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fromNY 海老原嘉子のニューヨーク・SoHo通信
3D プリンター Postdigital時代 - 「Out of Hand」「Inside 3D Printing Conference & Expo」
3Dプリンティングの最新活用事例と、芸術と実用の領域で紹介
2014/07/02
レポーター:海老原嘉子
技術の進化と共に、急速に普及しつつある3Dプリンター。新たな道具の出現に、様々な領域で可能性が追求されている。数年前は「3Dプリンターを使った」ということだけで話題になり、使い方のデモンストレーションのような表現も多かったが、現在はどのような状況なのか。ニューヨークで開催された二つの展示会から最新動向をお伝えする。(上画像:3D Systemsの「ChefJet 3D printer」で作られたキャンディー photo: 3D Systems)
Out of Hand
2014年6月1日までMAD(Museum of Arts and Design - 元American Craft Museum)で開催されていた「Out of Hand」展。長い間、クラフトを紹介する展覧会を中心に主催してきたMADとしては、とても野心的な試みです。
MoMa(NY近代美術館)で2008年に行なわれた展覧会「未来の形」の領域をカバーし、同じアーティストやプロジェクトもいくつか含まれていますが、MADでは2005年以降に作られた3Dプリンティングの現実的活用性や生産性にも焦点を当てています。芸術と生活の両方で、さらに普及してきている3Dプリンティングの将来への可能性と重要性。それらを学ぶためのリサーチを含め、今回の「Out of Hand」展は非常に有意義でタイムリーなものだといえます。
「コンピュータ時代を生み出したデジタル革命は完成し、制作が極めて困難または不可能であったフォームを、いとも簡単に創り出すことができる新しい時代、Postdigital時代が来た(展示会の紹介文)」
この企画はキューレーター、ロン・ラバコ(Ron Labaco)によって企画されました。3Dプリンターとコンピューターを利用して作られた過去に例のない革命的な展覧会として話題を集め、NY Timesを始めたくさんのメディアにもとりあげられています。
参加したのは、80人以上の国際的なアーティストやデザイナーたち。フランク・ステラ、ロン・アラッド、ザハ・ハディド、スティファン・ジョーンズ、日本人では杉本博司、NENDO、SOMA Designの廣川玉枝等。ジャンルは美術、デザイン、建築、彫刻、家具、ファッションにまで及んでいます。
たとえば、リチャード・デュポンの自画像はとろけたような歪んだ輪郭、蜃気楼のように見えるヌード男性像の彫刻です。彼の体全体をスキャンし、そのデータを3D化し、プログラムを介して作られました。
MoMaでも見せたFRONTによるペンダントランプは、空間で描くスケッチ、そのペンの先のセンサーがコンピューターでキャッチ、その線の形を液体3Dプリンターから、樹脂でランプやイスの型になって出来て来る様子が画面で映写されていて、見ることができ、「ここまできたか!」と納得できます。
ワークショップでは、実際の3Dプリンターで作品をつくっているアーティストが常に作品づくりをしていて、質問をしたり、さわったりできます。他にも地下のシアターも含め、講演他、わかりやすく理解するプログラムが組まれています。
Inside 3D Printing Conference & Expo
3Dプリンターの芸術性という観点でキュレーションされたMADの展覧会とは別に、4月7、8日には2回目となる「Inside 3D Printing Conference & Expo」が、ジャビッツ・コンベンションセンターで行なわれました。この展示は日本への巡回も予定されており、9月の18、19日と東京ビッグサイトだそうです。
前回も参加したのですが、その時点から比較しても毎日のように進歩している3D Printer。生活に見近な道具となっていることを日に日に感じているところです。
我が家では、トースターサイズのMakerBotプリンターを息子が持っています。割れてしまった鍋蓋の持ち手をネジも含めてきちんと作ってくれたり、壊れてしまった気に入りのペーパーナイフの柄、傘の柄などを3Dプリンターで作って利用しています。
素材や色の進化も目覚ましく、少し前は、素材といえばプラスティックだけでしたが、木を混ぜた木材感覚の素材もでてきています。色も、わずかな選択肢しかなかったのが、色とりどり。柔らかいプラスティックも出てきて、デジタル・ニットにも簡単に取り組めるようになりました。
医学の分野では、人間の皮膚について、どんな形、難しい部分でも本人の皮膚で再生できるようになる未来がプレゼンテーションされており、驚きです。
何でも簡単にスキャンして同じものができてしまうので、これからのコピーライトの問題、法律などの分野の講義や意見交換も行われました。
中でも今年一番の注目は、FOODの分野まで3Dプリンティングの活用が進んだことです。
たとえば、本当の野菜を使って、野菜嫌いな子供が好む形、たとえばアニマルやキャラクターに整形する。ピザのドゥ(生地)づくりなど、何年も修行が必要なテクニックも機械で精密に計算して作ってくれる等の展示がありました。健康的な食生活を求める精神を、印刷という形で実現できる事実。これは、多くの関心を集め話題になっていました。
既に大掛かりな実験的プリンターはできていますが、今回の展示では、世界初の家庭用キッチンに対応した食品の3Dプリンターが展示されていて、投資を募る宣伝をしていました。新製品を個人で開発して、その商品を量産できることを宣伝し、クラウドファンディングのKickstarterで予定額を集めて、最初にその商品を手にすることができるという商法が普及しつつありますが、ここで紹介されていたNatural Machinesの「Foodini」もその一つ。
砂糖、チョコレートやキャンディーなど多種多様な食材をプリントできます。食材と3Dプリントの設計の自由度を組み合わせることで、実現が不可能だった想像力豊かな食をデザインすることができます。フルカラーのカクテル装飾、ケーキの建築的なサポート、連結されたキャンディー、美しい砂糖の彫刻、チョコレート、バニラ、ミント、酸っぱいリンゴ、サクランボやスイカなど出力見本は多岐に渡り、さまざまなレシピが付いてくるようです。
この「Foodini」、2014年後半に発売される予定と宣伝していました。無事、投資を募ることができればよいのですが。
Out of Hand | The Museum of Arts and Design (MAD)
http://madmuseum.org/exhibition/out-hand
Inside 3D Printing Conference & Expo
http://www.mediabistro.com/inside3dprinting/
ChefJet™ and ChefJet™Pro | www.3dsystems.com
http://www.3dsystems.com/chefjet
Natural Machines: The makers of Foodini - a 3D food printer making all types of fresh, nutritious foods.
http://www.naturalmachines.com
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