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海外との商品開発に挑む有田焼 Supermama × KIHARA「シンガポールアイコン」プロジェクト

海外との商品開発に挑む有田焼
Supermama × KIHARA「シンガポールアイコン」プロジェクト

2015/05/27

レポーター:浜野百合子

シンガポールの有名ギャラリーショップ「Supermama(スーパーママ)」と、日本の伝統産業・有田焼の商社「KIHARA(キハラ)」がコラボレーションしたプレート「OneSingapore(ワンシンガポール)」が今、人気を集めている。日本の商社KIHARAが、どのようにしてシンガポールのデザインキーマンであるSupermamaのEdwin Low(エドウィン・ロウ)氏と出会い、商品開発に至ったのか。プロジェクトの経緯から、海外との商品開発の取り組みを考察する。

シンガポールを象徴するアイコンを描いた有田焼

シンガポール建国の父リー・クアンユー氏を中心に、言わずと知れたマーライオン、マリーナ地区の新スポットに誕生したスーパーツリーなど、シンガポールを象徴する65のアイコンがびっしりと描かれた一枚のプレート「ワンシンガポール」。Supermamaとのファーストコレクションとなった5種の小皿「Singapore Icons(シンガポールアイコン)」シリーズ。

いずれも、白磁に呉須の染付けという伝統的な有田焼ながらも、シンガポールらしいモチーフをデザインすることで、新たな価値が生み出されている。なぜ日本の伝統産業・有田焼とシンガポールのデザインがコラボレーションすることになったのか。

OneSingapore(ワンシンガポール)
OneSingapore(ワンシンガポール)
Singapore Icons(シンガポールアイコン)
Singapore Icons(シンガポールアイコン)
Singapore Art Museum にあるSupermamaのショップ
Singapore Art Museum にあるSupermamaのショップ
際まで描かれた細かなデザインが、皿のカーブで歪まないよう、パット印刷という技法を用いて制作
際まで描かれた細かなデザインが、皿のカーブで歪まないよう、パット印刷という技法を用いて制作
本焼成する前の状態
本焼成する前の状態
有田焼らしく白磁に呉須で染め付けされた藍色が美しい
有田焼らしく白磁に呉須で染め付けされた藍色が美しい

最後にしようと挑んだ海外出展で、きっかけをつかんだ行動力

きっかけは、2012年にシンガポールで開催された、日本製品の海外市場開拓を支援する展示会だった。

15年ほど前から海外市場を視野に入れていた有田焼商社のKIHARAは、これまでドイツのアンビエンテやフランスのメゾン&オブジェなど、国際的なデザイン見本市にいくつか出展してきたものの手応えがなく、海外進出を半ば諦めていた。そうした時期の誘いだったという。

これで最後にしようと参加したシンガポールでの展示会は、これまで経験してきた業者マッチングの機会とは異なり、ショッピングモールでの展示販売会のような内容だった。だが結局、販売成果をあげることができず期待はずれ。

いつもならここで、またダメかと諦めてしまうところだが、今回のKIHARAは違っていた。「現地で販売実績のある有力店での委託販売」と「海外との商品開発」。これらのきっかけがつかめなければ、海外進出を諦めるという瀬戸際の想いがあったからだ。

そこでKIHARAは、たまたま展示を見にきたSupermamaの代表、エドウィン氏に交渉し、なかば無理矢理、展示会のために持ってきた商品をすべて預け、Supermamaのショップで委託販売してもらう契約を取り付けるという行動にでた。

「展示販売で売れ残った商品を、そのまま日本に持って帰るのは、経費もかかりますから(笑)」と話すのは、KIHARAの営業統括マネージャー松本氏。

この行動が功を奏し、ショップでの販売実績を上げ、シンガポールオリジナルの商品開発へと繋がっていく。プロジェクトはトントン拍子に進み、1ヶ月後にはデザインがあがり、さらに2ヶ月後には商品が納品されていた。11月の出展から数えてたった4ヶ月間の出来事だ。

なぜそんなスピードで海外との商品開発プロジェクトを進めることができたのか。ひとつにはエドウィン氏の手腕、もうひとつはKIHARAの開発レスポンスの早さをあげることができるだろう。

デザインキーマンによる、シンガポールクリエイターの活用

シンガポールのデザイン賞「President’s Design Award」を受賞。左)Supermamaのエドウィン氏、右)KIHARAの木原社長
シンガポールのデザイン賞「President’s Design Award」を受賞。左)Supermamaのエドウィン氏、右)KIHARAの木原社長

Supermamaのエドウィン氏は、シンガポールの若手クリエイターらと密接な関係をもつデザイン界のキーマンだ。彼が声をかけることで、すぐに多くのデザインが集まるネットワークを持っている。

また、一歩先を見据えたプロジェクトの進め方も秀逸だ。ファーストコレクション「シンガポールアイコン5種」は、シンガポールデザインウィークで発表するため、開発・制作含め約3ヶ月でスピード納品。お披露目会場では在庫を積み上げ、実際に販売して実績を作った。さらに、次回作となる新たなアイコンを募集するデザインコンペも同時開催するという周到さ。

シンガポールアイコンは、商品としてだけでなく、日本の伝統産業である有田焼の産地とシンガポールデザインを結びつけたプロジェクトとしても高く評価され、2013年、シンガポールの権威あるデザイン賞「President’s Design Award」を受賞。

デザインコンペには予想を越える数の新しいシンガポールアイコンが集まり、「それならひとつのプレートにまとめてしまおう!」と65個のアイコンを一皿に詰め込んだのが、セカンドコレクション「ワンシンガポール」だ。贈答品としても喜ばれ、今では政府関係者も御用達の人気商品となっている。

コミュニケーションの重要性とチャンスをつかみ取るチカラ

シンガポールアイコンと同様のコンセプトで制作されたArita Icon。有田焼にまつわる道具や名所が描かれている
シンガポールアイコンと同様のコンセプトで制作されたArita Icon。有田焼にまつわる道具や名所が描かれている

Supermamaとのコラボレーションで、海外での販売先獲得と商品開発という、ふたつの目的を同時に達成することができたKIHARA。スキルやノウハウとともに、人脈やビジネスの幅も広がった。今ではシンガポールに限らず、オーストラリアやイギリスなど各国の企業からオファーが舞い込むようになっている。

海外との商品開発を経験し、「言葉も文化も違う相手なので、要望を間違いなく理解するのはもちろん、自分たちに何ができるのかを明確にし、必要な情報をわかりやすく伝えることも大切な役割だと実感しました」と松本氏。今後のプロジェクトでもきっと生かされていく強みを得たことだろう。

最後にKIHARAの木原社長に、今回の成功の要因について尋ねると、「これまで失敗を繰り返しながらも、粘り強くやってきたからでしょうか?」と笑った。「あとは出会い。出会いは誰にでもありますが、それをチャンスと捉えてつかみ取ることが大事。チャンスに気づくかどうかは経験値かもしれないですね」。今回はまさしくそのチャンスをつかみ取ったといえる。

有田焼は2016年に創業400年を迎える歴史ある伝統産業だ。産地である佐賀県有田では、その技術を継承しつつも留まることなく、さらなる発展を目指し、海外のデザイナーを招聘するなど各種プロジェクトが進行している。これからの有田にどんな出会いが生まれるのか、今後の動向にも注目したい。

オーストラリア企業との商品開発
オーストラリア企業との商品開発
MONOCLE SHOPのためのオリジナル商品開発
MONOCLE SHOPのためのオリジナル商品開発

KIHARA
http://e-kihara.co.jp

Supermama
http://www.supermama.sg

Profile

浜野百合子/編集者

浜野百合子/編集者

「JDN」元編集長。2014年秋から2017年春までの期間限定で、有田焼・波佐見焼の産地に隣接する長崎県佐世保市へ拠点を移し活動中。デザイン、インテリア、ものづくりなどのジャンルを中心に編集・執筆、WEBディレクションを行う。