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ASAHIKAWA DESIGN WEEK(旭川デザインウィーク)

ASAHIKAWA DESIGN WEEK
(旭川デザインウィーク)

日本有数の家具産地で開かれたデザインイベント

2015/07/29

JDN編集部

1955年に始まった旭川家具産地展。61回目となる2015年から「ASAHIKAWA DESIGN WEEK(旭川デザインウィーク、以降はADW)」とその名称を一新、6月24~28日に開催された。クリエイティブディレクターとして青木昭夫氏(MIRU DESIGN)が招聘され、東京からも多くの関係者が現地に入り、例年にない注目を集めた今年の旭川。会期後半の二日間、現地を訪れることができたので、その様子をお伝えしたい。

旭川という地域の可能性

ADWの主催者には業界団体の旭川家具工業協同組合だけでなく、旭川市、旭川商工会議所も名を連ねる。駅前のメインストリート、日本で最初の歩行者専用道路である平和通買物公園にはイベントのフラグがはためき、46社を数える地元の家具・木工クラフトメーカーが結集して新製品発表や工場見学を行い、市内各地では関連イベントが行われた。地域をあげての取組であることは、一時的な来訪者にも充分に感じられた。

平和通買物公園のフラグ
平和通買物公園のフラグ
ADWの中核会場、旭川家具センター
ADWの中核会場、旭川家具センター
国際家具デザインコンペティションからの製品化(2008年の最高賞Gold Leaf 「BARCA(バルカ)」、カンディハウス製造)
国際家具デザインコンペティションからの製品化(2008年の最高賞Gold Leaf 「BARCA(バルカ)」、カンディハウス製造)

ところで、日本の家具産地といえば、旭川の他に、静岡、飛騨高山、広島の府中、徳島、福岡の大川といった地域が知られており、それらを六大産地と称することもある。それぞれの産地による同様な取組として、静岡は例年6月に「シズオカ[KAGU]メッセ」、飛騨高山は例年9月に「飛騨の家具フェスティバル」、大川は毎回100社以上の出展数で年4回も展示会を開催している。

そうした中で、旭川の特徴は何かと考えると、まず3年に一度の国際家具デザインコンペティションと、このコンペを中心とする「国際家具デザインフェア旭川(IFDA)」をあげることができる。1990年より開催され再来年の2017年に10回目を迎える企画で、前回は世界36カ国・地域から870件の応募があった。規模とレベルという点で、世界的に注目されいてるコンペと言える。川上元美氏が審査委員長で、2014年にはコンペ審査員である深澤直人氏と北海道出身でもあるナガオカケンメイ氏のトークセッションも行われた。

それと共に、60回を越える長い歴史、最大級の地元出展者数、イベント自体の一般公開というADWの特徴があり、それを支える積極的なメーカー・ブランドの多さ、過去に家具デザインを専攻できる大学があったこと、そして、これらによって培われた国内外における家具やデザインのネットワーク等をあげることができるのだろう。

一方、世界的な視野で家具、特に木製家具を見渡すならば、北欧の存在感は強いものがある。ただ意外なことに、その存在感に比べると規模はそれほど大きくはない。たとえば、コーア・クリント、アルネ・ヤコブセン、ハンス・J・ウェグナーという巨匠デザイナーを生んだデンマーク。その人口は北海道とほぼ同じ560万人で、面積は北海道の半分程の4万3千平方km、GDPは3152億米ドルで北海道の約1.5倍である※。欧州と比較すると、家具自体の歴史の浅さと、ミラノ等の情報拠点からの遠さはいかんともしがたいが、逆に日本はアジア市場には近い。そう考えると、日本の家具、特に旭川は、アジアにおける北欧のような存在になる可能性もあるのではないだろうか。

※県民経済経産 - 内閣府
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/sonota/kenmin/kenmin_top.html

ASAHIKAWA DESIGN WEEK

会場が広域に渡るので、イベントの全体像を見渡すには車で巡ることになる。見たいポイントを絞れば一泊二日でも行程は組めるだろう。中核会場である旭川家具センターでは34社による新作等の展示が行われると共に、旭川出身である建築家・藤本壮介氏によるインスタレーション、「君の椅子」、「Asahikawa Woodworking ─ 旭川の木工」の展示が行われた。10年目となる「君の椅子」は、誕生した子どもに椅子を贈るプロジェクトで旭川家具の職人が毎年交代で担当している。「Asahikawa Woodworking ─ 旭川の木工」は北海道土産の定番である木彫りの熊の歴史と見どころを紹介。

工場見学については平日のみの実施が多い。今回はカンディハウス、匠工芸、タイムアンドスタイルの工場を見学することができた。

  • 工場見学、カンディハウス
    工場見学、カンディハウス
  • 工場見学、匠工芸
    工場見学、匠工芸
  • 工場見学、タイムアンドスタイル
    工場見学、タイムアンドスタイル

旭川の大きな資産といえる「織田コレクション」。世界的な椅子研究家である織田憲嗣氏による椅子を中心とする膨大なコレクションだ。昨年のウェグナー展に続く今年は「イタリアンデザイン ─ 原型をつくる」というタイトルでイタリアの家具と日用品が展示された。キュレーションはデザインジャーナリストの土田貴宏氏。

また、様々な会場を横断して目にすることが多かったのが「ここの木の家具・北海道プロジェクト」。2014年に始まった北海道の森の木で家具を作る取り組みだ。北海道産広葉樹について、丸太の見立てから製材、乾燥、木取りといった工程全てを地元で行い、木部の外観表面の80%以上に北海道産広葉樹を使った家具が認定される。

デザインギャラリーで開かれた藤本氏トークイベント
デザインギャラリーで開かれた藤本氏トークイベント

初日のオフィシャルパーティーは、東京からもジャーナリストや関係者が訪れ600人もの来場者で賑わったそうだ。青木昭夫氏と土田貴宏氏による「ミラノサローネディスクリプション」、藤本壮介氏の特別講演といったトークイベントも満員。ADW全体の来場者数はというと、5700人で前年の2倍。一般の来場者が多い土日に限ると旭川家具センターへの来場者数は前年比230%だという。地元メディアへの露出や併催イベントの効果による、地元の人々への浸透も大きなものがあったということだろう。

短い滞在時間ではあったが、何よりも、地元で運営に関わっている人々のやる気と活力、盛り上がりが感じられるイベントだったことが印象的だ。東京のイベントと違うのは、産地であり地域である、ということだろうか。梅雨時期の東京から爽やかな北海道を訪れたせいか、東京に感じる閉塞感からも開放された二日間だった。

今回のADWを上記のような視点と共に振り返ると、来年以降のさらなる盛り上がりを期待せずにはいられない。2016年の会期は、6月22日(水)~26日(日)と発表されている。

  • 藤本壮介氏によるスペシャルインスタレーション
    藤本壮介氏によるスペシャルインスタレーション
  • 藤本氏の記憶にある旭川の森の風景がイメージ
    藤本氏の記憶にある旭川の森の風景がイメージ
  • 君の椅子プロジェクト
    君の椅子プロジェクト
  • メーベルトーコー(左)、ソファー工舎(右)/旭川家具センター
    メーベルトーコー(左)、ソファー工舎(右)/旭川家具センター
  • アルフレックスジャパン/旭川家具センター
    アルフレックスジャパン/旭川家具センター
  • ササキ工芸/旭川家具センター
    ササキ工芸/旭川家具センター
  • タイムアンドスタイル/旭川家具センター
    タイムアンドスタイル/旭川家具センター
  • 匠工芸(手前)、ウッドワーク(奥左)、山上木工(奥右)/旭川家具センター
    匠工芸(手前)、ウッドワーク(奥左)、山上木工(奥右)/旭川家具センター
  • ガージーカームワークス/旭川家具センター
    ガージーカームワークス/旭川家具センター
  • カンディハウス/旭川家具センター
    カンディハウス/旭川家具センター
  • ADWカフェ/旭川家具センター
    ADWカフェ/旭川家具センター
  • 旭川の木工より/旭川家具センター
    旭川の木工より/旭川家具センター
  • 「イタリアンデザイン ─ 原型をつくる」展
    「イタリアンデザイン ─ 原型をつくる」展
  • 「イタリアンデザイン ─ 原型をつくる」展 (2)
    「イタリアンデザイン ─ 原型をつくる」展
  • 満員のミラノサローネディスクリプション
    満員のミラノサローネディスクリプション
  • タイムアンドスタイル、工場見学
    タイムアンドスタイル、工場見学
  • タイムアンドスタイル、工場見学 (2)
    タイムアンドスタイル、工場見学
  • タイムアンドスタイル、工場見学 (3)
    タイムアンドスタイル、工場見学
  • 匠工芸、ショールーム
    匠工芸、ショールーム
  • 匠工芸、ショールーム (2)
    匠工芸、ショールーム
  • 匠工芸、ショールーム (3)
    匠工芸、ショールーム
  • カンディハウス、ショップ
    カンディハウス、ショップ
  • カンディハウス、ショップ (2)
    カンディハウス、ショップ
  • カンディハウス、パーティの様子
    カンディハウス、パーティの様子
  • ここの木の家具・北海道プロジェクト
    ここの木の家具・北海道プロジェクト
  • ACDA会員展 クラフトダイニング
    ACDA会員展 クラフトダイニング
  • 街中に溢れたADWブルーのロゴマーク
    街中に溢れたADWブルーのロゴマーク

ASAHIKAWA DESIGN WEEK(旭川デザインウィーク)
http://www.asahikawa-kagu.or.jp/adw/

旭川家具工業協同組合
http://www.asahikawa-kagu.or.jp

IFDA ASAHIKAWA
http://www.ifda.jp/

「ASAHIKAWA DESIGN WEEK」開催。名称を「旭川家具産地展」から一新
http://www.japandesign.ne.jp/editors/150317-adw/