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ボローニャ国際絵本原画展2014

ボローニャ国際絵本原画展2014

毎年イタリア・ボローニャで開催されるChildren's Book Fair

2014/06/25

レポーター:佐藤 まどか

イタリアの見本市といえば4月にミラノで開催される国際家具見本市「ミラノサローネ」が有名だが、ボローニャでは、世界で唯一の児童書専門の国際見本市が毎年開催されている。今年も3月24日から27日の4日間、世界中の出版社、エージェント、作家、イラストレーター、翻訳者、書店員などが集まり、世界44各国の出版社がブースを構えた。

絵本原画コンクール入選作品展
絵本原画コンクール入選作品展
イラストレーターアピールのためのウォール
イラストレーターアピールのためのウォール

世界中の編集者へのアピールの場

まず一番の見ものは、メインイベント会場の展覧会だ。世界中から送られてくるイラストレーターの作品から選抜された絵本原画コンクールの入選作品展と、企画展、招待国の特別展など、複数のイベントから構成される。絵本原画コンクールの入選作品展は、絵本作家・イラストレーターにとっては、発表の場としても、世界中の編集者へのアピールの場としても、絶好のチャンスである。今年も世界中から参加した3190人中75人が入選した。日本人の活躍もめざましく、入選者の2割が日本人である。

展覧会に選抜されなかったイラストレーターたちは、作品のコピーや名刺をこの原画展の裏の壁に貼り付け、アピールをする。ここは、イラストレーターのプレゼンテーションの場として、見本市会場から提供されているのがおもしろい。また、各出版社のブースには、編集者に自分の作品を見せるための長い行列があちこちにできている。ほかにも、メインイベント会場では毎年招待国の特別展が行われる。今年の招待国はブラジルで、ヨーロッパやアジアとはまた一味違う独特の色味の作品が展示された。

入選作より Yumiko Komatsu (日本)
入選作より Yumiko Komatsu (日本)
入選作より Sharif Amin Hassanzadeh (イラン)
入選作より Sharif Amin Hassanzadeh (イラン)

今年はまた、1921年から85年まで活躍したイタリアのイラストレーター、ウーゴ・フォンタナ回顧展も行われ、そのルネッサンス美術にも通じるような表現力とモダンな構図で、来場者を圧倒した。通常の見本市と違って、会場の内外でさまざまなトークショーが行われるのも魅力だ。イラストレーター、作家、翻訳家、出版社などが、あちこちでプレゼンテーションや、トークショーを繰り広げる。市内のギャラリーや博物館でも、ボローニャ児童書見本市が直接オーガナイズする展覧会も多々あり、特に日本人絵本作家の三浦太郎氏や、造本作家・デザイナーの駒形克己氏の展覧会が興味深かった。

駒形克己氏の展覧会
駒形克己氏の展覧会
三浦太郎氏の展覧会と本人
三浦太郎氏の展覧会と本人

「国際アンデルセン賞」作家賞を上橋菜穂子氏、画家賞をホジェル・メロ氏が受賞

「国際アンデルセン賞」画家賞を受賞したブラジルのホジェル・メロ氏。作家賞は上橋菜穂子氏
「国際アンデルセン賞」画家賞を受賞したブラジルのホジェル・メロ氏。作家賞は上橋菜穂子氏

この見本市は各文学賞、イラストレーション賞、出版賞の発表の場でもある。児童書のノーベル文学賞といわれる隔年の「国際アンデルセン賞」の作家賞には、上橋菜穂子氏が選ばれた。なお、同賞の画家賞には、ブラジルのホジェル・メロ氏。国が支援する台湾や韓国の大きなブースに挟まれた日本の出版社のゾーンは、個々の出版社が小さなブースを構えて健闘している。しかしこれも毎年縮小気味であり、ほかのアジア勢にすっかり押されている。日本の文化を輸出するために、日本政府もぜひ他国をみならって支援してほしい。

日本のストーリ-テリング力は非常に高い。日本の漫画やアニメがこれだけ世界中で受け入れられていることを見れば明白である。海外での評判では、その物語性がとくに評価されているのだ。ところが、日本の児童文学作品(読み物)は海外であまり翻訳されていない。なぜか?と思って聞いてみると、日本語から外国語への翻訳者が少ないのが理由だという。数少ない翻訳本も、日本語からいったん英語に訳されたものが、ほかの言語に訳されることがほとんどだという。それでなくても微妙な日本語のニュアンスを伝えるのは大変なのに、2段階も翻訳されるのでは、原書の味わいがどこまで伝わるのか疑問だ。国際アンデルセン賞の受賞で国際的な知名度を上げた上橋菜穂子氏の作品をはじめ、日本の優れた児童文学が、もっと海外に進出していけるように願うばかりである。

尚、このボローニャ国際絵本原画展は、7月の東京都板橋区立美術館を皮切りに、兵庫県西宮市大谷記念美術館、石川県七尾美術館、鹿児島県長嶋美術館を巡回する。

Profile

佐藤 まどか

佐藤 まどか

1988年ミラノのドムスアカデミーを卒業後、ミラノで家具や小物のデザインをしながら、長年デザイン専門誌のライターを務める。数年前から小説を書き始め、現在はトスカーナ州のシエナ郊外を拠点に活動中。主な著作に、YA『カフェ・デ・キリコ』(講談社)、再生可能エネルギーをテーマにしたファンタジー「マジックアウト」シリーズ〈フレーベル館)など。