感覚的に気持ち良いかどうか、という点に気を配ります

当初から全てにおいて重視したのが、デザイン。たとえば文字をただ覚えさせるのではなく、新鮮な感覚で受け取れるような工夫を考えた。


擬音アニメ セミ
擬音アニメ セミ

「放送の場合、文字は情報を伝えるための一手段、『どっどど どどーど』という音を表現するのに、『ど』の文字が動き回るという発想は、私たちの中にはありませんでした。文字を単に情報媒体として使うのではなく、文字によってひとつの表現を作り出す。それは、演じ手がひとり増えたのと同じことでした。
日本の自然の美しさを再確認できるような映像も同様です。そしてそこに、伝統芸能の方々、野村萬斎さんや神田山陽さん、柳家花緑さん、豊竹咲甫大夫さんなど文楽の方々が出演者としているわけです。生きた美しい日本語を体の中に持たれていて、それを型として自分の体や声で表現してもらうことによって、子どもに頭だけじゃなくて体全体で受け取ってほしい、ということも最初に話し合いました。

にほんご 山伏
豊竹咲甫大夫、鶴澤清介

誰に演じてもらうかというのは、どの番組でも同じですが、重要なポイントでした。言葉の間合いも含めて、声や動きで伝えられる方ということで伝統芸能の分野をリサーチし、ご自身で日本語を操り、一幕の日本語劇場を作り上げらるような方々に出演していただいています。
伝統芸能に登場する日本語だけじゃなく、我々が提示した言葉力のある日本語を、演じておもしろいと思ってくださったんだと考えています。番組では特に子どもだからという区別をせずに、かなり神髄をぶつけてくださるのは、彼らにとっても一種のチャレンジだったのではないでしょうか。非常にすごいことだと実感しています。
いつも真剣でまじめに取り組んでいただき、ちょっとやそっとのことじゃ許してくれないんですよ(笑)。たとえば『あなたの時間は1分半ですよ。だから台本はこんな感じですよ』と言っても、それの打ち合わせに何日もかかるんです。当然、セットや衣装デザインにも関わることですから、いつも全員が真剣勝負。
こういった伝統芸能の方々に加え、現在は子役が8人、ボイス・アーティストのおおたか静流さん、そしてタレントのKONISHIKIさんが出演。KONISHIKIさんは逆に、日本語に対して純粋な驚きや発見を持ち、子どもと同じような目線で、台本に書かれている以上に器用に演じてくださいますね」

出演者が決定した後、衣装とセットデザインについて検討された。


「佐藤卓さんがひびのさんをご紹介くださいました。着る演じ手の世界観に似合う衣装を、セットと共に引き受けていただくことになったのですが、これはもう、ひびのさんってすごいなと思うんですよね。
佐藤さんとのやり取りの段階で、いわゆるテレビの電気的な手法じゃなく、日本の和紙であったり木や布といった素材感を大切にしていきましょうということが見えていました。日本古来の言葉の良さを素材感とともに出して、人間の体や自然を大事にする。そんな話し合いから、ひびのさんには出演者の体や素材感を大切にしながら、デザインしていただきました。


コニちゃん
コニちゃん(KONISHIKI)

たとえば、“コニちゃん”ってどんな設定なんだろう、というところから話し合ってきました。日本語に対して新鮮な感覚で子どもとやり合うコニちゃんは、ハワイの溶岩の精で、キラウエア火山がお母さんでヤシの木がお父さんで、ぷかぷかと流れ着いてきた日本で子ども達と遊んでいるような妖精(笑)っていう設定のイメージで衣装が決まって。私たちも想像していなかった、ハワイの溶岩がオレンジのボツボツか、という感じがすごくよく似合っていますよね!
一緒にいる子ども達の衣装も、和っぽいけれどモダンで、もしかしたら中央アジアのどこかの草原にいてもおかしくないような、あるいは宇宙にもいそうな感覚のデザインが非常にマッチしていてやわらかい印象になっています。
舞台セットでも、普通の番組だと、ディレクターが『“朝顔に釣瓶とられてもらい水”っていうのやるから井戸を用意して』というと、生身の役者がリアルに演じる時の大道具の井戸をポンと置いてしまうんですよ。持ってくるしかないのですが、じゃあ本当に井戸が必要なのか? と考えると、なくてもできるんじゃないかという設定も生まれる。そこをデザインで判断してもらうのも、ひびのさん。画面全体がトータルデザインである、と捉えています。だから、ひびのさんはすっごく大変なんですよ! でも、そうしていかないとすべてが崩れてしまいますから」


坂上浩子氏

「ひびのさんは特に、新しいセットや衣装のときは必ず収録に立ち会います。ちょっと小道具が必要な場合は来てもらいますし、実際に見ていただきます。特に萬斎さんの収録のときは毎回新しいセットになっているので、必ず来てくださっていますね。
衣装やセットデザインは、NHKのアートさんや大道具さんといった、通常のクリエイティブスタッフとのコラボレートでもあるんです。
衣装やセットに照明をあててテレビ画面を通してみたらどうなるのかという部分をよく知っているテレビのスタッフは、『この場合はもっとツヤ消しにしたほうが良い』とか『このぐらいの尺にしたらカメラの画角にきれいに収まります』といった感覚では、ひびのさんよりも長けている訳です。デザインされたものが、布の材質とぴったりこなくて風合いが思い通りに仕上がらなかったり、照明をあてたら予想以上にギラギラ見えてしまったり、という面で、ひびのさんの仕事はアート部や照明部とのコラボレーションになっていくんですよね。ひびのさんがデザインした布をはぎ合わせたりする場合も、はぎあわせた箇所の布が薄くて透けて見えてしまってはいけないのでどうするか、とか、風で舞い上がらないように下に重しをどれくらい入れるかとか、アート部の仕事も細やかですし、ひびのさんのデザインも細やかできびしい仕事をしています。ひびのさんの仕事がすごいので、みんなも感化されてすごくチャレンジングに沸きますね」


衣装やセット、文字、自然の映像…すべてのコーナーを統一するための工夫もある。


「一般的なテレビ番組で見慣れているような、デジタル・ビデオ・エフェクトなどの手法は使っていません。ひとつのコーナーから次へ移るときに、感覚的に気持ち良いかどうか、という点に編集で気を配ります。コーナーが多いのでそれで成り立ってもいますが、KONISHIKIさんのコーナーと萬斎さんの登場場面がつながらなければ、その間にひらがなアニメーションを入れてみたり、コーナーごとのつながりは全体に影響します。和紙を背景に、今日の名文を入れようとか、素材感でつながっている部分も多いのが特徴ですが、そういうところは、佐藤卓さんのディレクションとひびのさんのセットのコラボレーションでもありますね」



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「interview 3 / アートディレクター 佐藤卓氏」




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