駅舎写真:松岡満男

未来感を表現するシンプルなデザイン
馬車道駅 旅客ベンチ:waazwiz 小澤輝高氏


「古いものの中に表れる未来」という内藤廣氏のイメージからリクエストされた、馬車道駅の透明なアクリル製の旅客ベンチ。
日頃から共同設計を行うことが多いカッシーナ・イクスシーの堀尾俊彰氏がデザインを担当、制作は手仕事による質の高いアクリル製品を生産することで名高い、ワーズウィズが手がけている。


小澤輝高氏
小澤輝高氏
「内藤さんからは『透明でカッコイイ椅子を』という抽象的な注文でした。我々とカッシーナ・イクスシーの堀尾さんとで、安全性が高くてシンプルでホームのベンチとして機能するものを追求していかなければ、と受けとめました。
同じ透明といってもポリカーボネートとアクリルでは全く違います。レンガ壁のある馬車道駅のイメージに合うのは何かと考えたら、絶対にアクリルの透明感しかないわけで、それでいて公共のものですから強度と安全性は必須です」


強度、可燃性、コスト等の面から検討した結果、25ミリのアクリル樹脂の厚板を単純に折り曲げて加工するシンプルなデザインにたどりついた。


肘掛け付きの試作
馬車道駅のホームに設置された椅子
「型は用意しますが、すべて手作業です。アクリルのシートを作って裁断し、板の状態から曲げながら成形、応力で跳ね上がった端部分と角をさらに裁断し、アールをとる、穴を開ける、全体を磨く、という工程を経て1脚が完成します。磨く工程も、いくつか段階を重ねて透明に仕上げます。アクリルは呼吸をする素材なので水分が含まれているんですよ。その日の気温や湿度が違えば成形の度合いも変わってくるので調整しながら、熱を加えて水分を飛ばしてから作業しようだとか、状態によっての工夫が必要になりますね。
最終段階でアニールという熱処理をすることで分子が均一になり、安定してくるので、使用している状態で大きく形状が変化してくることはありません」


最大の問題となる強度については、ほぼ完成形に近い試作でテストを繰り返し行った。


「デザインについてはほぼ1回でOKをもらいました。ただ、公共のものということで、強度テストは通常の家具の10倍くらい実施しましたよ。たとえば通常なら5000回くらいの繰り返しテストも50000回やるし、砂袋を落としてみるテストも何万回とする。なかなか試験機をもっているところが少なく、甲府や横浜などいくつかの試験場を回って、とにかく念には念をいれてテストしました。実際に使用している状況でテストしなければ意味がありませんから、プラットホームと同じようにスチールボルトを締め、モルタルに埋まっている形を作ってのテストです。
3パターンのテストに、それぞれ1カ月かかりました。たとえば破壊テストは最後に試験機がこの椅子に耐えられなくなって(笑)。1.7トンの加重をかけて、それ以上は試験機がかなわなくなって、やっと安心できましたね」


ただ、駅構内での設置には立ち会うことができず、後日、微調整でそれぞれ独立したベンチを整列させている。


「モルタルの下20センチくらいまで埋まっています。基準のスケールを施工業者にお渡ししたんですけれど、設置のときに微妙にずれてしまうんですよね。よくみると歪んでいたり、斜めになってしまっているのを調整するのがすごく大変でした。本来ならスムーズにできるのですが、土台を埋め込んでからなので、ちょっとしたレベルや他との並び具合が気になってしまいます。
アクリルを挟む鉄と鉄の隙間に紙を入れたりアクリルを差したときに少し斜めにしたり、塩ビシート1枚を下に挟んだり上をぐっと抑えたりすることで調整しました。
ひとり1台椅子を支えて、それを横から見ながら指示を出して調整していくんです。地味な作業ですが人手も必要だから結構、大変(笑)」


副都心線のアクリル椅子
副都心線のアクリル椅子

2008年6月に開業する東京メトロ副都心線の9駅にも、各4つのアクリル椅子を設置することになった。みなとみらい線での経験が役立っている。

「欲を言い出せばきりがありませんが、きちんとしたものを作ろうということだけは常に考えています。アクリルは傷がつけば曇ってきますけど、僕らのところでは一般よりも高い圧を表面にかけた板を使っているので、多少は傷付きにくいはずです。みなとみらい線も一度磨き作業に入りピカピカになりました。名前を彫ったり傷をつけるイタズラもありましたけど、それも見えなくなりましたよ。メンテナンスが可能なところもアクリルの良いところです。リサイクルもできますから、公共の場で使うのに適した素材ではないでしょうか」



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