細部までていねいに検証する

アートディレクターとして総合プロデュースを佐藤可士和氏に依頼したいと思い立ったものの、実のところデザイナーがどんなことをしてくれるのか、初めのうちはよくわからなかった。


「もちろん引き受けてくれるならどんなことでもお願いしたかったのですが(笑)、ロゴマークとイメージカラーくらいはデザインしてもらって、あとはアドヴァイスをいただけると嬉しいな、という気持ちでした。
初めてコンタクトを取ったのは2006年の9月頃。ちょうど可士和さんが手がけていたユニクロニューヨーク店がオープンする時期と重なっていたので忙しく、その後しばらくしてからやっとお会いし、私が考えていることを聞いてもらって。引き受けてくれるのかどうかはもちろん、どんなことをデザインしてもらえるかわからないまま、まず相談しました」


橋本理事長と佐藤氏が直接やりとりしながら進行することになった。


橋本理事長

「2006年11月1日がキックオフミーティング。それから毎週、月に2回はこちらで、毎回3〜4時間、直前の頃には2日連続で日程をとり、定例のミーティングを続けました。それから1年間、私がいちばん話をした相手が可士和さんというくらい(笑)、話し合いましたよ。
すべて相談しながら決めていきますから、時間はかかります。候補となる素材を集めて検討したり、備品のひとつひとつを選び、部屋に置く照明類はショールームで実物を確認し…。可士和さんはこの病院内に持ち込むものは、ボールペン1本、スタッフが使う湯飲み1個にしてもすべて自分の目を通して決めたい、という徹底した方ですから。私自身も、適当に決めておいて、と言うことはないタイプなので全部を把握しておきたい。時間がかかるのは当然でした」


細部まで全てにわたって相談しながら決定を下すのは大変な作業だったが、気持ちはとても楽だった。


「可士和さんが、『僕のところに訪ねてきたのは何か解決してほしいことがあるからでしょう、言葉で何でもいいから話してみてください』とおっしゃったんですね。自分の中ではっきりしていなかった部分も、可士和さんに話すうちにわかりやすく整理してくれました。『こんなことまで言ってもいいのか、とか、これは関係ないだろうとかいうことを思わず、すべて話してください。こうしたほうがいいと思ったらそうしますし、できなければできない、と答えますから、細かいことも何でも教えてください、僕が整理しますから』、と人の話をすごくていねいに聞いてくれる。“ああ、そうなん、めっちゃラク”って心の中で思ったのを覚えています(笑)」


橋本理事長

「すべて説明した段階で、じゃあこうしてみましょうとか、みんなにこうしてもらいましょう、と具体的な解決策を提示してくれる可士和さんがとても心強かった。私のイメージから、たとえばリゾートだからバリ風の家具がほしい、と言ったとしても可士和さんは『やめておいたほうがいいですよ』とすっぱり断言して(笑)より良い雰囲気を作り出すための明確なビジョンをもって進めてくれました」

2007年10月、病棟が完成し、無事開院のはこびとなった。そして現在、隣接する敷地に新たな入院施設と庭を建設するための第2期工事が予定されている。


「まだ構想段階です。日常への復帰を目指したリハビリ施設という点では現在と同様ですが、まったく同じものをつくってもおもしろくありませんし、工夫を重ねているところです。

そして、手前どもの香川の病院と比べてですが、この病院の患者さんには若い世代の方が多いんです。当然、社会に復帰して職場に戻られる方も多く、より実社会を意識した環境でのリハビリが求められているのではないか、との思いもあります。

医療とリゾートではもちろん、サービスの考え方は本質的に違うと思っています。心がこもっていないチヤホヤするサービスは行うべきではなく、むしろ口が悪かったとしても的確な医療福祉を提供する場所がリハビリセンターですから。ただ、本当のリゾート地にあるホテルに私たちスタッフが入れば、そこがリハビリセンターになる、そんなクオリティの医療福祉があってもいんじゃないかと思っています」



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「interview 3 / アートディレクター 佐藤可士和氏」




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