“わたしたち”という名の地下鉄がつくる市民の出番 - 地下鉄東西線WE(1)

“わたしたち”という名の地下鉄がつくる市民の出番 - 地下鉄東西線WE(1)

“わたしたち”という名の地下鉄

2015年12月6日、”わたしたち”という名の地下鉄「仙台市地下鉄東西線 WE」が開業した。

仙台市に新たに生まれた「仙台市地下鉄東西線 WE(以下、東西線 WE)」は、仙台市にとって、いや全国的に見てもビッグプロジェクトであることは間違いない。すでに仙台市民の足として存在している地下鉄南北線に、「東西線 WE」という13駅の新機軸が加わることによって、都市の骨格となる十字の交通軸が整うことになる。

仙台市地下鉄東西線 WE

仙台市地下鉄東西線 WE

この「東西線 WE」は、駅構内や車両が特段目を引くデザインなわけではない。むしろ、いたってふつうの地下鉄だ。しかし、これからの「まちづくり」に必要になってくるであろう、「じぶんごと」と「市民参加」という考えたかたが強く打ち出されている。それは「公共事業2.0」というべき新しいプロジェクトの形だ。

このプロジェクトはスタート当初から、単にインフラをつくることだけがゴールではなかった。「東西線 WE」の開業をきっかけに、市民参加型の「まちづくり」を目指していたのだ。しかし、少子高齢化や低成長など、さまざまな課題に直面する時代の「まちづくり」には、枠組みを越えた取組みが求められている。そのためには、当然のことながら戦略的なPRの推進が必要になってくる。仙台市交通局が主体となり、プロジェクト推進担当の仙台市市民局との連携のもと、プロモーション戦略の策定はプロポーザル方式により外部委託を行った。

さまざまな提案の中から、単なる告知・イベント計画ではなく、市民を「じぶんごと」に巻き込む、仕組みづくりのブランド戦略を提案した電通東日本が選定された。起用されたプロデューサー陣との話し合いを重ね、2014年3月30日に、コンセプトやスローガン、ロゴなどが発表され、いよいよ「WEプロジェクト」がスタートした。

コンセプトは「みんなでつくる、みんなの地下鉄。」

「WEプロジェクト」には、「 みんなでつくる、みんなの地下鉄。」 というキャッチフレーズを掲げられている。地下を走る移動手段にとどまらず、これからの仙台市の「まちづくり」を担う重要な基盤になるような、「まちのコミュニケーションツール」として市民と共に付加価値を創り出していく、そんな思いが込められている。

もともと、仙台は「定禅寺ストリートジャズフェスティバル」や「光のページェント」のように、市民の発案から全国規模に育ったイベントもあり、市民活動の意識レベルの高い土壌にある。「WEプロジェクト」では、市民が参加する「場」をつくり出すことを強く意識している。東西がつながることで新しい文化やビジネスチャンスが生まれる可能性が高いからだ。

・「まちづくり」に必要な知識やノウハウを学び、思いを形にする市民プロデューサーを生み出す場である「WE SCHOOL」
・市民プロデューサーが、仙台を盛り上げるアイデアを自らプロジェクトとして実現する場の「WE STUDIO」
・プロジェクトを市民に発信する場となる「WE TUBE」

この3つの”WE”を重ね合わせて進めていくことによって、市民参加の「まちづくり」を実現していくという構想だ。

2014年3月30日の市民ミーティングでプロジェクトの全容を発表されたとき、集まった300名を超える市民には「どうやら自分自身も参加できるらしい」という期待感を持って受け止められた。しかし、「WEプロジェクト」のコンセプトを伝えるイメージ訴求を中心に展開してきたので、まだ「東西線 WE」との関係が掴みづらかったのもまた事実のようだ。この時点ではまだまだ行政主導の感があったのだろう。

公共事業の新しいカタチ、「仙台をつくる人をつくる。」

「東西線 WE」の開業を目前に控えた11月2日、仙台市のせんだいメディアテークで「地下鉄東西線WEを使い倒そう! 仙台のミライ 決起集会」が行われた。

「東西線WE」開業に向けたにぎわいづくりの事例が発表。株式会社藤崎、カメラ女子ピクニック隊、なかやま商店街、東北工業大学学生有志団体colors×せんだいリノベーションまちづくり、仙台ドラマプロジェクト、それぞれのプロジェクトのメンバーから、この街だからできる新しい可能性について語られた。

奥山恵美子仙台市長

奥山恵美子仙台市長

株式会社藤崎の有志による「地下鉄東西線開業プロジェクト」は、地域に根ざした老舗百貨店らしく、地域と連携した「愛」のある企画だと感じた。また、「仙台ドラマプロジェクト」は東西線を巡る若者たちの熱き青春群像「WE are The Champions!! 」を制作。何百人もの仙台市民が参加し、脚本、出演、撮影といった制作全般だけではなく、資金調達にいたるまで自分たちの手で達成し、MMTミヤギテレビでの放送枠まで獲得したのだから驚くべきものだ。

「WEプロジェクト」の概要を説明する、プロデュースメンバーの志伯健太郎氏

「WEプロジェクト」の概要を説明する、プロデュースメンバーの志伯健太郎氏

そして、「WEプロジェクト」プロデュースメンバーの志伯健太郎氏によって、開業にむけたプロジェクトの動きが改めて説明された。プロジェクト開始時より、仙台市からは「市民参加」という明確なミッションが与えれていたと語る。多額の税金を使ったプロジェクトであり、沿線のためだけではない、それ以上の波及効果が求められた。

まず、このプロジェクトは名前をつけるところからはじまっている。「West meets East」、「わたしたちの」、”WE”という二文字がそのままプロジェクトのコンセプトをあらわす、わかりやすさが仙台市民から親しまれそうだ。そして、「仙台をつくるひと」をつくるだけでなく、市民の「出番」と「居場所」をつくることも必要だと語られた。「WEプロジェクト」は、これからの公共事業のケーススタディであり、いかに街を「じぶんごと」にしていくことが間違いなく鍵となるだろう。

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