素晴らしい日本語はまだまだたくさん眠っている

テレビ番組の制作でオリジナルの文字を使うことがどれほど大変なことか、先入観がなかったからこその提案だったが、実現には労力を要した。


「グラフィックの世界では、メインの文字にありものの文字を使うということはありえないんですよ。独自の文字を作るのは当たり前のことですからね。
文字も番組内では重要なビジュアルです。出演者の起用には検討に検討を重ねるのに、文字を使うときには検討しないのはおかしいし、ビジュアルとしてはどれもコンテンツを伝えるための素材ですから、すべてに関して意識すべきなんです。今はひらがなのフォントは全部作ってあって、漢字のフォントは必要なものをその時に作るという方法で進めています」


文字のデザインは、ひらがな1文字が画面を動き回る、30秒間の「ひらがなアニメ」にもつながっていった。
そして文字に加えてもうひとつ、番組のビジュアルを司る重要な素材である衣装とセットデザインには、ひびのこづえ氏の起用を提案した。


擬音アニメ 時計
擬音アニメ 時計
「KONISHIKIさんや萬斎さん、山陽さんが出演されるにあたって、その方々の衣装をどうすべきか、すごく重要だと思っていました。セットデザインと一体になって見えてくるものなので、最初は僕がセットをやろうかなとも考えていたんですが…。
ひびのこづえさんとの仕事は今回が初めてですが、衣装の仕事をいろいろなところで目にしていました。独特なクオリティに惹かれていましたから、すぐにご連絡したんです。NHKにこづえさんの衣装でやりたいと説得したいので資料を貸してください、と。それでNHKにプレゼンテーションして。皆さん、ものすごく前向きなので(笑)、すぐに『良いですね!』と賛同してくださった」


「セットについても衣装と一緒のほうが、絶対に形になると考えていましたからひびのさんにお願いすることにしました。
アートディレクターの役割りというのは、なんでもかんでも口を出して自分でやっていくのではなく、一番良いものを見つけていくこと。一番良い状況を見つけていく能力です。自分がやらないほうが良い場合はそれが判断できるのも必要です。セットについても、僕がやるよりもこづえさんのほうが絶対に良くなると思いましたから。衣装もセットも空間を作ることですから、そこに境界線はないわけですよね。だから絶対にこづえさんがやったほうが良いと思ったんです」


また、畳の上でかるた遊びをするイメージをそのまま演出した「いろはかるた」コーナーの絵を、グラフィックデザイナーの仲條正義氏に手がけてもらうことになったのも、佐藤氏によるディレクション。
開始当時から人気があり、商品として発売されている。


いろはかるた
いろはかるた

「監修の齋藤孝さんが選んだ文字を見て、そのイメージを考えて、誰が良いか、というときに仲條さんを思いついたのは、多くを含んだ深い言葉というのは、人生経験が豊富でないと表現できないものだという理由からですね。僕自身、氏の作風が大好きなこともあり、白と黒のシルエットが美しい作品があることを知っていました。それが頭に思い浮かんだら、仲條さん以外に考えられなくなったんです。
かるたの下の句にあたる部分を表現する絵としてお願いしました。一色入れるイメージもありましたが、最終的にモノクロがものすごく良い、ということになりました。
黒1色にしたことによって、情報量を抑えられています。人の目は色だけじゃなくて形や質感も見ますから、かるたとして、よりおもしろくなりましたよね」


アートディレクターとしてテレビ番組を手がけるのは初めてだった佐藤氏。だが、最初に想像していたような壁は、あっという間に取り除かれたという。


「テレビ番組づくりは自分にとって遠い世界だという思いもありましたが、子どものために何を作るべきかを考えることは、普段の仕事で商品を作るときに、それを受け取る人について考えることと、全く同じでした。『にほんごであそぼ』の場合は、伝えるものが素晴らしい日本語だったということ。すでにある日本語を、子供たちにどう伝えるか、その間に立ってどうつなぐか。この番組は思いがけないコーナーが次々登場するのがおもしろい。そういう部分も、子供になって考えれば分かるわけですよ。僕自身、比較的子供みたいなところがあるものですから(笑)、それはむずかしいことじゃありませんでした」


佐藤卓氏

「見ている時に意味が分かろうが分かるまいが、番組と子どもとの間にレールができていれば、日本語がどんどん流れ込んでいくと思うんですよね。子供にすばらしい日本語の種を植えるみたいなことです。意味が分からないままでも覚えてしまい、大人になって『そういうことだったんだ』って分かるようになる。それで良いと思うんです。
広く言えば、情報と人との関係はそういうものです。分からなくても良いものであれば流し込む。流し込むためには、おもしろいと思ってもらう。おもしろいと思ってもらうには、同じことを繰り返すんじゃなくて、思いがけないことを起こしていく。
番組を作るのが楽しくてしょうがない。もしかしたら参加している人、全員がそんな気持ちなんじゃないかなあ」


壁がなくなった今、番組を継続していくのも、自然な流れだと思っている。


「これからやってみたいことも、やれることも無限にあります。素晴らしい日本語はまだまだたくさん眠っている、それがすごく肝心なところ。その繋ぎ方、インタラクティブなものとして、番組の可能性は無限にあるはずです」



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