駅舎写真:松岡満男

デザイン委員会の発足

地下駅としては常識外のスケールを持つ躯体を得て、横浜らしい魅力を備えた駅舎の開発が進んだ。さらに個性的な建築設計の位置づけを明確し、実施への道筋をつけるために「デザイン委員会」も発足させた。


Y「まず太田さんが、躯体=駅そのものを大きくしようと発想されたんですよ。諸条件により掘り下げる部分が深いから、小さく埋め戻しをせず、堀った分を大きく使おう、と。
みなとみらい駅みたいに穴を開けちゃって、既存のビルとくっつけて駅から見えるようにしたりね。そういう躯体を太田さんはほとんどお一人でどんどん作ってしまった。表現は悪いかもしれませんが、ある意味での蛮勇だと言えます。それを許した上層部に支えられていたとはいっても、孤独な戦いだったと思います」


山下氏と太田氏
山下氏と太田氏

O「地下駅の空間を他の用途にも使いましょう、というのがあったわけ。通過するだけじゃなくて、商売やイベントに利用できるでしょうと。
提案に対しては、音がうるさいとか、ホコリがすごいとか、文句はたくさんありましたし、駅の構造物はすべて国の認可が必要なものですから、当時だと、建設省、運輸省の認可をとらなければいけなかった。だから誰も手を付けられなかった、という事情が大きく立ちはだかってましたね。私自身、書類をぶん投げられたこともあるからね! 『こんな大きいものを作りたいだなんて、広いスペースとっておいて中を吹き抜けにして、税金の無駄遣いだっ』てね。
第一関門は国の認可をどうクリアするかということ。従来形のボックスのような駅に戻そうと一時は考えたこともありました。
建設省に頭を下げまくって…。それで『やりたいのはわかった。道路側のメンツも立てろ、どういうメリットがあるのか提示しろ』というところまでこぎ着けた。じゃあせっかく掘った地下スペースがあるなら、そこに地下駐車場を併設する案を当時の建設省に申し出る、と。それで元町・中華街駅をはじめ個性的な各駅を実現することになりました」


Y「今は20数年前のセクショナリズムほどではありませんが、当時はきつかった。こういうおもしろいものを作るのにどれだけの労力を要したことか。逃げたくなる状況で、何十年も向き合ってきましたよね」


O「何かやろうというときには、汗かかないと。汗かいてまでのやる気があるかどうか。そこなんだよ。それがなきゃ。ちょっと言われて辞めちゃうならやるなってことだよね。必死になって確保しても、その後黙っていると無駄になってしまう。
深く掘った部分すべてを有効活用するには、その意図を分かってくれる建築家でないと扱えないという確信はありました。少なくとも、遊び心は土木よりも建築の方がある」


広大な地下空間

Y「いままでの土木分野にいる建築設計者の多くは、小さな空間で効率良く駅を作ることに馴れているから、太田さんが用意した大きな駅を活かす建築ができない。だから外部の建築家たちに依頼しようと考えたわけです。
求められた素質のひとつは、旧体制にとらわれない発想をもっていること。もうひとつは、プロダクトデザインも手がけるし、さまざまな条件で新しいものを作り出す力をもっている、本当の意味でのデザイナーであり、鍛えられている建築家だということ」


既成概念を取り外して新しい駅を作るためには建築家ありき、だった。照明デザイナー、サインデザイナーも必要だと考え、1993年にさまざまな分野の有識者からなるデザイン委員会を設置。駅周辺の街づくりとの連携、駅の特徴づくり、コスト等を管理することとなった。


Y「デザイン委員会では、その建築家たちをオーソライズしておかないと、またゼロに戻されてしまうよ、と太田さんは気にされてましたね」


O「普通の建築よりも土木、つまり地下鉄の建築は年月がかかる。どんなに早くても7〜8年はかかります。我々のようなサラリーマンは組織の中でひとつの部署にそこまで長くいられないわけだ。内部異動があるし、今回の組織は第三セクターだからいわば寄せ集めのような、混成部隊みたいなものだったから。
だからこそ、コンセプトを貫くのが一番むずかしかった。
私は最初8年いて、最後の5年もいたけれどその間5年は離れていたんですよ。それだけ長年いてもその間に計画が変わるんだから! 戻ってくるのがあと1年遅かったら、今の状態には出来ていなかったでしょう」


建築家はコンペ形式ではなく、指名によって依頼した。


太田浩雄氏

O「当時私もまだ40代だったので、あんまり大御所の建築家先生だとこちらが何も言えなくなるなとは思ったね。ただ、40代前後の建築家が良くても、引き受けてもらえるかどうか、依頼したときには全くわかりませんでしたよ。でも結果的に、全員が参加してくれることになり、一人一駅をお願いした。
若手でセンスが良くて、意欲のある建築家をリストアップし、こういう新しい試みに興味を示して取り組んでくれる人にお願いしたのは15年以上前のことだけど、その人たちがいまみんな活躍していることをみれば、アタリ(笑)でしたね」



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「interview 3 / 従来通りではない駅舎づくりの発想と、建築家の起用」




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