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1989年以降の社会・テクノロジー・作品のリンクにフォーカス、「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム」

1989年以降の社会・テクノロジー・作品のリンクにフォーカス、「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム」

2015/07/16

JDN編集部

1989年、手塚治虫が亡くなり、時代が昭和から平成に変わった年。そこからの約四半世紀の間に、日本は幾度かの震災やテロ事件を経験し、また一方でインターネットやスマートフォンの普及など、想像もしなかったスピードでテクノロジーの進化を享受してきた。そうした社会や世相の変化を作品世界に反映してきたのが、マンガ、アニメ、ゲームだといえるだろう。その多様な表現は、日常と非日常をリンクさせて現実を拡張し、未来の世界をも提示してきた。

東京・六本木の国立新美術館で開催中の「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム」は、1989年からのおよそ25年間に焦点をあて、複合的でボーダーレスな進化を続ける日本のマンガ、アニメ、ゲームの創造力をとおして、社会のめまぐるしい変化の一側面を見る展覧会だ。

本展覧会は1989年以降に制作されたマンガ、アニメ、ゲーム作品を、作品と作品の関係性、そして同時代の社会やテクノロジーと作品との関わり合いを、8つの章で構成している。

第1章 現代のヒーロー&ヒロイン

展覧会のプロローグとして、1989年以降に誕生したヒーローやヒロインを紹介。マンガ、アニメ、ゲームの「王道」ともいうべき、熱気あふれるテーマの作品を紹介。30周年を迎える「スーパーマリオブラザーズ」、「NARUTO -ナルト-」、「鋼の錬金術師」、「美少女戦士セーラームーン」、「ふたりはプリキュア」、など誰もがハマったとは言わないが、そのタイトルぐらいは知っていると思われる名作に出迎えられる。

「NARUTO -ナルト-」ほか
「NARUTO -ナルト-」ほか
「美少女戦士セーラームーン」ほか
「美少女戦士セーラームーン」ほか

第2章 テクノロジーが描く「リアリティー」―作品世界と視覚表現

情報通信技術の発達やインターネットの広がりはコミュニケーションの形を大きく変化させた。第2章では仮想現実や拡張現実、ロボットといったテクノロジーやネットワーク社会を背景とした世界観を持つ作品や、3次元CGなどのデジタル映像技術を駆使した作品を紹介。続く第3章ともリンクするような構成だ。個人的には、この章がアニメやゲームでの表現が日本らしいオリジナリティを獲得した領域のように感じる。特に押井守監督による、「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」や「機動警察パトレイバー 2 the Movie」などは、後のネット社会の隆盛を予見していたような作品だった。

「サマーウォーズ」/「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム」
「サマーウォーズ」/「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム」
「電脳コイル」/「ソードアート・オンライン」
「電脳コイル」/「ソードアート・オンライン」
「ファイナルファンタジーⅦ」/「バイオハザード HD リマスター」
「ファイナルファンタジーⅦ」/「バイオハザード HD リマスター」
Play Stationの歴史
Play Stationの歴史
「Fate/stay night」/「CRIMSON ROOM」
「Fate/stay night」/「CRIMSON ROOM」

第3章 ネット社会が生み出したもの

デジタル技術とネット社会の広がりによって、マンガ、アニメ、ゲームが生まれ、共有される構造は変化してきた。インターネット上での情報共有やコミュニケーションが、新たな作品を生み出す土壌となっているといえる。第3章では個人/同人制作や二次創作など、ネット社会を背景とした、新たなプロセスの中で生み出された「ほしのこえ」や「ひぐらしのなく頃に」などの作品を紹介。

第4章 出会う、集まる―「場」としてのゲーム

第4章では、「コミュニケーションの場」と呼ぶべく進化した、「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」や「モンスターハンターポータブル 2nd」などのゲーム作品を紹介。ゲームはひとり部屋にこもって遊ぶものではなく、キャラクターの身体を借りてインターネット上の「仲間」と共同でミッションをクリアすることなど、ゲームの世界でも他者とのコミュニケーションが必須のものとなった。つまり、ゲームのプレーヤーは作品の実演者であり、作品の「完成形」を押し広げる役割を担うようになったのである。

ゲームボーイ・ニンテンドーDSなどファミリーコンピュータの歴史
ゲームボーイ・ニンテンドーDSなどファミリーコンピュータの歴史
「モンスターハンターポータブル 2nd」/「モンスターハンター 4G」
「モンスターハンターポータブル 2nd」/「モンスターハンター 4G」

第5章 キャラクターが生きる=「世界」

「プロ野球チームの監督になりたい」「アイドルのプロデュースをしたい」、現実ではかなわなそうな夢も、マンガ、アニメ、ゲームの作品の上でなら体験することができる。例えば、ボーカロイド・ソフトウェア「初音ミク」を「プロデュース」し、楽曲をインターネットに公開することで、真の意味で「プロデューサー」になることも可能だ。第5章では、アイドルの卵、プロ野球選手、歴史上の人物、さまざまな「キャラクター」たちの生きる、現実とは地続きのもうひとつの「世界」を表現した作品を紹介。

「アイカツ!」/「初音ミク」
「アイカツ!」/「初音ミク」
「実況パワフルプロ野球2014」/「ワールドサッカー ウイニングイレブン 2015」
「実況パワフルプロ野球2014」/「ワールドサッカー ウイニングイレブン 2015」

第6章 交差する「日常」と「非日常」

物語の中の非日常的な異物が日常的な生活や風景と共に描かれ、見る者と作品世界との距離を縮めて奇妙なリアリティーを与える。そうした表現に多くの人が「新世紀エヴァンゲリオン」ではじめて出会った。人間関係という日常的な要素が非日常と深く関わりあう不可思議な関係性を提示した作品、日常と非日常がさまざまに交差した作品を第6章では紹介。限りなくノンフィクションに近いフィクションではなく、作品を構成する要素として日常と非日常はほとんど等価に扱われる。

「新世紀エヴァンゲリオン」
「新世紀エヴァンゲリオン」
「あずまんが大王」/「涼宮ハルヒの憂鬱」
「あずまんが大王」/「涼宮ハルヒの憂鬱」

第7章 現実とのリンク

マンガ、アニメ、ゲームは時に現実の社会からの影響を色濃く受けた作品を生み出す、特にマンガは世相に素早く反応し、その時々に応じた多彩な題材が扱われるジャーナリスティックなメディアでもある。特に日本における幾度かの震災のインパクトは、多くの作品に強い影響を与えた。第7章では、現実とリンクした多様なテーマを持つマンガを中心に紹介。90年代以降のマンガは学校や恋愛、スポーツといったテーマに加え、働くこと、作ること、日本の伝統文化の継承など、実社会との接点を持った題材の作品が次々に生み出されている。

「ピンポン」/「モンキーターン」
「ピンポン」/「モンキーターン」
「ジョジョリオン―ジョジョの奇妙な冒険 Part8」/「イタズラなKiss」
「ジョジョリオン―ジョジョの奇妙な冒険 Part8」/「イタズラなKiss」

第8章 作り手の「手業」

アニメの動きやゲームにおける緻密に練られた映像表現も、マンガにおける3D表現のリアリティも、ITや映像技術の進化だけで実現できるわけではない。技術を使う作り手の「ワザ」と「熱量」が込められてこそ生まれるものだ。展覧会の最終章では、作品の作り手に注目し、その「手業」を紹介。最後は手塚治虫の「メトロポリス」によって締められる。

奥浩哉と「GANTZ」/板野一郎と「マクロスプラス」
奥浩哉と「GANTZ」/板野一郎と「マクロスプラス」
メトロポリス/今敏と「パプリカ」
メトロポリス/今敏と「パプリカ」

本展覧会は、1989年以降のマンガ、アニメ、ゲームのすべてを網羅しているわけではないし、社会とテクノロジーの変容にともなったメディアの変化の側面を提示したともいえる。マンガ、アニメ、ゲームというポップカルチャーの成熟を感じさせられると同時に、まだまだ形になっていないエネルギーも秘めているのでないかと感じた。

「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム」 
会場:国立新美術館 企画展示室1E
開催期間:2015年6月24日(水)~8月31日(月) 
http://event.japandesign.ne.jp/2015/04/7058/