駅舎写真:松岡満男

2004年2月に開業した「みなとみらい線(正式名称・みなとみらい21線)」は、横浜駅から元町・中華街駅を結び、東急東横線と相互直通運転を行う地下鉄。
横浜から関内までの港湾地域を埋め立てた、みなとみらい21地区の開発計画と同じ1981年から横浜市新総合計画において策定された、足掛け23年にも渡るプロジェクトだった。
全6駅、全長4.1kmという短い区間ではあるものの、3つの河川を横断するため地下3〜5層まである深い構造となっており、その土木条件を大いに活用した各駅舎のデザインが特徴だ。2004年度にはグッドデザイン賞(建築環境デザイン部門)、06年には土木学会デザイン賞優秀賞を受賞するなど、広く評価を受けている。
土木・都市・建築の融合によってこそ実現したこの画期的な事業について、元・横浜高速鉄道(現・横浜新都市交通代表)の太田浩雄氏と、デザイン委員会でコンサルタントとオブザーバーを務め、後に新高島駅を設計した山下昌彦氏(UG都市建築)の話から、当時を振りかえってみたい。
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土木の世界に建築を持ち込むこと

一般的に、鉄道建設の主役は土木である。建築はあくまでも土木設計の範囲内のものであり、みなとみらい線のように建築家が設計に携わることなど考えられない世界だった。プロジェクトにとっての最大の壁は、その常識であったともいえる。


太田浩雄氏
太田浩雄氏

元・横浜高速鉄道・太田浩雄氏(以下O)「どの土地に線路を敷くか、駅を作るかという分野は、電気や機械類の集合体として土木のものなんです。全体予算から一番多く費やされるのが土木。線路が通る、車両が走る、電気が通る、それは必ず必要です。一方で建築といえば極端な話、それほど必要ではないという扱い。だから最後に予算が足りなくなると建築を削ろうとするんですよね。昔からある小さな駅を想像するとわかるように、駅舎にはプラットホームがあって、駅名が表示されていればよかった訳でしょう? 屋根がついていればちょっと良い方かなという程度で」


山下昌彦氏
山下昌彦氏

UG都市建築・山下昌彦氏(以下Y)「運輸施設としての鉄道にどのような人が関わっているかといえば、ほとんどが土木系の人。土木分野がすべて、地盤から駅の躯体まで作り、内装部分についても土木会社の中の建築担当の方が設計するのが通例ですからね」

O「今でも都心の地下鉄でさえ従来と同じように、お金をかけずに安く作られていますから。基本的に人を運べればいいという概念があり、むしろ、利用者にとって使いやすく快適にする観念が欠落しているとも考えられますね。
地下鉄は人を運ぶ手段であり、駅に到着したらなるべく早く人を外に出す。それは火災に備える意味もあって、できるだけすみやかに地上へ出られるようになっている。そのこと自体は正しいけれども、従来は、なるべく小さく、お金をかけず、機能だけあればいいという価値観だけで駅が作られてきた。それはなぜかと言えば、地下鉄事業が莫大な国の補助金がないと成立しない、という理由によるものなんです。

もうひとつ問題があって、地下鉄というのは道路の下でしょ? 道路は誰のものか、というと場所各々に地主さんがいるわけですよ。道路管理者からすれば、道路は地下鉄のためだけじゃないよということになる。様々な埋設物もあるし、ライフラインも確保しておかなければならない。その時々に合わせて作るものなので、地下鉄はなるだけ小さくしろ、と言われる。たとえば共同溝など、とても大きいものも入れなくてはならなくなるといった将来を考慮して、今の段階では小さくしてくださいよ、と」


しかし、みなとみらい線では従来の固定概念から脱却、地下鉄を街づくりの核と位置づけるところから始まった。


O「私がみなとみらい線を担当することになったのは今から22年くらい前。従来までと同じではいけないという考えがあってのことでした。
利用者の視点からどこを見るのか? を考えてみると、やはり駅なんですよ。途中の線路を見るわけではないでしょ(笑)。

太田浩雄氏

しかし土木の世界からは、途中のトンネルだとか設備などについてこれまで使ったことのなかった技術や工法など、途中の過程が重要視されているんですね。これが新しいぞ、と。シールドが進歩したとか、施工期間が少なくてすむとか…技術も大切だけどね、それは利用者の視点じゃないでしょう。
みなとみらい線も途中、河の下を通っているので地上からの深さが相当ある駅になってしまった。じゃあそこをなんとかしようねということも、基本的にありました。
そして、土木の中で建築をどう考えるか、というのもひとつの問題。これまで通りだと、せいぜいタイルの色を変えるとかその程度になってしまう」


Y「太田さんが駅に建築のスペシャリストの必要性を感じたのは、通過するだけじゃなくて、滞在したり何か楽しんだり、利用者が駅をうまく活用する可能性に気がついたからでしょう。
もうひとつは、駅は街と密接に関係していて、街作りとか街のありようと関係しているから。そこで、深い躯体(くたい、建築の構造体)があるので、うまく利用して何かおもしろいことができるんじゃないか、と。ただ、通常の枠組みで、土木のなかの建築設計者だと、そういう太田さんの新しい駅の在り方に対してうまく反応できなかったんです。つまり、従来の鉄道の仕組みにはそこまでやる発想がなかったんです」


O「土木技術が発達していろいろなことができるようになっているにも関わらず、それを活用できていなかった。せっかく横浜の観光地を通っている線で、それぞれの駅を取り巻く地域が別の顔をもっているわけです。だから駅もそれを特徴づけるような存在にしたいというのがスタート。
そこで駅舎としての存在を強く打ち出すためには、鉄道建築の色彩や素材だけではなく、全体に目を配れる建築家の起用が不可欠だと考えたわけです」



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「interview 2 / デザイン委員会の発足」




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