コープ共済プラザ

3,700本の鎖樋がファサードに施された建物

デザインコンセプト
担当:株式会社日建設計

東日本大震災の後に始動したプロジェクトで、高密度な都心におけるテナントオフィスの計画である。

キャビネットが倒れ、天井が落下し、多くの帰宅困難者が発生した震災時の記憶も新しい。計画停電や節電状態のなか、照明や空調をセーブしながら働き、窓が開かないオフィスが問題となり、今後の帰宅困難者対策から備蓄品の置場がオフィスを占拠してしまうといった問題など、3.11当時とそれ以降の深刻な経験から、この計画では事業継続のためのより実効性の高い提案とより高い環境性能との融合が求められた。

オフィスの窓前面に設けた植物が絡む鎖のスクリーンは、条例による緑化が主だが、通常は屋上緑化として計画される。しかし、屋上緑化はあまり人の目に触れることはなく、屋上はそもそも断熱されているので、室内環境への寄与も少ない。

今回は太陽熱給湯器を屋根に設置した。その太陽熱で冷房するシステムを採用したこともあり、屋上は緑化できないためファサードに緑化を組み込んでいる。こうすることで植物が日除けとなり、各階の窓辺で緑の成長や季節の変化を楽しめるようになる。また鎖の上部から散水することにより通常のグリーンカーテン以上に軒先を冷やし、都市のヒートアイランド化を抑制するクールスポットをつくり出す。

より簡素で汎用性が高い技術、または長い時間を生き抜いてきた技術でできているものの方が継続的でより大きな広がりを促すだろうと考え、ローテク、規格品を利用しながら、新しいファサードをつくれないかと試みた。鎖の輪の大きさと植物の登り方の相性まで実験によって確認し、植物の配置は慎重に決めたが、植物は人の手によって季節ごとに剪定されたり植え替えられたりしながら、この街の緑として根付いていく事だろう。

また、オフィス内部のデスクレイアウトから見直しを始め、熱負荷が大きい窓際を通路空間とするレイアウトを貸し方の基準とすることで、ペリメーター空調を不要とし、より多くの人が窓辺を楽しめるようにした。太陽熱で冷房ができる新しい空調システムの採用により根本的な体質改善を図った。

また、落下の心配がある吊り天井が不要で、天井内機器を床下に収める逆スラブの構造躯体は、凹凸のない天井スラブとなり、自然排煙を可能にし、非常時にしか必要がない排煙設備も不要になる。排煙窓はバルコニーに面した掃出し窓で、バルコニーへの出入りと自然換気を兼ねている。天井スラブはスラブ上部に敷設した冷温水配管により輻射冷暖房の輻射面も兼ね、ナイトパージの際には蓄熱体となり熱効率を高める。逆張りの床下空間は、床染み出し空調のためのチャンバー空間、空調機器を収める空間、水や食料を備蓄する空間になっており、窓先のバルコニーでは、植物のための豊かな土壌を収める大きな鉢になっている。スラブを逆にするという単純な操作が、環境の時代かつ、震災後の数々の新しい要望に応えることにつながっている。

デシカント空調や吸着式冷凍機など最新のシステムに支えられた空間は、大幅に照明負荷を削減するタスク・アンビエント照明や床染み出し空調によって、より身体にやさしい環境をつくりだした。天井のベース照明や吹き出し口は見当たらないが、照度環境や吹き出しの強弱を手元の照明や、カーペットを移動することによってワーカーは自分で調整できる。

こうした逆行にも見えるローテク化で働き手の能動的な関与が生まれ、このワークプレイスはより働き手に馴染み、新しい快適性を生んでいくだろう。建築が全自動ではなく、使い手にゆだねることは使い手を信頼することでもある。そうした信頼が建築と人と環境の関係をより豊かにできるのだとすれば3.11の「悲劇」を「試練」に変える建築の一つの解答と言えるのではないか。
(日建設計 / 羽鳥達也)

現代建築にフィットするモダンな鎖樋・「筒(toh)」

コープ共済プラザのファサードに採用された鎖樋(※)「筒(toh)」のデザインは、インテリアデザイナー・橋本潤氏によるもの。富山県高岡市の金属加工会社・瀬尾製作所が橋本氏とともに意匠性を保ちながら雨水の排出を実現するための商品開発を行い、深絞り技法によってシンプルかつ細部までこだわり抜いた形状を実現した。通常の鎖樋は輪でつなぐため連結部が目立つが、筒(toh)は線でつなぐことで浮遊感のある静かな佇まいとなっている。(※筒は約700本使用)

※鎖樋(くさりとい):住宅の軒樋などから垂れ下がっている鎖状の樋で、軒樋から屋根の雨水を受け、雨水を家の側面から地上に流すためのもの。

所在地 東京都渋谷区千駄ヶ谷
建築 日建設計(中本太郎 / 羽鳥達也 / 湯沢省二 / 山口智子)
構造 日建設計(吉江慶祐 / 村上博昭 / 今枝裕貴)
電気設備 日建設計(岸克巳 / 原耕一朗 / 瀬川英行 / 土井川克洋)
空調衛生設備 日建設計(堀川晋 / 村松宏 / 張兆明)
ランドスケープ 日建設計(根本哲夫 / 西大輔 / 豊田充規)
3Dモデリング 穂積雄平 / 中村裕子 / 宮川健太
シミュレーション 永瀬修 / 古川ひろみ
監理 日建設計(山崎淳 / 石倉義行 / 植田義和 / 安川秀一)
敷地面積 1,556.80m2
建築面積 1,216.15m2
延床面積 8,652.86m2(容積対象床面積 7,363.78m2
主体構造 SRC造、一部鉄骨造、基礎免震構造
杭・基礎 べた基礎