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Nishorgo Oirabot Nature Interpretation Centre

Nishorgo Oirabot Nature Interpretation Centre

バングラデシュの自然保護地域建築計画

2014/07/23

レポーター:河野 洋一郎

Agha Khan 建築賞にノミネートされたバングラデシュの自然保護地域

構造はRC造。木製ルーバーと長いアプローチが印象的
構造はRC造。木製ルーバーと長いアプローチが印象的

バングラデシュ南東部に位置し、ミャンマーとの国境に接するコックスバザール県テクナフという地域に、イスラム社会に対し優れた功績を残した建築計画に授与される「Aga Khan Award for Architecture(アガ・カーン建築賞)」にノミネートされた「Nishorgo Oirabot Nature Interpretation Centre」(Nishorgoはベンガル語で自然、Oirabotは象)があります。惜しくも本賞の受賞は逃しましたが、優れた環境計画が評価されたことは誇るべきことです。

コックスバザール県テクナフは、1983年に禁猟地域に、2012年には自然保護地域に指定されました。自然保護地域には野生の象、猿、鹿が生息しており、生態調査によれば55種類の哺乳類、286種類の鳥類、13種類の両生類、56種類の爬虫類、290種類の植物が生息していると報告されています。

Nishorgo Oirabot Nature Interpretation Centreは環境保護啓発のための展示室が備えられ、景観を崩さないよう配慮された外観や、樹木を伐採しないよう配慮された計画等、環境保護に対して様々な工夫が施されています。

自然保護地域入口。樹木の中に調和するNishorgo Oirabot Nature Interpretation Centre
自然保護地域入口。樹木の中に調和するNishorgo Oirabot Nature Interpretation Centre
自然の中を抜けていくようなアプローチ。水平ラインを強調するフラットスラブは、樹木を伐採しないよう一部が切り取られている
自然の中を抜けていくようなアプローチ。水平ラインを強調するフラットスラブは、樹木を伐採しないよう一部が切り取られている

地域住民を巻き込んだ環境保護計画

山や池が広がる広大な自然保護地域には密林者も多い
山や池が広がる広大な自然保護地域には密林者も多い
エコツアーのトレッキングでは、崩れかかった橋など道なき道を進む
エコツアーのトレッキングでは、崩れかかった橋など道なき道を進む

この自然保護地域では、政府の森林部門と地域住民によって共同管理するというバングラデシュでは新しい試みを実施し、禁猟・樹木の保護などの啓発を行っています。地域住民を巻き込み自然保護に関する集会を行うことで、地域住民の自然への意識が良い方向に変わり、共同管理が成り立っています。また、環境保護区で実施されるエコツアーは、ガイドや管理者として現地の住民を雇用することで、現地住民の収入源としても期待されています。

エコツアーでは、広大な自然の中をトレッキングし、道なき道を進んでいきます。バングラデシュは山が少なく、国全体の起伏も非常に少ないのですが、自然保護地域は険しい山道や壊れた橋を進んでいくなど、通常の生活では味わうことのできない経験をすることができます。私も参加したエコツアーで野生の猿を見ることができました。

しかし、豊かな自然の残る保護地域では、樹木を伐採し、木材を売ることで生計をたてる密林者も未だ多くいます。私が参加したエコツアー中にも密林者に遭遇し、残念ながらその場でツアーは中止。その密林者は現行犯逮捕されましたが、これからも密林者と保護地域を守ろうとする地域住民とのイタチごっこはまだまだ続きそうです。

今後、この環境保護地域のような住民参加型の地域が多く作られ、バングラデシュ国全体が環境保護への意識をもつことを願っています。

Profile

河野 洋一郎

河野 洋一郎/1級建築士

1984年生まれ。立命館大学建築都市デザイン学科卒業後、積水ハウス株式会社へ入社。
2013年より青年海外協力隊・建築隊員としてバングラデシュ政府、住宅・公共事業省、建築局で活動中。