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12カ月のパリ
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 12カ月のパリ
 


第3回
MOIS DE LA PHOTO A PARIS
パリ写真月間

 update 2002.11.13
レポート : 浦田 薫 / アート&デザインジャーナリスト 



久しぶりにどんよりとした雨雲の隙間から、太陽が覗いた2002年11月末の水曜日。
前日は、トラック運転手たちをはじめとした諸機関の大々的なデモが行われ、雨の中、労働者たちはパリの道を占領して政府に抵抗した。
これぞフランスの恒例行事!!
「1年の計は元旦にあり。」と日本ではいうが、フランスでは、「1年の終わりはデモにあり。」と表現したい。
筆者は、デモによる交通手段や公共機関が日常生活の妨げになっても、自らの立場を確立するために闘う情熱を持つフランス人が好きだ。そして、過言ではあるが、今後も恒例行事を続行してもらいたい。なぜならば、社会問題に深く関わりのある国は、文化にも富み、より豊かさに恵まれるからである。
そして、冬の間の貴重な晴れ間を逃さないためにも、“パリ写真月間”の小冊子を片手に散歩に出た。

今年で12回目を迎えるパリ写真月間は、2年に1度開催されるイベントである。
3人の女性アートディレクターによる3大テーマを軸に、美術館、ギャラリーなど、およそ70ヶ所で作品が展示された。




Paris 2002 晩秋


2002年写真月間の3つのテーマ
1.写真の女性
アートディレクターは、ELVAN ZABUNYAN (エルヴァン・ザビュンヤン)
美術評論家でもあり、レーヌ大学における近代アート史講師。1960年代以降のアフリカ・アメリカのビジュアルアートの論文は高い評価を受けている。

2.インターナショナルセレクション:出現、再現、反抗
アートディレクターは、CAROLINE BOURGEOIS (キャロリーヌ・ブルジュワ)
国内外に問わず、近代アートに携わる。ビデオアートと公共施設の関わりを深めていくパイオニア的存在。

3.ファッション:間
アートディレクターは、ALICE MORGAINE (アリス・モルゲンヌ)
仏雑誌 L'EXPRESS (レクスプレス) 記者歴16年間。ファッション雑誌 LE JARDIN DES MODES (ル・ジャルダン・デ・モード) の編集長を経て、1999年よりブリュッセル市のエルメス社アートディレクターに就任。


写真の女性
通常は写真学校でもあり、技術や講義の受講ができるCENTRE IRIS (イリス センター) では、「反抗する視線」をテーマに、女性フォトグラファーの作品が展示された。
第2次大戦後から1980年代にかけて、MAGNUM (マグナム) に代表されるレポート写真の世界は、完全に男性社会のイメージが根付いていた。そうした意味では、女性フォトグラファーの出現の歴史は浅い。しかし、自由を求めるための道具として女性が写真を捉える姿勢は、発展性に満ちている。半世紀もの間、眠り続けていた魂が目を覚している時期といえるのではないだろうか。ビデオ、デジタル画像、絵画などの様々な媒体が取り入れられた作品を目にすることも珍しくはない。このセンターで受講する生徒も、男性より女性が多いようだ。女性フォトグラファーが社会、造形、写真に及ぼす影響は、人類、政治、そして私的感情が混ざり合ったもので、複雑で、かつ、非常に繊細である。

写真は、現実をトリックしたフィクションである場合と、見たくない現実を目の当たりにするノンフィクションの2通りがある。
又、添えられた文章が作品の存在をより一層意味の深いものにする。

Anne-Catherine Becker-Echivard (アンヌ・キャトリーヌ ベッカー・エシヴァール) のシリーズ“CARTOONS”(カートン) は、裸電球の下で、ソファーにちょこんと腰掛けた老人と赤いラジオ。又、ソファーのヘッド部分にまたがり、バイクに乗った気分の女性。足元には、テディベアと BERLIN と書かれた標識。全ては、ダンボール箱の中に再現されているコラージュ写真である。今回の作品を自らこのように語った。
「2001年9月。父があの世の人になった。孤独感に見舞われた。次第に本質に触れてみたい感情が湧いてきた。私の周りには生命。以前と何も変わらないはずなのに、蚊帳の外に置かれたように私は除外されている。だから、はじめは思い出の写真を切ったり、人物を離してみたり、箱の中に置いてみたりした。苦しみが遠のいていき、思い出が新しい写真に変化していくのを感じた。これらの孤独な写真たちは、私に小さいけれど永遠の人生の場所を与えてくれている。」

紙面にプリントされた人物や景色は、その持主の追憶に封じ込められる。そして、年月を経て、パンドラの箱を開封した時のように、よみがえる思い出が断片的なパズルにより再構築され、この世に新しい場所を与えられるのであろう。


インターナショナルセレクション:出現、再現、反抗

ABCDF展 外観
インターナショナルセレクションの部門では、“ABCDF,PORTRAITS D'UNE VILLE”( ABCDF 、街のポートレート) を紹介したメキシコ文化センターの試みが興味深い。タイトルの通り、メキシコ辞典とでもいうべき、AからXまでをタイトルに用いた作品が20世紀から今世紀のメキシコをビジュアルで紹介する。写真が媒体として利用されたのは、日常生活を自由に表現する唯一の手段であるからだと考える。
本展覧会はメキシコシティーで今年のはじめに開催されたもので、キュレーターでもある Chrisitna FAESLER (クリスティーナ・フェスラー) と Jeronimo HAGERMAN (ジェロミノ・ハガーマン) は、会場壁面に塗られた赤、ピンク、グリーンといった色彩番号まで細かく指導したそうだ。ヨーロッパではあまり目にしない発色性だけに、道行く人々の目を奪う。そして、適度な温度を与える空間に、いつの間にか長居してしまう。
受付の女性が電話越しに話すスペイン語のリズムが、耳に心地よく響いていたが、ふと止まった視線の先には、しゃれこうべと写る男性のモノクロ写真。タイトルは、“MUERTE”(ムエルテ=死)。添付されたテキストには、2000年のメキシコ国政調査の結果が記されており、死亡率の上位に、心臓病、悪性腫瘍(癌)、糖尿病、アルコール中毒、事故、風邪・肺病、暴力などの原因が挙げられている。過酷な事実は、何にも置き換えることはできない。写真が伝えようとする現実と、自分が置かれている空間の現実にギャップを感じずにはいられない。空間が演出する心地よさは、1枚の写真が持つ引力に叶わない。


ファッション:間
パリ写真月間のメイン会場でもある MAISON EUROPEENNE DE LA PHOTOGRAPHIE (ヨーロッパ写真館) では、ファッション界をリードする YOHJI YAMAMOTO の“MAY I HELP YOU ?”が開催された。
「ファッションをしながら、アンチ・ファッションをしたい。」
「欲望は見えないもの。美はイマジネーションの中にひそむ。」
「衣服が人を美しくするのではなく、美しい人が衣服を美しくする、それが僕の基本コンセプト。」
「過去のエッセンスを捉えたい。」
と、数々のファッション雑誌のインタビューに残している YOHJI YAMAMOTO の人生 & 仕事フィロソフィー論。それは、メディアや一般人には、つかみにくい、無秩序、カリスマ的、エレガント、インテリ、等々、数々のイメージを与え続けている。
若手アートディレクター MARC ASCOLI (マーク・アスコリ) は、1984年に YOHJI YAMAMOTO と知り合い、多大な影響を受けた。ファッション界と無縁のモデルを起用するという新たな試みは、第三者を写真に捉えることにつながる。まさに、「存在しない人物に衣服をまとわせる。」という YOHJI YAMAMOTO の願いが伝わってくる。翌年は、PAOLO ROVERSI (パオロ・ロベルシ) が両性的な女性シルエットを展開した。NICK KNIGHT (ニック・ナイト) は、6シーズンのカタログ写真を担当する。起用された写真家は、フィルターのような存在で、YOHJI YAMAMOTO のスタイルから離脱し、自らの観点を見付けなくてはならない。
人生にファッションが存在しなくては、楽しみが奪われたようなものである。ファッションに写真が共存しなくては、美の一部を失ったようである。


写真は、我々の生活の中で、極めて身近な存在になった。日々、被写体にむけてカメラのシャッターを押し、家族や友人、景色や街角のゴミ箱までも、画像やプリントとして蓄積されていく。いつかは写真の整理をしなくてはならないと、誰もが一度は思うことだろう。ただ、それほど大きな必要性にかられないために、実際に行動に移した人は少ないのではないだろうか。それにもまして、急速なデジタル画像の普及により、アルバムという存在すら家庭内から薄れていく時代がくるのだろう。世代による記憶の収納場所が、アルバムからコンピュータへ、そして1枚のCDに。。。と移行しているのは確かである。修正やリメークが可能であるデジタル画像と、1回のシャッターがその瞬間を決定づけるプリント写真。どちらの存在も不可欠であるし、選択はできない。我々は、ためらいの中に生息する被写体なのだろうか。

そんな思いが頭の中をくるくるとしながら、写真館を後にした時間の空は、すっかり夜の世界に見舞われていた。
街の交通渋滞もはじまり、車のライトが、少しずつ点灯するアパート1室の光よりも眩しく感じられた。マリー橋から見渡すパリの景色は、晴れた1日の終わりを告げる充実感に染まり、今ここにいる喜びを深い呼吸で体全体に浸透させた。カメラも何もいらない。この瞬間を捉えられるのは、心のカメラしかないから。


メリークリスマス
今年も残り少なくなってきた。心のカメラに残された数々の2002年の出来事を思い返す季節。
秋から、掲載させていただいている本サイトJDNの方々、読者の方々に感謝の気持ちを込めて。
JOYEUX NOËL !! (=メリー・クリスマス)

Caroline BIGRET(キャロリーヌ ビグレ) AUTOPORTRAIT メキシコ2001
CENTRE IRIS提供 「反抗する視線」展より


Caroline HALLEY(キャロリーヌ アレ)
CENTRE IRIS提供 「反抗する視線」展より


Catherine FEYT(キャトリーヌ フェイ) 波のシリーズより 無題1998
CENTRE IRIS提供 「反抗する視線」展より


Catherine LAURENT(キャトリーヌ ロラン) SOSSO Porto Nuovo 2001
CENTRE IRIS提供 「反抗する視線」展より


ABCDF展 外観


ABCDF展


ABCDF展


ABCDF展


©Karl Lagerfeld -"Paris Berlin" - アートディレクション: Kappauf et Alex Gautier -
スタイリスト : Monica Pillosio - No.23, 2002年 夏


©Inez Van Lamsweerde et Vinoodh Matadin - グラフィック M/M -
Yohji Yamamoto 2002年カタログ (家具の前の若い女性)


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