第19回文化庁メディア芸術祭の受賞作品が発表。海外からの応募が半数を超える結果に

第19回文化庁メディア芸術祭の受賞作品が発表。海外からの応募が半数を超える結果に

第19回文化庁メディア芸術祭の受賞作品が11月27日に発表された。今年度は世界87の国と地域から4,417作品の応募があり、過去最多の応募数となった。そのうち国内からの応募は2,201作品、海外からの応募は2,216作品となり、ともに過去最多を記録した。

文化庁メディア芸術祭はメディア芸術の振興を目的とした祭典で、アート・エンターテインメント・アニメーション・マンガの4部門において優れた作品を顕彰し、受賞作品の鑑賞機会を提供するものだ。以下、受賞作品の一部を紹介する。

アート部門

大賞作品はイギリスのCHUNG Waiching Bryan氏の「50 . Shades of Grey」が選ばれた。プログラミング言語を使用した、コンセプチュアルな視覚的作品で、額装した6枚のシートには黒から白への50階調のグラデーションを表示させるための6種類のソース・コードが描かれている。作者が過去30年間に学んださまざまなプログラミングの言語やソフトウェアを用いてつくられており、作者の歴史とメディアアートの歴史が重なったような作品。見た目は素っ気なくさえ見えるが、そこに異質な層が徐々に見えてくる豊かさが評価された。

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アート部門大賞『50 . Shades of Grey』CHUNG Waiching Bryan © 2015 Bryan Wai-ching CHUNG

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CHUNG Waiching Bryan氏

また、優秀賞には長谷川愛氏の「(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合」のほか3作品が選ばれた。

エンターテインメント部門

大賞作品は岸野雄一氏が手がけた、子どもたちのための音楽劇「正しい数の数え方」。本作は、人形劇+演劇+アニメーション+演奏といった複数の表現で構成される、観客参加型のエンターテインメントショーだ。2015年6月にパリのデジタル・アートセンター「ラ・ゲーテ・リリック」の委嘱作品として上演された本作は、1900年のパリ万国博覧会が舞台となっている。公演のために日本からパリを訪れた「川上音二郎一座」が、万博のパビリオンに現われた「電気神」が観客にかけた呪いを解くため、「正しい数の数え方」を求めて旅へ出る冒険物語だ。お手軽なテクノロジーに埋没しない原初的な魂が宿っている点などが高く評価された。

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エンターテインメント部門大賞『正しい数の数え方』岸野雄一 © 2015 Out One Disc

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受賞した岸野雄一氏は、「自分自身の表現のスタンスは、大衆芸能、見せ物、といったものです。道端(ストリート)という市井にこそもっともメディアとしての可能性を感じています」と、アーティストとしての姿勢を語った。

アニメーション部門

大賞作品はフランスのBoris LABBÉ氏の「Rhizome」。本作は圧倒的な緻密さと極端な構図で展開される短編アニメーション作品だ。一見するとすべてCGで作ったようだが、ドローイングとデジタルが合成されている。フランスの哲学者ジル・ドゥルーズと精神科医フェリックス・ガタリの共著「千のプラトー」(1980)で複雑に展開されるリゾーム(Rhizome)という概念からインスパイアされた作品で、未知の生態系を覗き見る喜びや、絵に擬似的な生命感を与えるアニメーションの原始的なおもしろさなどが受賞につながった。

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アニメーション部門大賞『Rhizome』Boris LABBÉ © Sacrebleu Productions

アニメーション部門の優秀賞には岩井俊二氏の「花とアリス殺人事件」ほか3点が選ばれた。

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Boris LABBÉ氏

マンガ部門

年々応募数が増加し、900を超える応募の中から選ばれた大賞には、東村アキコ氏の「かくかくしかじか」が選ばれた。本作は作者の自伝的作品で、少女マンガ家を夢見ていた頃から夢を叶えてマンガ家になるまでと、その後の半生が描かれている。「マンガ大賞2015」受賞などで評価を受けているが、完結巻が審査委員一同の胸を打ち、大賞贈賞に至ったという。完結後も初の歴史ものや探偵ものに着手するなど作者の攻めの姿勢も評価された。

受賞した東村氏は、「この作品は、絵を描き始めた頃に習った恩師とのエピソードを、ただ紙の上におこしたものです。青春時代にやり残したことをこのマンガを通して消化できたような気持ちでいます。これからも私にしか描けないマンガを描き続けていきたい」と、語った。

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マンガ部門大賞『かくかくしかじか』東村アキコ © Akiko HIGASHIMURA / SHUEISHA

また、マンガ部門の優秀賞には業田良家氏の「機械仕掛けの愛」が選ばれた。業田氏は、これまで映画化もされた「自虐の詩」などで“人生に意味はあるか”“人間の想いは永遠であるか”などのテーマを描いてきたが、本作ではロボットの営みを通して“人間とは何か”“心とは何か”を表現している。

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また、メディア芸術分野に貢献した人に贈られる功労賞は、ファミリーコンピューター(ファミコン)などの開発を手がけた、上村雅之氏のほか3名が受賞した。

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昨年の様子

なお、受賞作品展は2016年2月3日~2月14日まで、東京・六本木の国立新美術館を中心に開催される。展覧会では4部門を対象に世界中から選ばれた受賞・審査委員会推薦作品、功労賞受賞者の功績などを展示や上映、様々なプログラムを通じて紹介する。エンターテインメント部門の大賞を受賞した岸野氏は、期間中に会場にて連日公演する予定です、と意欲溢れる様子だった。

公式サイト
http://festival.j-mediaarts.jp/