インタビュー 編集部が注目するデザイナー・クリエイターのアイデアと実践に迫る

ヤマハ発動機 長屋明浩が描く、ヤマハデザインの新時代 (2)

ヤマハ発動機 長屋明浩が描く、ヤマハデザインの新時代

プリウス、レクサスを手がけた氏が取り組むヤマハ発動機のデザイン改革

2014/09/03

JDN編集部

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Vol.2 デザインはメッセージ

■格好良いのは当然。どう格好良いのかが大切
トヨタ自動車と共同開発・生産した日本を代表するスポーツカー「TOYOTA 2000GT」(1967年)
トヨタ自動車と共同開発・生産した日本を代表するスポーツカー「TOYOTA 2000GT」(1967年)http://global.yamaha-motor.com/jp/showroom/cp/collection/am_toyota2000gt/

今年の7月15日に、トヨタからヤマハへと移籍したことは、私のキャリアにおける3度目の転機となりました。もともと両社には、トヨタのクルマのエンジンをヤマハが手がけるといった関係はあったものの、今回のような移籍は異例です。自分としては、今年3年目を迎えるデザイン本部の本部長として「経営のコアにデザインを」を実践するべく呼ばれたのだと捉えています。

ヤマハの経営の三本柱とは、コンセプト、技術、そしてデザインです。ここでのデザインとは単に「格好良く」という意味ではありません。先ほどのプリウスの話にもつながりますが「メッセージ」にならなければいけません。ところが日本の製造業の多くは「デザイン=格好良く」になりがちです。特に乗り物の世界では「格好良けりゃ売れる」と誤解されています。本当は「格好良いのは当たり前」で「どう格好良いのか」が肝心。この「どう格好良い」を生み出していくプロセスなくしてデザインしたとは言えません。これはプロダクトにコンテクスト(=購入されるに至る文脈)を与えるということ。そこにはレクサスでブランドを培ってきた知見を生かしていくつもりです。

■デザインの力で、機能商品だって楽しくなる

製品の大多数がクルマであるトヨタとは違って、モーターサイクルや船舶をはじめ、プロダクトの幅が広いヤマハで拠り所となるのがブランドスローガン「Revs your Heart」です。ハートがレヴズする。簡単にいうと「心が躍るような体験がある」「感動を創造できる」という意味です。これこそが「ヤマハらしさ」。オートバイやクルーザーならわかりやすいでしょう。しかしヤマハには除雪機や車イスのような機能商品もあります。そういったものだって「レヴズ」するようにしたい。

長屋明浩氏
長屋明浩氏

静止していても、ゆるやかに動いても、楽しいと感じることってあると思うし、必ずしも「感動=ハイパワー、ハイスピード」ではありません。それに、どちらかと言えば機能商品(=非デザイン商材)にこそ、多くの可能性が残されている予感があります。みなさんの大好きなダイソンの掃除機。あれもその好例でしょう。デザインには人の営みを楽しくし、幸せを呼び込む力がある。それを具現化できる商材がヤマハにはたくさんあるのですよね。

■自分たちが変わることで世の中を変える

ヤマハの主力製品である乗り物を再定義していく時期だとも思っています。たとえば私個人としては「世界最適モビリティ」のデザインに興味がある。それが3輪なのか4輪なのかもわかりませんが、世の中を見渡したところ、どうも最適ではない乗りものが多いことだけは確かです。まず地球環境に優しくない。渋滞に目をやると5人乗りのクルマに数人しか乗っておらず無駄が多い。

“5人乗ることもあるかもしれないので、念のため、あの大きさ”というクルマ、それは最適ではありません。保険をかけ過ぎる。仰々しい姿であっちこっちを移動している状態。では最適とは何なのか。すべての無駄を省いて、合理性だけで片づけるのも問題で、バランスが大切なのはもちろんですが、グッドバランスは時代とともに変化する。いずれにせよ自分たちから世の中を変えていかないと、この分野で私たちは生き残れない。それはチャレンジングなことではありますが、エキサイティングなことだとも思っています。


取材協力:ヤマハ発動機株式会社

インタビュー・執筆:立古和智、撮影:小林ユキノブ