インタビュー 編集部が注目するデザイナー・クリエイターのアイデアと実践に迫る

ヤマハ発動機 長屋明浩が描く、ヤマハデザインの新時代 (3)

ヤマハ発動機 長屋明浩が描く、ヤマハデザインの新時代

プリウス、レクサスを手がけた氏が取り組むヤマハ発動機のデザイン改革

2014/08/27

JDN編集部

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Vol.3 デザインとは経営そのもの

■日本人は、新しい概念を再編するのが得意

私は日本のもの作りとはデザインだと思っています。昔から加工貿易で発展してきた日本のアイデンティティとは加工すること。すでにあるものを再編・再定義することで、新しい概念を生みだす力です。そしてこれこそがデザインのコアだと思います。

DT-1
DT-1 http://global.yamaha-motor.com/jp/showroom/cp/collection/dt-1/

食べもので言えば明太子パスタですが(笑)、クルマで言えばハイブリッドカーがいい例です。ハイブリッドカーが生まれた当初、ヨーロッパでは「そんなものはクルマにあらず」と言われました。では何がクルマなのか。いずれにしても定義なんて変えてしまえばいい。ヤマハだと「DT1」というバイクがあります。これが生まれたときにはオンロードとオフロードの中間「トレイル」という分野が定義されました。こんな風にデザインを通じて再定義することで、新たな価値を生み出せる領域は、まだまだあるはずです。これを得意とする日本人こそが、新領域を掘り起こしていくべきだと思います。

本来の意味でのデザインは、インハウスのほうが得意
長屋明浩氏
長屋明浩氏

こういったことに思いを巡らせていると、今後はインハウスデザインの時代に向かう予感がします。長らくデザイナーは、あらかじめシナリオが用意されたプロダクトの、表面的なスタイリングだけを担ってきました。しかし本来のデザインとはシナリオ自体を手がけ、時代を切り拓くことです。デザインは単なるお化粧ではありません。そう誤解されてきたせいでトランスポーテーションのデザインも膠着してきたのです。

だからこそインハウス。将来を見据えて企業の理念を生みだし、そこにストーリーやシナリオを与えた上で、プロダクトのスタイルに結びつける。言ってしまえば、これは経営そのものです。世の中を美しく変化させるアーティスティックなビジョンを掲げるということですから。ジェームズ・ダイソンの仕事、職種は違えどもスティーブ・ジョブスの実績にも似ています。デザイナーにとってはいいお手本ですよね。私も本来の意味でのデザインをし続けたい。だからこそインハウスのデザイナーであることにこだわっています。

■デザイン経営がこれからのコアになる
ヤマハ発動機初の三輪スクーター「TRICITY(トリシティ)」、2014年9月10日発売
ヤマハ発動機初の三輪スクーター「TRICITY(トリシティ)」、2014年9月10日発売

こうしてヤマハにデザイン本部ができたことによって、すべてのデザインを統合的に見ていけるようになったことは、ヤマハにとって大きなアドバンテージです。顧客とのタッチポイントで、デザイナーはプロダクトを通じてすべてに関与していけます。ここからモーターサイクルに対しても、マリンに対しても「ヤマハらしいデザイン」を提案していくわけです。

現代のように物資が足りてくると、ものの機能性の高さがそのまま競争力にはなりません。まして価格競争なんかをやっている場合でもありませんから、ここで生き残るにはデザイン経営がコアになるでしょう。要はデザインの実践を行いながら、ブランドを生み出し、経営に参加する。この3つをバランス良く行っていくことが私には求められているし、こういったことは自分たちデザイナーに一番向いている仕事です。私はデザインって経営そのものだと考えています。


取材協力:ヤマハ発動機株式会社

インタビュー・執筆:立古和智、撮影:小林ユキノブ