豊かな感性を育てるための、種をまく
アートディレクター 佐藤卓氏


「にほんごであそぼ」が持つ一般的な教育番組と異なる要素のひとつが、ビジュアル。アートディレクターとして全体のイメージを創出した佐藤卓氏は、番組の企画以前から、NHKの制作者たちと教育番組の方向性を話し合ってきた。


佐藤卓氏
佐藤卓氏
「そもそも、コピーライターの日暮真三さんに、『NHKでこれからの子ども番組を考えるブレーンストーミングの場があるのでちょっと来ない?』と声をかけてもらったのがNHKとの接点です。『にほんごであそぼ』のプロジェクトもまだなく、いわゆる子ども番組のために今何をするべきなのか、という議論をする場に参加していました。
その後、改めてNHKの坂上さんから、子ども番組のアートディレクターを、ということでご連絡をいただいて。でも僕はそれまで、テレビ番組どころか映像の仕事は全くしたことがなかったんですよ。何も知らないと言っても過言ではない状態でしたから、『私で良いんでしょうか!?』と思わず言ってしまったくらいです(笑)」


しかし、日頃の仕事でも子どもの教育は大切だという思いが募っていた。


「良いデザインが活かされないのはデザイナーだけの問題ではなくて、デザインを決定する側の意識があまりにも低いということが挙げられます。
決定者というのは通常、デザイナーではなく、企業のトップだったりプロジェクトを全面的に任されているプロデューサーです。デザインとかアートとかっていう勉強を、基本的にはしていない、その方々が最終的に決定する。
じゃあどうすれば良いかって思ったときに、現状のデザインを取り巻くインフラもいろいろとあるけれども、やはり教育に遡る訳ですよ。とりわけ、子どもの頃の豊かな感性を育むっていうことが重要だっていうことに考えが至るんです。
そうは言ってもテレビ番組制作のスキルは全くありませんから、最初はどうしていこうか、どうしていくべきか想像もつきませんでした。参加した段階で決まっていたことは、10分間の子ども番組を作ること、日本語をテーマにすること、齋藤孝さんが監修として一緒に参加されること。あとは何にも決まっていませんでした」


本格的に始動したのは2002年、番組がスタートする前の正月にテスト的に制作した2回の番組を放送する、半年ほど前から。
手探りの状態から方向性が見えるまで、互いの立場を超えて打ち合わせを重ねた。


「映像の専門家というよりも、文字や衣装、セットデザインを通してアート及びデザインのフィルターを作っていくという、全体を通じてのアートディレクターという存在はテレビの世界にはあまりなかったことです。僕も自分が参加することで少しでも何かできるんじゃないか、という気持ちが芽生えはじめました」


見る側から作る側へ。そこに広がっていた可能性は想像以上のものだった。


佐藤卓氏
「プロデューサーもディレクターも、様々なアイデアをすごく前向きに受け取ってくれます。『それはそうですね。じゃあやってみましょう』とおっしゃってくれる。それは素晴らしいことです。
それで一度正月に流してみましょう、って言うんですよ。全国的な放送網で実験的なものを流せるなんて、そんなポテンシャルを持ったメディアがあったんだと今さらながら実感し、制作回数を重ねる毎に、ものすごい可能性を感じはじめていましたね」


試作番組を改良し、月曜日から金曜日まで毎日10分間の番組として放送が開始されると、影響力の大きさも知ることとなった。


「最初は、良いのか悪いのか、判断できない人が多かったと思います。だいたい新しい物に接したとき、人はネガティブな意見を持ちますから、何だか分からないものには肯定的になれず、批判しがちです。
でも逆にそれだけフックになっているというか、強烈なものとして印象に残ったということでもありますよね。
そのうち、近所の子どもが『ややこしや』や『じゅげむ』を口ずさんでいるのを見たときに、『あ、これはもしかしたら影響を与えてるかもしれないな』とリアルに感じました。15年、20年経ったときに『雨ニモマケズ』を暗記しているような世代が出て来ると思うと、少し楽しみな気もしています」


デザインに関して心掛けたのは、子どもの感性を意識しながらも、子どもだけを見つめないこと。


「大人が思う“子どもっぽさ”を押し付けるのはやめたい、ということですね。子ども向けにデザインの素材を作らない。デザインでは出来る限りのことをして与えるのが、重要なんじゃないかと考えていました。大人が勝手にイメージする、子どもが好きだろうというものを押し付けているから、子どもたちもそんなものだろうと思ってしまう。価値観が形成される過程で、なぜ大人が押し付けるのか、すごく疑問に思っていましたから。
たとえば日本語の番組だから文字は必ず出て来る、その文字だけでも印象的な番組にするべきでは、と提案しました。今、見ているときに分からなくても、できるだけ質の高いものを与えていく。これがものすごく重要だと思ったので、『文字も作らせてください』とお願いしたんです」



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「interview 4 / 素晴らしい日本語はまだまだ眠っている」




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