駅舎写真:松岡満男


従来通りではない駅舎づくりの発想と、建築家の起用

みなとみらい線の駅舎を特徴づけなければならない理由の一つに、東急東横線との区別の明確化がある。従来東急東横線がカバーしてきたエリアに手を入れ、元町中華街やみなとみらい地区まで延長するにあたり、相互直通運転であること、東急線ではないことを利用者が直感的に認識できるように、駅としての個性が必要だった。


太田浩雄氏

O「地下にいると分かりづらいから、乗っていてそのまま繋がっていても『あれ何か違う』と感じてもらえるようにね。それから料金も、ひと駅分でもお金を払って乗ってもらう価値のある場所にしたかった。
深いし広いから、地盤も悪くなって、土圧(どあつ、構造物にかかる土の圧力)も考慮し、壁もものすごく厚くしなくてはならない。かといって従来通りにしてはつまらない。たとえば、スラブ(構造上の床)をとってしまったらどういうふうになるかな、とアイデアを巡らせていましたから、建築家には玄人好みに作ってもらいたいなと思っていましたね」


単なる乗降機能以上を提供する空間を求め、また、横浜都心部の地区を代表する路線として特色を出すことも課題だった。


Y「新高島駅以外の躯体が出来た頃に現場に行き、見たこともない巨大な地下空間なんだけど、一番似ているなと感じたのが美術館でした。長いトンネルがあって、ばかでかく、コンクリートで固めただけの何もない空間でね。それを建築家たちに料理してみろ、どういう料理ができあがってくるか楽しみにしている、と差し出された感じです」


O「建築家はみんな無茶を言いますよ。内藤廣さんのように、地下鉄の構造物の天井に穴を開けてトップライトにしろとかね(笑)、そういう条件的に厳しい発想は土木からだと出てこない。内藤さんもおっしゃったように本来ならば初期段階から関わってもらうのが理想だけど、認可を下す国と対峙するのは非常に苦しい部分だからね」


当時まだ土木事業とは縁のなかった建築家たちの発案は、良くも悪くも業界内の常識にとらわれなかったが、同時に、実現までの難題を生む要因でもあった。


O「一番基準にされるのが前例なんですよ。前にやったことがあれば問題ないわけ。全然違うものだと認可していいかどうかの判断基準がないから、従来から続いている小さくて効率の良い駅にすべし、という価値観が残る。今までなかったものを作ろうとするときに、どう国の認可をとるか、前との整合性をどうとるのか、そこが苦しみですよ」


山下昌彦氏

Y「現場の当事者もおもしろいと賛同してくれる人はいます。でも年月が経つと不可能になることもでてくる。いくつかあるうちのほとんどがダメになってひとつだけ残ったとしても、最後はなぜか潰されるんですよ。その辺のシステムがややこしい」

O「建築家を起用したのは大正解でしたよ。でも普通の建築を作るのとわけが違うから、土木がやってきたのには理由があったわけ。電車通過時の風圧もあるし、地下水も吹き出る、線路と車輪、ブレーキ等の粉塵が飛ぶ。メンテナンスも大切だしね。内藤さんが提案したように、天井に穴をあけるのは地上の建築だったら普通だけど、土木の世界では針みたいな穴をあけるだけでも大騒ぎですよ。土木の人間からすれば、なんだこいつら何にも知らないってことになる。異分野がコラボレートするのは、制約の中でやるわけだから大変なことですよ。何を言い出すんだということはたくさんあった(笑)」


2002年〜03年の建築工事ではデザイン監修業務を各駅設計者が行ったが、これは業界において前例のない状況だ。


O「構内サインのレイアウトはどこへどれくらいの大きさがいいかということなんかも、これだけ空間が大きいと従来とは違ってくる。デザイナーは駅ごとにいるけれど共通にしたい事項はたくさんある。個別性と共通性をだれがどこまで見るかということが、難しい点でもありました。我々は地下の構造体をわかっているけれど、初めての人にはどこに何があればいいのか判断できず、予測できないことも起こりましたよ」


山下氏と太田氏

Y「私の立場では太田さんってすげえなって(笑)思っていたから、ただただ嬉しかったですね。太田さんのように、土木と建築による地下鉄線の建設を長い時間軸でとらえて達成させた人を他に知りません。我々がここでやったことというのは、太田さんの力による大きなものにちょっと付け加えただけのことのように思っています。
単に発想がいいとかみんなを巻き込んだとか、そういうことではないし、プロセス自体が通常の建築やデザインとまるっきり違う。上にいるのが太田さんのような人じゃなかったら、もっとみんな楽で見入りの良い仕事をしたくなったはずだと思いますよ、正直なところ(笑)。太田さんがいたから関わった、という人も多かったはずです」



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