全員から引き出したアイデアを編集するような役割りの、コピーライター

「野フェスのお作法」「スパでのお作法」といった、たばこが登場するシチュエーションの数々。実は、コピーライターがひとりで作り上げるといった一般的な手法とは違っている。

JT野本啓之氏

O 「クライアントからシチュエーションが提示されてそれを受けてクリエイティブが動く、というよりも、全員で集まって決めているんですよ。この雑誌には載せたいよねとか、この媒体はもういいよね、という選択から1年間の方針も話し合っています。テーマごとにこの雑誌に載せたいだとか、きめこまやかな‥‥と言ってもおおざっぱではあるのですが(笑)。
シチュエーションにしても、みんなで宿題という形にしてそれぞれが考えてきたものを出し合いながら、いまだったらこんなテーマ、とか前回アウトドアだったから今度は社内のこと、とざっくりと決めながら、でも直前になって変えてみたり。
そんな臨機応変な作り方が、結果的に世の中の話題と合った広告になっている理由じゃないかと思います」

N 「シチュエーションがいくつか集まったら全部並べてみんなで投票することもあります。合計点数で取りかかる順位が決まって、さあやろう、となるにもかかわらず、意外とやってないんだよね!?
入稿時期が迫ってくるとやっぱりこっちがいいんじゃないの、って意見が出たり、岡本さんの興味がなかったりとか(笑)。
そうは言っても、やはり企業の施策なので、こういうシチュエーションで喫煙を表現したい、というのがあります。最初の頃はその希望をぶつけて、みんなでよそよそしいキャッチボールから始めたわけですね。
だけどこちらの要望を押し付けてばかりで、クリエイターの2人がやる気なくしても困るし、やるなら脳みそ回転させて良いものを作り上げたい気持ちは全員同じ。クライアントという立場から強制するのではなく、全員で意見をもちよって企画会議を開くというスタイルは割と早いうちからできていました。
岡本さん、寄藤さんの2人がゴルフをやらないのにゴルフのお作法を考えたりだとかは、不本意でないまでも大変でしたよね」

寄藤文平氏
寄藤文平氏

岡本欣也氏
岡本欣也氏
Y 「ゴルフはしませんでしたけど、サントリーオープンを見に行きましたよね」

O 「取材みたいなものの在り方も長いシリーズの中で変容していて、全体を作り上げるシステムと密接に関係しています。
僕らが関わり始めた頃はきちんとした役割分担があって、僕が文章を書いて寄藤さんが絵を描く、といった通常の広告制作的な作り方をしていたんですが、途中から、取材もみんなで行き、そこで感じたことを全員が書くような形にしてきました。僕だけが書くんじゃなくて、JTさんもクライアントでありながらコピーを書くんです。
そんなふうに、それぞれの持ち場をこなせばいいやというのではなくて、みんなで取材に行って、みんなで書いて、それを集約する形でひきとって僕がコピーにまとめていくというようなことになっていったんです。それから寄藤さんに渡して、こんな言葉があったほうがいいんじゃないかとか、こんな絵を描きたいんだけど、とひとしきりありつつ、最終的にはふたりで詰めていってひとつの形にしていく。そういう作業が、このシリーズが他の広告とは違う作り方で、最大の違いじゃないかな。このチームの一番の特色かもしれない」

N 「JTとしてたばこのマナーをどこまでストレートに表現するかという点はシビアな部分なので、最初の頃は出したいポイントを伝えて修正して、というプロセスがありましたけど、最近は時間が足りないこともあって、ほとんど修正がないですよね」

O 「普通の広告だと直しの作業がかなりあるものですが、直しが少ないことも特徴ですね。それも事前にみんなが感じたこと、考えたことが共有できているからですよ。たばこ以外のことにも触れていく方向性が出てきたから、全体のふくらみも出てきた。
もはや僕の仕事はライティングというより、セレクト、編集するみたいな役割りが強くなっていますね」

JT野本啓之氏
JT野本啓之氏

N 「最初は5コマくらいはたばこについてのネタも入れようという暗黙のしばりみたいなものがあったんですが、今は1コマくらいしかなかったりしますよ。イラストとしては入っていても、コピーでは触れていないとか。でも、JTだからといってしつこくたばこのことばかり主張しなくてもいい、『大人のお作法』を表現する作品を作っていく方向になってきました」

その方向性は岡本氏と寄藤氏のやり取りから生まれてきた独特な制作方法にも理由があると言う。それまで一緒に仕事をしたことのなかったふたりは、お互いの存在も知らなかった。

O 「はじめまして、と挨拶した日の打ち合わせで、『プレゼンの3日前までにコピーを送ってくれなきゃ絵をつけられない』って言われたのを覚えています(笑)。まあそのぐらいは妥当ですよね。
そこからどんどん縮まって、一晩で作っていくようになりました。それまでに取材も含め、みんなの意見を集めているんですけどね。年月をかけて次第にそうなっていきましたね。
数回一緒に作った時点で、コピーを渡して絵を描いてもらうんじゃなく、話し合いで進めてみようかというようなことになったんです。で、僕がまとめたものを、送ってしまわないで寄藤さんのところに持って行き、そこで一晩くらいかけてやり取りしながら、膝つき合わせて作り込んで行くというやり方に変わったんですよね。
他の仕事ではこういうやり方をしたことはありませんが、たぶん、やり取りしながら突き詰めていくほうがおもしろくなるというフォーマットでもあったんでしょう。コピーとビジュアルを組み合わせるだけの広告じゃなくて、ひとりで作るタイプの広告でもなかった。
みんなの頭があって、それらを集約したほうがおもしろくなる。話し合いが大きな意味をもつクリエイティブが、この広告にはあると思います」


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「interview 3 / コピーライターとイラストレーター、ふたりで作り上げる」




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