維持することがクオリティにつながる

千里リハビリテーション病院が「リハビリテーション・リゾート」として欠かせなかったのが、ホテルクオリティを醸し出すためのビジュアルや環境のデザインだ。業界でも名の立つクリエイターを集めたのも、佐藤氏である。


佐藤可士和氏

「クリエイターの方々の参加は自然なものでした。必要だから入ってもらったんです。
まず、照明計画でした。リゾートという雰囲気を重視するには照明の役割はインパクトとして非常に大きい。でも担当者はいず、電気工事が入るだけだったので、全体を見てもらうために専門家を入れよう、ということでホリテックさんに加わってもらいました。
理事長が計画当初からおっしゃっていたのが、アロマテラピーを入れたいということ。そこで僕が別の仕事でご一緒した、アロマティークの中村あづささん自身が医療系のアロマテラピーを研究していたことを思い出し、紹介した結果、アロマティークは社員を派遣して病院の専任スタッフとしてがっちり組み込むことにもなりました。

備品も打ち合わせの最初は、理事長と僕で選んでいたんですよ、店舗を回って。スリッパやコップなどひとつひとつ選び抜いたもので揃えようと思っても、数がまとまると、やはり専門家に入ってもらわないと間に合いませんからね。ホテルクオリティのアメニティを手がけると言えば、トランジットの中村貞裕君が詳しいですから、相談し、院内のBGMまでプロデュースしてもらいました。

その後、ホテルに関するアイデアもたくさんもっている中村君が、ライブラリーを作るといいんですよね、という提案をしてくれて、こちらも求めていた部分でしたので、TSUTAYA TOKYO ROPPONGIや国立新美術館の仕事でご一緒していたバッハの幅允孝君に頼むことにして。
ライブラリーの内容に関しては理事長も僕もずいぶんリクエストしましたが、幅君のセレクトでブックセラピーとして医療に役立つラインアップが揃いました。これまでにもリハビリで本は使われているのですが、小学生向けの教科書だったりすることが多かったんですね。リハビリが必要な人は子供に戻ってしまったわけではないので、突然そんな扱いをされショックを受けることもあります。そのために、ライブラリーでは俳句や詩集、アートブックを充実させて、生きる希望を取り戻せるような本がいつでも手にとれるようにできました。

ユニフォームを手がけてくれた滝沢直己さんも、ドクターへの信頼感を持たせ、かつ、威厳にならない程度の存在感も得られるように、麻を素材にし、シワになっても様になるデザインをしてくれました。化繊のノリがきいた白衣よりも雰囲気があって、この病院のコンセプトにふさわしい、新しい白衣の在り方を提案していただきました」


グラフィック全般およびサイン計画はサムライが担当。ウェブはブルーマークが手がけ、映像等を充実させて病院のリアルな姿をみせている。


「これまでにもいろいろなプロジェクトで様々なクリエイターに参加してもらってそのディレクションをしてきましたが、このプロジェクトでは、本当に全員が自分のことのように考えてくれたという実感があります。自分が病気になった場合にどのように過ごしたいか、と真剣にシミュレーションしてくれました。自分にとって快適かどうかを追求してくれるから、アイデアも次々と生まれましたね。僕が1から説明するまでもなく、瞬間的に理解してくれていたと思います」


今の時代を代表するクリエイター達の手によるとはいっても、流行を追ったものではない。


佐藤可士和氏
「箱としては非常にシンプルですから、商品のデザインと違って、時代の移り変わりには大きく左右されにくいのではないかと思います。病院としては画期的ですが、一般的に他の業種で考えれば、それほど奇抜なことをしたわけではありませんからね。インテリア的には気持ちの良い無垢の板が貼ってあり、少しやわらかい間接照明をところどころに使い、クオリティの高い北欧家具を選んでいるだけです。その点ではすごく定番の気持ちが良いコンテンポラリーホテルのような感覚です。長持ちする良い家具はそれこそ歴史的にも継続してきたもの。流行りすたりもないですから、かなり耐久性の高いデザインをしたつもりです。普遍的というとおおげさですが、流行りは関係ありません。

この状態をキープしていくメンテナンスが重要になるでしょうね。日本の古寺やその庭が毎日手間ひまかけて磨かれていることで何百年も保たれているように、クオリティを保っていくことこそ、信念なんだと思います」

心と体を癒すために、クリエイティブが力を発揮した千里リハビリテーション病院。 こういった事例が増えることで、広く一般の病院にも良い変化が生まれることを期待できるだろう。



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