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「山口小夜子 未来を着る人」、未だ終わらない物語山口小夜子×生西康典×掛川康典/「夢よりも少し長い闇」

「山口小夜子 未来を着る人」、未だ終わらない物語

自らの可能性を常に刷新、表現者としての「山口小夜子」

2015/05/20

JDN編集部

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第3章 新たな舞台へ—演じる、舞う、着せる小夜子

モデルとしての活動と並行して、かなり早い時期から舞台の仕事も引き受けていた。少女時代の彼女に大きな影響を与えた寺山修司氏の作品への出演をはじめ、糸あやつり人形劇団・結城座の人形たちとの共演など、より表現者としての側面を強めていく。特に転機となったのが山海塾・天児牛大氏との仕事だ。山海塾の舞踏が持つ東洋的な身体性-フォルムとして空間に対峙するのではなく、それと内的に関わろうとする身体のあり方―に強く惹かれ、空気を操り、空間を「纏う」術を見つけた。これが後の「私は、人間は心が身体を着ているという言い方もできると思いますし、もっと言えば、人間はそれを取り巻くすべてのものを着ている。空気も光も。」という発言につながるのだろう。さまざまな劇団との関わりを深めていくなかで、衣装デザインや人形のデザインも手がけるようになっていく。もともとは服飾を志していた彼女だが、時代の先端と格闘するなかで磨いた感受性で、伝統をいかに再編集するかに試みた。

  • 撮影:横須賀功光「『流行通信』1981年12月号に掲載されたショット」
    撮影:横須賀功光「『流行通信』1981年12月号に掲載されたショット」
  • 作画:山口小夜子「リア王の悲劇」衣装デザイン画
    作画:山口小夜子「リア王の悲劇」衣装デザイン画
  • 「山口小夜子のアトリエ」と呼ばれる展示スペース
    「山口小夜子のアトリエ」と呼ばれる展示スペース

第4章 オルタナティブな未来へ―21世紀の小夜子

最終章では、より表現を先鋭化していった21世紀の活動をふりかえるとともに、六本木のオルタナティブスペースSuperDeluxe周辺で活動をしていたアーティストたちによる、「山口小夜子」に捧げる新作インスタレーションを紹介。フレンチヴォーグでも活躍する下村一喜氏が捉えた晩年の姿は、現役モデルとして存在感を最後まで放つものだ。今回のトリビュート作品の中で、エキソニモは「山口小夜子」のメディア的な側面を的確に表現しているかも知れない。(妙な言い回しになるが)いまだ不在感の無さを残す「山口小夜子」、彼女を写した写真の中から「山口小夜子」だけを消すことで、彼女が不在の平行世界をつくり出した。

  • 撮影:下村一喜「Jacques le Corre、2003年春夏コレクション、ワールドキャンペーンより」/「『FRAU』山口小夜子特集号のための撮影より」
    撮影:下村一喜「Jacques le Corre、2003年春夏コレクション、ワールドキャンペーンより」/「『FRAU』山口小夜子特集号のための撮影より」
  • エキソニモ展示風景
    エキソニモ展示風景
  • エキソニモの作品の元となったピエール&ジルによるアートワーク
    エキソニモの作品の元となったピエール&ジルによるアートワーク

宇川直宏氏は、自身が主宰するライブストリーミングチャンネル「DOMMUNE」の特別版、4時間におよぶ映像作品「DOMMUNE『小夜子の世界夜話』」を用意した。この映像作品は通常のDOMMUNEとは異なり、会場でしか見られないものだ。会場のもっとも広い展示スペースを使った、生西康典氏と掛川康典氏による「夢よりも少し長い闇」は、「山口小夜子」のマネキン、映像、音響などによるインスタレーション。どこか冷えた空気が漂うような異世界をつくりあげた。手前には彼女自身のデザインによる、「リア王の悲劇」の衣装が展示される。そのほかにも、晩年の数年に展開した、ファッション、音楽、映像、演劇、朗読、ダンスなどが、渾然一体となった総合芸術ともいえるパフォーマンスが、高画質映像によって蘇った。

  • 構成:高木由利子「蒙古斑革命」
    構成:高木由利子「蒙古斑革命」
  • 宇川直宏/「DOMMUNE「小夜子の世界夜話」~Dedicated to 山口小夜子 9.19.1949-8.14.2007」
    宇川直宏/「DOMMUNE「小夜子の世界夜話」~Dedicated to 山口小夜子 9.19.1949-8.14.2007」
  • 山口小夜子×生西康典×掛川康典/「夢よりも少し長い闇」
    山口小夜子×生西康典×掛川康典/「夢よりも少し長い闇」

自らの可能性を刷新し続けた表現者、「山口小夜子」の気配をぜひ会場で体感して欲しい。