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21_21 DESIGN SIGHT 企画展「活動のデザイン展」

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「活動のデザイン展」

デザインによって世界は変えられるか-10カ国以上24組が提示する、より良い社会へのヒント

2014/12/03

JDN編集部

20世紀後半の情報革命以降、あっという間に世界の距離が近くなり、私たちの生活や日々の意識は大きな変化の時を迎えている。東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTでは手にとることができるものづくりに限定せず、デザインによって社会が抱える課題を解決しようとする意志や活動自体に目を向けた企画展がおこなわれている。

キュレーションは、21_21 DESIGN SIGHTの展覧会ディレクターでもあるデザイン・ジャーナリストの川上典李子氏と、ストックホルムを拠点にアートやデザインのキュレーターとして活躍している横山いくこ氏だ。

【ロースさんのセーター】DNAシャロアー&クリスティン・メンデルツマ/ヴァンスファッペン(2012年)

フラッシュモブの際の写真。人種を越えてたくさんの人がロースさんのセーターを着用(Photo: Joop Reijngoud)
フラッシュモブの際の写真。人種を越えてたくさんの人がロースさんのセーターを着用(Photo: Joop Reijngoud)
クリスティン・メンデルツマがまとめた、556枚のセーターを記録した本の前頁を展示
クリスティン・メンデルツマがまとめた、556枚のセーターを記録した本の前頁を展示

本展の各種告知のメインビジュアルになっているのが、地域の活動に目を向けた「ロースさんのセーター」だ。約160カ国の移民が暮らす、オランダ・ロッテルダム市のシャロアー地区。そこに住む81歳のロースさんが60年間編み続けてきたセーターは500枚以上に及ぶ。その内の60枚と、これまでの全セーターを記録した本が展示・販売されている。

会場ではロースさんのセーターを着た老若男女が街で突然ミュージカルを踊り出すフラッシュモブを行った映像が流れており、中心にいるロースさんは驚きながらもどこか嬉しそうだ。ロースさんのセーターは誰かのために作ってはいないため、サイズや色、柄がまちまちに制作され、家の中にしまってあるだけだった。誰も袖を通すことのなかったセーターが発見されたのは、地元の社会文化の変容の調査、保存を目的とする美術館、ミュージアム・ロッテルダムによって。編み針の気の向くままに作られた多様なセーターが、多様な住民特性とも重なって見えて、そのセーターが媒介となって一つになったシャロアー地区の住民たちの様子は、爽やかな感動を呼ぶ。

フラッシュモブを企画したニコル・ドリエッセンとイーヴォ・ファン・デン・バールは1999年にアートとデザインの制作会社を設立以来、多岐にわたる作品に携わる。その中のひとつ、地元ロッテルダム市シャロアー地区に密着したプロジェクト「DNAシャロアー」の第1弾が今回のプロジェクトだ。彼らは他に、シャロアー地区に住む人の肌の色を模したタータンチェックを使って製品の制作をするなど地域に即した活動を行っている。「ロースさんのセーター」はデザイナーのクリスティン・メンデルツマがデザインした本と彼女が企画した映像を通して世界中の人々に知られるようになった。

【フィックスパーツ】aomo、アトリエ ホコ、クビーナ、サラン・イェン・パニヤ、長坂常、菱川勢一(2012年-)

本展を機に国内外から6組が参加した「フィックスパーツ」。他にこれまでの事例から選りすぐった海外の学生4組の取り組みも紹介
本展を機に国内外から6組が参加した「フィックスパーツ」。他にこれまでの事例から選りすぐった海外の学生4組の取り組みも紹介
モノ・コーン / アトリエ ホコ
モノ・コーン / アトリエ ホコ

特定の個人の“お悩み”を解決する取り組みを紹介しているのは「フィックスパーツ」という活動だ。フィックスパーツはフィックス(修理・修繕)とエキスパート(専門家)を合わせた造語で、2012年にイギリスのダニエル・チャーニーとジェームズ・キャリガンが始めたオンラインプラットフォームだ。デザイナーが自分のスキルを発揮して、特定個人の生活における問題を解決する。そしてそのプロセスを撮影し、動画をインターネットにアップロードすることで多数の人々にインスピレーションと指針をもたらす。

その中のひとつ、「モノ・コーン」は細かい刺繍をする際に目の焦点が合いにくいというある女性の悩みをシンガポールのアトリエ ホコが解決したものだ。完成した道具の考えや構造はとてもシンプルで、視野を制限することにより制作部分に集中できるようにしている。

ここで紹介されている取り組み一つ一つに見られる悩みと解決は、ごく限定された小さな活動だが、それだけにデザインの問題解決力を強く感じさせる。改めて、デザインの可能性に自信を与え、コミュニケーションによる洞察の重要性に気づかせてくれる。

ア・ミリオン・タイムズ / ヒューマンズ シンス 1982(Photo: Tim Meier)
ア・ミリオン・タイムズ / ヒューマンズ シンス 1982
(Photo: Tim Meier)
21世紀初頭のスローガン / ダグラス・クープランド
21世紀初頭のスローガン / ダグラス・クープランド

情報社会を象徴するような作品や、社会をクリティカルにとらえる活動も紹介されている。

【ア・ミリオン・タイムズ】ヒューマンズ シンス 1982(2014年)

精密にプログラミングされた384個の時計の動きにより、抽象的なグラフィックを表現したり時計の役割を果たす。個々に動く針は、複雑に関係しあう現代社会のよう。時折かみ合う瞬間、つながる社会の意味や強さを感じさせる。

【21世紀初頭のスローガン】ダグラス・クープランド(2011年-)

急速な消費社会における若者の倦怠と虚無を描いた小説「ジェネレーションX−加速された文化のための物語たち」(1991年)で知られるダグラス・クープランドの作品。現代の社会風潮をクリティカルにとらえたメッセージを提示している。

Shenu:百年後の水筒 / takram design engineering
Shenu:百年後の水筒 / takram design engineering
ドローンの巣 / スーパーフラックス(Photo:吉村昌也)
ドローンの巣 / スーパーフラックス(Photo:吉村昌也)
ALMA MUSIC BOX:死にゆく星の旋律 / アルマ望遠鏡プロジェクト / 国立天文台+PARTY+Qosmo+エピファニーワークス(Photo:吉村昌也)
ALMA MUSIC BOX:死にゆく星の旋律 / アルマ望遠鏡プロジェクト / 国立天文台+PARTY+Qosmo+エピファニーワークス(Photo:吉村昌也)

未来についての新しい視点を提示する考察も行われている。

【Shenu:百年後の水筒】takram design engineering(2012年/2014年)

空気汚染や海面上昇が進み、多くの自然資源が失われてしまった100年後を想定。人体そのものが水を蓄えられる容器としての役割を担う必要があることを考えた提案だ。人体が必要とする水分を極限まで抑える人工臓器を含む一連のプロダクトで、未来における「水」や「水筒」のあり方を考察した。

【ドローンの巣】スーパーフラックス(2014年)

ドローン(無人飛行機)がそこかしこに飛び交う未来はそう遠くないかもしれない。実際に近年は一般消費者向けに製品化されたものが登場し、アメリカでは商業用の運用が構想されている。本展ではロンドンのスーパーフラックスが初披露する「広告ドローン」「交通管理ドローン」「監視ドローン」という3つのドローンを展示すると共に、それらから見た世界を映像化。ドローンが私たちの生活の中に入り込んだ時にどのような変化があるのか、プライバシーや商業主義への問題提起と共にリアルに提示する。

【ALMA MUSIC BOX:死にゆく星の旋律】アルマ望遠鏡プロジェクト / 国立天文台+PARTY+Qosmo+エピファニーワークス(2014年)

アルマ望遠鏡がとらえた、死滅していく星の音をオルゴール化したもの。アルマ望遠鏡は世界最先端の電波望遠鏡で、従来のものに比べて100倍弱い電波をとらえることができる。世界最先端の技術をどうすれば私たちが身近に感じることができるか、という問題意識から実現したプロジェクト。最先端の技術を惜しみなく投入して宇宙との新たな関わり方を提案した。ここでは70の周波数で取得されたデータを1枚ずつオルゴール・ディスクにしている。

織咲誠による「ライン・ワークス-線の引き方次第で世界が変わる」。ものごとの関係性である「線」の引き方次第で世界が変わることを提示し、古今東西の解決策をただ納得するだけでなく、見る人が自分でも身の回りでも探すなど問題解決のヒントを日々見出していくことの重要さを伝える
織咲誠による「ライン・ワークス-線の引き方次第で世界が変わる」。ものごとの関係性である「線」の引き方次第で世界が変わることを提示し、古今東西の解決策をただ納得するだけでなく、見る人が自分でも身の回りでも探すなど問題解決のヒントを日々見出していくことの重要さを伝える
フロント&シアザマ プロジェクト / エディションス イン クラフトによる「ストーリー・ベース」南アフリカの文字の読み書きができない女性たちのつぶやきともいえる日々の想いを記した作品。女性たちが自ら形作ったガラスビーズの文字にスウェーデンでガラスを吹き込み、花器が作られるもの
フロント&シアザマ プロジェクト / エディションス イン クラフトによる「ストーリー・ベース」南アフリカの文字の読み書きができない女性たちのつぶやきともいえる日々の想いを記した作品。女性たちが自ら形作ったガラスビーズの文字にスウェーデンでガラスを吹き込み、花器が作られるもの

他にも、一つの線の有無といった「線」の発想で激変する世界を考察した織咲誠の【ライン・ワークス-線の引き方次第で世界が変わる】や、南アフリカで伝統的なビーズ細工をつくる、文字の読み書きができない女性たちの「つぶやき」を記したフロント&シアザマ プロジェクト/エディションス イン クラフトの【ストーリー・ベース】など、24組の活動は新たなデザインと社会との関わり方を感じるものばかり。

「フィックスパーツでは、手の不自由な水泳選手のためにイスラエルの学生が提案したピタパン・スタンドをインターネットで目にしたアイルランドの家族から連絡があったそうです。同じ悩みを持つ娘のためだそうです。量産プロダクトの開発方法とは異なりますが、ある一人のためにより深く向き合った結果の解決策は、多くの人のためになる可能性を含んでいます。また各々に3分にまとめられた映像には、悩みが解決されて喜ぶ人々の笑顔が収められています。エットレ・ソットサスが生前、『デザインとは、人に花を贈るような行為。私はその微笑みを目にしたいだけなのだ』と語ってくれたことを思い出しました。まさにデザインの本質ではないでしょうか」と川上典李子氏。

「本展の準備においては3Dプリンタを始めとするパーソナル・ファブリケーションの現状リサーチも行いました。必要に応じてこうした時代のツールも駆使することで、デザインの新しい可能性が切り拓かれると考えています。それだけに、デザインに関わる、特に若い方々にはデザインとその根底にあるコミュニケーションについて、この展覧会で考えを深めてもらえると、とても嬉しいです」とのことだ。

変容する世界のあり方やそこにおける生き方のヒントを10ヵ国以上24組のクリエーターが提示している本展は、2015年2月1日まで開催中だ。

  • アルヴァロ・カタラン・デ・オコンによる「ペット・ランプ」。どこにでもあるペットボトルと各国の伝統工芸を組み合わせ、失われつつある手仕事の価値をさぐる活動
    ペット・ランプ / アルヴァロ・カタラン・デ・オコン
  • 次の展示室で紹介するフィックスパーツのプロローグとして展示された、「鉄絵茶碗」。日本の修理・修繕の精神を提示した(日本民藝館所蔵)
    鉄絵茶碗 / 日本民藝館所蔵
  • マイク・エーブルゾンによる「考える手」。様々な道具の持ち手だけが上に見えている状態。実際に触って何の道具か判別がつくものとつかないものがあり、身体とデザインの関係性を探求できる
    考える手 / マイク・エーブルゾン
  • マスード・ハッサーニによる「マイン・カフォン」。アフガニスタン出身作家の、幼少期の体験をもとにつくられた地雷撤去装置。風で転がるおもちゃから発想を得たもので、転がって地雷を爆発させる仕組み
    マイン・カフォン / マスード・ハッサーニ
  • ジョセフィン・ヴァリエによる「リビング・アーカイヴ」。スウェーデンと日本からパンを焼くための天然酵母を集め、その酵母にまつわる個々のストーリーや知識を保存し、展示によって共有することを試みる活動
    リビング・アーカイヴ / ジョセフィン・ヴァリエ
  • フローリー・サルノットによる「プラスティック・ゴールド」。南アフリカの難民がペットボトルを素材に金の糸を作り、それを編み、繊細で美しいジュエリーを制作
    プラスティック・ゴールド / フローリー・サルノット
  • スタジオ スワインによる「カン・シティ」。ブラジル・サンパウロの資源ゴミを換金して生計を立てている人たちのための移動式の「鋳造所」を制作。道路で集めた空き缶やレストランからの廃油などを使ってアルミの椅子を制作し、収入の助けと新たなクラフトの可能性を見出す
    カン・シティ / スタジオ スワイン
  • ギャラリー1 会場風景
    ギャラリー1 会場風景
  • ギャラリー2 会場風景
    ギャラリー2 会場風景

21_21 DESIGN SIGHT
http://www.2121designsight.jp/