庭の形

建築より小さな家具的要素をデザインし、新しい外観をつくり出した

デザインコンセプト
担当:香川貴範+岸上純子/SPACESPACE

【郊外住宅開発地】
マンションから移り住む若い夫婦が選んだのは、生駒山を切り開いた典型的な郊外住宅開発地に建つ、築20年以上のハウスメーカーの中古物件だった。彼らは当初からリフォームを想定しており、外観を含めた全面的なリフォームを望んでいた。開発地は道路巾や隣棟間隔が比較的広く取られ、住戸に南庭がある、計画学的にはよくできた街である。ただ、各々のハウスメーカーによる住宅はよく見ると違った意匠だが、短期間にほとんどすべての街が作られたため、とても均質な街並みが続いていた。これらの住宅は独自に開発された軽量鉄骨部材で作られ、通常の確認申請ではなく型式適合認定を受けるため、外形や柱位置を変えるなどの木造住宅のような自由度でリフォームを行うことは難しかった。

【庭の形】
当初、南側に広く取られた庭の半分以上が駐車場で既成品のカーポートが架けられており、残りは手入れされていない植栽が放置された状態だった。そこでリビングと同程度のコンクリート平面を南庭に取り、一部を持ち上げて下部を駐車場とすることで、庭と駐車場を平面的に重ねる計画とした。両者が重なる部分は段状の庭として2Fレベルまで迫り上がり、住戸建物との垂直的な関係をつくり出す。またこの平面はリビングやキッチンと通路で繋がれ、スチール製の屋外家具が置かれることで、晴れた日の屋外リビングとして使われる。壁面線が指定されているため通常より広い隣地との隙間に配置された通路は、屋外リビングと同様に周囲とのコミュニケーションを形づくる。

1階は複数の小部屋をまとめて大きなワンルームとして計画し、その際に現れる既存の軽量鉄骨柱を棚やハンガー、時計、照明などの機能を加えることで家具化した。

【住宅の外観】
住宅の外観は、本体の外形だけでつくられるわけではない。塀や門扉、倉庫、カーポート、ポスト、植木などの敷地外に現れる多くの要素との総体がその外観をつくり出す。この計画では、建築より小さな家具的な要素の在り方をデザインすることで、屋内の使用とその外観を変えることを試みた。この住宅の新しい外観は、周囲に対して信頼とコミュニケーションを求めようとする住人の意図を表現しているはずである。

所在地 奈良県生駒市
設計 香川貴範+岸上純子/SPACESPACE
施工 近鉄不動産
主要用途 個人住宅(リノベーション)
構造 田口雅一、片岡慎策/TAPS建築構造計画事務所
植栽 松下岳生/環境デザイン事務所素地
主体構造・構法 軽量鉄骨造(既存)、RC造(増築)
階数 地上2階(既存)、地上1階(増築)
敷地面積 211.58m2
設計期間 2011年3月〜9月
工事期間 2011年10月〜2012年2月
撮影 鳥村綱一