった新高島駅。
みなとみらい線の計画が進む過程で追加になった駅で、基本計画の着手も他の駅よりも1年遅れて1995年からのスタートだった。
設計を担当することになったのは、デザイン委員会のメンバーだったことから、その趣旨を継承するには適任ということで選出されたUG都市建築である。


山下昌彦氏
山下昌彦氏

山下昌彦氏(以下Y)「土木側が先行したプロジェクトであるのは他駅と共通の特徴です。太田さん(当時・横浜高速鉄道、現・横浜新都市交通代表取締役社長太田浩雄氏)が尽力されたことで、巨大な駅舎が実現したのですが、どの駅も深さがあるから自然光を取り込んで明るくするために天井に穴を開けたいと提案する建築家が多かったんですね。しかしどの駅も躯体は既にでき上がっていて、それができなかった。
吹き抜け部分は最初から太田さんが用意してくださっていたので、それをどう活かすかというところでしたね。コンセプトを作っては覆され、というのを繰り返しながら何年もかかって進めていきました」


他駅と大きく異なる点はもうひとつ、周辺に既存の市街がなかったこと。新高島駅の駅舎がこれから開発が始まる街のイメージづくりに果たす役割も大きいと考えられた。


新高島駅


Y「今後、新しい街が生まれるだろうということで、駅舎には未来感を持たせたシャープでスピード感を感じるデザインとしました。また海も近いし、水や波が駅舎のデザインモチーフとして外せないと思いましたね。そこで、地上出入口の上屋(うわや)は水面を思わせるガラス屋根にしたわけです。
実は、最初はもっと波頭のような斜め形状が強かったのですが、横浜市のデザイン委員会からあまり街の将来に対して形態的に印象の強い主張のものにしてほしくないという注文がありまして…しょうがなく(笑)ニュートラルな形にしました」

結果、地下駅に少しでも多く自然光を入れ、将来周辺に予測される建築と対峙しないようなシンプルで透明な箱形デザインとなった。素材には、鉄、ガラス、コンクリート、アルミパネルを使用。ユニークなのが、鋼材を立体的な格子状に加工しそれを構造体としてとしている点。

Y「クライアントの一人である鉄道建設公団の担当課長がとても理解のある方で、最後に出した案は若干費用がかさむものでしたが、良いデザインだからと応援してくれました。
スチール材で餅網のようにしようと言ったのは僕ですが、そのディテールを考えた岡松は苦労したと思いますよ。試行錯誤から編み出された形状です」


岡松敦子氏
岡松敦子氏

岡松敦子氏(以下O)「費用がかかるというのもありますが、一番大変なのは職人さんの手がなければできないということです。ましてや、どこの鉄工所でも作れるものではありません。
構造は、スチールで25ミリ角材の立体トラス。簡単に言うと、格子を2枚重ねて繋いだものです」
Y「こんなに大きな形で作ったことはありませんので、構造計算が非常に難解でした。今川憲英さんという構造設計者の第一人者にしかできないだろうということで、なんとかお願いし、1本1本データをコンピュータに入れて全体の構造を解析していただきました。確認申請書が認められるかどうか、血のにじむような努力をしてくれまして…」
O「トラス部分は飾りではなく柱であり梁ですが、こんな構造は鉄道運輸機構の方は誰も見たことがないので、大丈夫だと理解してもらうために説得材料を用意し、承認を得るために何度も足を運びました」


この立体トラスで間口約7メートル、高さ約2.7〜3.7メートル、奥行き約2メートルの構造体を作り、天井と左右の壁とする。これを計11組配置して、出入り口の上屋を作った。


構造体の模型
構造体の模型


もちろん製作現場では苦労の連続である。

O「今川さんの紹介で、北海道の旭川にある特殊鋼構造物施工の田島工業という鉄工所でしか作れない、ということがわかり、すべてそこにお願いしました。鉄工所といっても、職人技です。角材をひとつずつ溶接するわけにはいきませんから、鉄工所の方々も夢中になってくれて、どうやったらいいかという実験パターンをいくつも作ってくれました。
最終的に、厚さ25mmの鉄板をクッキーの型押しのようにくり抜いて格子状にしました。外側と内側をつなぐ角材はすべて溶接していますが、抜いた部分と変わらず仕上げる手技はすばらしいものです。職人さんたちも関われてよかったと言ってくださったことが、我々にも励みになったと思います」



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「interview 4 / 新しい街の一部となるために」




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