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12カ月のパリ
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第5回 (3)
2003年メゾン&オブジェ デザイナー賞 ── Patrick JOUIN (パトリック・ジュアン)




Patrick JOUIN (パトリック・ジュアン)


Patrick Jouin ポートレート・2002 ・©Thomas Duval

第1回目の受賞者フィリップ・スタルク(2000年)を封切りに、ジャスパー・モリソン(2001年)、クリスチャン・ビシェール(2002年)と今年で、歴代4人目の授賞者となる。

メゾン&オブジェの初日、仏デザイン誌 INTRAMUROS (アントラミューロス) 編集長とパトリックの対談インタビューが、展示会ホール内に設けられたテレビスタジオで行われた。
パトリックは、スタルク事務所にも数年間所属し、1998年に独立。早くもフランスを代表するデザイナーの1人である。その実績はあらゆる分野に波紋を投げ掛けている。NUTELLAチョコレートペースト用ナイフから、今最も話題のフランス料理シェフ、アラン・デュカスのレストラン プラザ・アテネの内装、リール駅舎の公共空間までもデザインする。客層も、庶民からトレンディーなターゲットと幅広い。昨年のTDBの期間中、IDEEにてヴァロリスで制作した器をご覧になられている方も多いことと思う。

しかし、対談中のパトリックは口数も少なく、物静かそうなイメージを与える。
そして、自らのデザインを"控えめ"と位置づけるが、商品化された機能的なオブジェを手に取ったり、デザインされた空間に身を置くと分かるように、オブジェや空間が所有する高貴さを、ミニマルなエレガントさが誇張させている。それは、デザインのディテールに詩的感情が詠まれているからであろう。


シェフとデザイナーが提案する空間


プラザ・アテネ バー内装・2001© Eric Laignel

アラン・デュカスと出会い、パリのレストラン プラザ・アテネ (2000年竣工)、同レストラン バー (2001年竣工)、レストラン 59 POINCARE (2000年竣工)、南仏サン・トロペのレストラン スプーン・ビブロス (2002年竣工)と、爪あとを着実な場所に残しているのもプロの成す業である。
レストラン プラザ・アテネは、歴史建造物という厳格な建築プログラム上、障害は多くあまり空想に思いを巡らせている余裕はないものの、パトリックとシェフ デュカスは同じ波長の上で仕事を進めることができる芯の強い性格の持主である。デザイナーと料理人の2人3脚は、まだまだ終着点なく突っ走る。

2002年9月には、パン屋と総菜屋をドッキングした BE (ビー) をパリに登場させた。なぜ今まで存在しなかったのか? と思うほどに、発想は新鮮さに欠けるが、その理由として、フランス人の食文化は非常に儀式的で、どうも伝統から脱け出す機会を見つけ出せないようである。だから、パン屋でコーヒーや惣菜までも飲食できるという概念は、習慣を覆すような行為ともいえる。BE は、今日ではフランスの新形式ファースト・フードに属するともいえる。空間の主導権を握るパン製造機械が焼いたパンと、新鮮な食材を組み合わせて、オーダーメイドのサンドウィッチが客の手に渡る。パトリックは、こうしたサービスを、意図も率直に " C'est super! "(=これは最高!)と表現する。一般的な街角のパン屋では、バターが塗られたバゲットパンにハムとチーズをはさんだものが主流であり、選択肢も5種類位しかない。BE は、今後も場所を限定せずに、パン製造機械のある空間として、店舗数を増やしていくことも検討中である。「Design Victim (=デザインのいけにえ) のような場所は提供したくない。」と、念を押したパトリックは、イタリアの街角で飲む一杯のエスプレッソが好みのようだ。自らもシンプルな生活スタイルに身を置きたいのであろう。
確かに、BE というネーミングは、Boulangerie (=パン屋) とEpicerie (=食料品店) の頭文字を組み合わせているが、英語の BE動詞にも意味がとれる。存在すること。つまり、あなたの街角の何処にでもあるお店というシンプルさを主張しているかのようだ。
そして、2003年5月には、ニューヨークに初のフランス人シェフのレストランをオープンする。もちろん、シェフ デュカスとのコラボレートであるので、今年の見逃せない大イベントとなることは間違いないだろう。


デザイナーの領域

「指揮者のように、空間、家具、プロダクト、音響システムと幅広い活動をされている上で、デザイナーとしてのポジションをどのように捉えていますか?」という質問に、「あえて、仕事に囚われないようにしています。現在は、事務所は8名のスタッフで支えられています。建築家、グラフィックデザイナーなどの専門分野のプロばかりですが、一つのプロジェクトが舞い込むと、各自がある程度まで進めます。そして、煮詰まった材料を持ち寄った上で、形にしていきます。例えば、チョコレートペースト用ナイフもこうして生まれました。言い方をかえれば、料理人が様々な食材を調理するような感覚でしょうか。お陰さまで、大手メーカーからの注文も多くなりましたが、各社と良い関係を築いていくようにしています。」


リール・フランドル駅舎・Lille 2004 ・駅舎の変容  写真: Mario Pignata-Monti に DEISイメージ

2004年には、ユーロスターも乗り入れているリール・フランドル駅舎の建築プロジェクトも完成する。1ヘクタールのガラス天井に色をつけて、ビジュアル効果を狙う。街のシンボルでもある駅舎は、内と外から改修されて、新しい姿で誕生することだろう。
そして、まだプロジェクト詳細は極秘であるが、ルノー社のコンセプトカーが近々発表される。今までは、車といえば機能と外見が重要視されていたが、どうも内装にワンポイント置いているらしい。発表が待ち遠しいばかりである。

パトリックのデザインは、プロダクトやインテリアのみならず、工業デザインの領域にも足を踏み入れている。しかし、デザインに境が存在しないのと同様、デザインという言葉に囚われない姿勢が更なる原動力になっていることが感じられる。




SPOON BYBLOS バー © Roméo Balancourt


SPOON BYBLOS carré VIP © Roméo Balancourt


Be 外観 ・Paris ・2002 ・ ©Thomas Duval


Be 特製オリーヴパン © M.deL'Ecotais


Imaad Rahmouniとコラボレーションしたルノー社ブース ・モーターショー(リスボン・マドリッド) ・2002 ・©: Renault


Nutella チョコレートペーストナイフ・2002 ・ DEISイメージ


AUDIO LAB・Patrick Jouinブース メゾン&オブジェ 2003 © kaoru URATA


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