コピーライターとイラストレーター、ふたりで膝つき合わせて作り上げる

寄藤氏が手がけるビジュアルは、なんといっても『大人たばこ養成講座』の顔となる存在。オレンジと黄色の2色と手描きの線で構成されたイラストは、おもしろさが潜んでいる細部まで見逃せない。
愛用の筆記具は、ぺんてる「ハイブリッド」水性ボールペン。紙に描きスキャンして着色している。

寄藤文平氏
寄藤文平氏

Y 「絵を描くのは最後の最後です。でもたとえば、水族館のシチュエーションだったらウミガメが入っていたほうがおもしろいんじゃないか、とか、人の顔が魚に似ているって気付いたところを入れるといいんじゃないか、とかいうアイデアが思い浮かんできたら、そのときに『こういうのもあるんじゃないかな』ってごく控えめに(笑)岡本さんに言ってみます。
絵だけでおもしろいっていうことはないので、先に言葉でおもしろいねってところを表現しておいて、絵がそこにあるという感じです。
一晩かけて話し合いながらその場で描いて岡本さんに見せる場合もあるし、時間が足りなくなってきたときはコピーに後から絵をつけていく場合もあります。なるべくだったら一晩のうちに絵も全部できあがっているというのが良い状態ですね。岡本さんはそういうとき、別の仕事してたりしますよね」

O 「コピーは完成していない状態で寄藤さんのところへ行って、机がわりの卓球台のはじっこを借りてそこでまとめながら書いていくんですけど、絵が出来上がるまで、ちょこんと座って待ってます(笑)」

絵を作るのにかかる時間は、およそ4時間くらい。

Y 「打ち合わせているときから絵がみえてるものから描きはじめるので早く進むのかもしれないですけどね。絵にするのがむずかしいコマもあるんですよ。そんなときは煮詰まってしまって、岡本さんに相談することもあります。
たとえば、鳥が入ってくると成立する、っていうイラストがあったとして、コピーには鳥が入っていない場合。コピーに『空』と一言いれてもらえると、鳥が出せる。
基本的には言葉がベースなんですね。岡本さんの言葉が100文字あったとすると、それを30文字に減らして残り70文字分をイラストで表現していくっていうのが基本的なスタンスです。その30文字を読むと残りがわかる。文字で書かれていない部分は岡本さんに説明してもらって、絵をつけるのが基本の考え方」

O 「最終的にはみんな絵がおもしろいなあと思っていて、その印象が焼き付いてくれればいいんで、言葉は骨格ではあるんだけど‥‥‥トスをあげるような気分かもしれない。寄藤さんがどんな絵をつけるのかなあと考えながらコピーを書いてます。
作業上は効率化されてきてると思うんですけど、費やす時間は非常に濃密です。そもそも、広告のシリーズで7年もの間続くということが希有ですから、そこから特別な感じですよね。
これだけ続くものですから、現実的に言えば、息切れとの戦いであったり、モチベーションの保ち方だったりっていうのは厳密には毎回でもあるし、微妙な問題ですよね。だから毎回ネジを巻き直して、取材などでこれまでやってこなかったようなことをして、少し肌で感じるように対象と向き合って、いくつもの頭から知恵を借りて、作っていくということにたどり着いたんだと思います」

寄藤文平氏 岡本欣也氏
寄藤文平氏 岡本欣也氏

Y 「本が売れたり、周りの人が喜んでくれるという実感も大きい。作るたびに楽しみにしてくれる人がいる状況って以外と影響します。忙しすぎたり疲れていると、そういう幸せを忘れちゃうことがたまにあります。
でもクオリティを落とすわけにはいかないので、辛いながらもとにかくやった! っていう仕事のときは、後から見直すと逆によくできていたりする。だからまだ大丈夫かな、と思ってます」

こうして続いてくるうちに、登場人物が名前を持ち、キャラクターとしての認知度も上がってきた。過去の連載をまとめ、さらにオマケの新ネタも掲載した作品集として、単行本化もされた。

O 「最初は名前も付いていませんでした。HPを作りたいねってことになって、ちゃんとした世界観をつくろう、と考えていったときにキャラクターを名付けたんですよね。主人公の男の子も最初は寄藤さんの絵が先にあったんですが、途中で「オサ・ホウサク」と。上司が『島部長』」

Y 「基本は描いた絵を勝手にキャラクターにしたので、登場人物図鑑というコンテンツを作ったんですよね。まったくどうでもいい周辺の登場人物も拾って注目している」

O 「本を作ろうということになったときも、そのHPで構築してきたものをほぼスライドさせていった感じです」

この仕事がふたりの初顔合わせだったとは思えないほど、コンビネーションは良好だ。

JT野本啓之氏
JT野本啓之氏

N 「たばこというナーバスなものを取り扱うには、感覚がズレているとうまくいかないだろうなとしばらく様子をみていましたが、問題なくここまできました。
当時の上司が言っていたことで印象的だったのが、『おまえが口出ししてもうまくいかないからクリエイティブは基本的にすべてまかせろ』と。クライアントとして欲がでてくることもありますが、それは我慢しますね。それぞれの領域はきちんと守る。そのかわり、クライアントとして主張すべき点、会社としてのモラルハザードは主張します。
たとえば『歩きたばこをしない』という1コマがありますが、それを作った頃、実はJTで『歩きたばこをしない』とは絶対に言わないというスタンスだったんです。ポイ捨てするからいけないんであって。歩きたばこ自体は悪い行為とは言い切れない。でも大人たばこでは、大人の行為として格好よくないから、『歩きたばこをしない』と表現したんです。
JTのレギュレーションからは外れていましたが、広告全体として完成されていたために取りざたされずに済んだという経験があります。それがこの施策のもつ力でもあり、社内に対しても少しずつ先を行く存在だと思っています。
7年間という時間の流れもありますし、完成度の高さ、おおむね好評を得ている実績、そういったブランド力があったからかもしれません」



O 「クリエイティブにとっては、広告なので企業として押さえるべき核となる点をおさえてしまえば、あとは何をやってもヨシという枠組みがあります。他の広告と比較すれば、細かいところまで口出しをしないでいてくれたからこそ、こういった広告ができたのであって、逐一ネガティブチェックをされるとおもしろいものはできようがないわけですよ。
もちろん最終的に見た人がどう思うかを考えながら僕らは作るわけだけど、クライアントの見識があってこその集大成だとも言えるんじゃないですかね」

Y 「一番困るのは、『ヒットは打ってほしいけどセンター返しじゃなきゃ困る』っていうような制約が付くことですね。ヒットすら打てなくなっちゃうんですよ。要は、ライト前でもポテっでもいいからヒットであればいいよ、ファウルや三振じゃなきゃっていうくらいならいいんですが、仕事だからヒットを打つつもりで引受けるわけですけど、センター返しじゃなきゃって言われると困る。当てにいってしまって、結果的に全部ピッチャーゴロばかりになってしまったりするっていう感覚です。大人たばこなんかは、一番振り抜ける。来た球を打てばヒットにはなる、っていうのがなんとなくわかるけど、センター返しにしろ! っていう状況だと当たらなくなります。そういう、打席に立った瞬間に肩の力が抜けてボールに集中できる感覚はあると思いますね」

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「interview 4 / 連載100回に向かう、今後の展望」




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