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ライゾマティクスの流儀でグラフィックデザインに真っ向から対峙、「ライゾマティクス グラフィックデザインの死角」
2015/06/23
JDN編集部
「ライゾマティクス グラフィックデザインの死角」-なんて挑戦的なタイトルなのだろう…と率直に思った。しかし、これまで既存の枠組みに捕らわれない、多様な表現方法よる作品を発表してきたライゾマティクスだから、その期待値は高まるばかりだった。
今回、展示が行われるギンザ・グラフィック・ギャラリーの公式サイトに掲載されている情報によれば、「日本を代表するグラフィックデザイナーである田中一光氏のポスター作品を徹底的に解析するなど、ライゾマティクスらしい手法により、従来のデザインフローとは違う新たなグラフィックデザインのプロセス、グラフィックデザインの死角に迫ります」と明記されていたが、“徹底的に解析する”ということの意味が展示を見るまでは想像ができなかった。
展示内容は大きく分けると、「配色~色彩の鼓動~」「構成~画面の骨格~」「感性~意匠の心~」、そして「死角~創意の根幹~」の4つで構成される。事前の情報だと、解析の対象となったのは、田中一光氏のポスター作品だけだったが、ふたを開けてみると、田中一光氏、永井一正氏、福田繁雄氏、横尾忠則氏、日本のグラフィックデザインの礎を築いたと言っても過言ではない、4名の巨匠の3000にも及ぶ膨大な作品をデータ解析することによって、「スタイル」という名の「アルゴリズム」を浮き彫りにしようという試みだ。
配色~色彩の鼓動~
まず、「配色~色彩の鼓動~」について。各デザイナーの作品をスキャンし、CMYKからRGB化した後、等色差性を持つLab色空間に変換。Lab色空間は国際照明委員会(CIE)が規格化した補色空間の一種で、人間の感覚に近い均等な色空間として考案された。その補色空間に変換したうえで、中心点を特徴色として抽出してクラスタリングすると各デザイナーがよく使う10色の配色パターンが見えてくる…とだけ書くとなかなか分かりづらいかも知れない。端的に言うと、各デザイナーの膨大な作品をデータ化することで、作家性と言って良いカラーリングの傾向が分かるのだ。配色結果を見ると、白と赤が多く占める田中一光氏の配色が、いかにも田中一光氏的なのがおもしろいし、永井一正氏と福田繁雄氏の配色が一見すると近しい結果になったのも興味深い。その点、横尾忠則氏は我が道を行くと言うか、際立って配分が高いカラーがなく、10色が同じような配分の結果となった。
構成~画面の骨格~
次に「構成~画面の骨格~」について。ここでは、作家がそのポスターにおいて「注目」させるように仕向けたポイント、本展覧会で言うところの「顕著性」を求める画像解析を行う。「顕著性」というのは、この画像の中でどの部分に注視しやすいか?ということを、人の視覚的注意の仕組みから現したもの。各画像の「顕著性」を計算したものとして、さながらヒートマップのような「顕著性マップ」が出来上がるらしい。さらに、各作品のタイトルやインフォメーションなどの文字構成も調べることで、その作家らしい(かつ気づかれにくかった)「顕著」なレイアウトが可視化された。
この時点でグラフィックデザインの巨匠たちの作家性がだいぶつまびらかにされてきた。だが、まだまだ解析の手は緩められない。
そして、導き出された各デザイナーの「顕著性マップ」7パターンに対し、いちばんマッチする作品に深度を適用させて、目立つ部分は前に、そうでない部分は後ろにして、本来は見ることのできない作品の歪みや明暗をあぶりだしたグラフィックが出来上がった。
感性~意匠の心~
ここまで、「配色」と「構成」で解析されたデータを元に、グラフィックデザインが知覚に訴える美しさや心地良さを表現する「感性~意匠の心~」。壁に取り付けられた液晶モニターを窓に見立て、そして壁全体へのプロジェクションで壁の向こう側の風景を表現。窓の外に広がっている景色が、壁を突き抜けて視覚に飛び込んで来るような、開放感のあるインスタレーションだ。これらの映像は自然界で起きていることから着想を得ている。音は映像内に合わせてリアルタイムに生成したり、音をきっかけに映像にも変化が加わったりと、相互に関係しているとのことだ。
死角~創意の根幹~
「配色」「構成」「感性」の各領域での解析結果をかけ合わせて生まれたポスター作品を展示する、「死角~創意の根幹~」。可視化された「顕著性」の分割面に配色を施し、デザイナーが心地良いと感じる部分をトリミング。もっともレイアウトの近いポスターの文字組みを割り当てる。ここでも、デザイナーの目と感性によって、文字組みには調整が加えられる。結果として、さまざまなアイデアから死角を浮かびあがらせ、デザイナーとプログラマーに共同作業による成果物が出来上がった。今回が作成された4枚は研究発表のようでもあるが、最適な技法の選択、最終的に感性によるジャッジを経ているので、やはりグラフィックデザイン作品と呼ぶべきものだ。
「ライゾマティクス グラフィックデザインの死角」という展覧会は、デザイナーだけでは導き出せない答えを、最終的にデザイナーが判断して形にするという、壮大かつ真剣な「遊び」のようだと感じた。「遊び」と書いてしまうと軽く感じるが、込められた熱量はちょっと尋常ではない。だが、制作に関わったメンバーの会期初日の楽しそうな様子を見ると、「遊び」という言葉を使うのが最も適切なように感じる。
「ライゾマティクス グラフィックデザインの死角」制作スタッフ
Art Director / Designer | 木村 浩康 |
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Designer | 小島 一郎、藤井 かおり |
Creative Coder / Programmer | グラフィックデータ解析:登本 悠介 映像、サウンド (感性):堀井 哲史 映像 (配色、構成):田中 陽 |
Space Designer | 元木 龍也 |
Videographer | 本間 無量 |
Support | 渡辺 綾子、太田 あゆみ |
Adviser | 石橋 素、清水 啓太郎 |
Planning | 真鍋 大度 |
Producer | 齋藤 精一 |