インタビュー 編集部が注目するデザイナー・クリエイターのアイデアと実践に迫る

SINGAPORE DESIGN WEEK 2014 | クラウディオ・コルッチの空間インスタレーション「SPECTRUM」

SINGAPORE DESIGN WEEK 2014 |
クラウディオ・コルッチの空間インスタレーション「SPECTRUM」

シンガポールデザインウィークで、虹のようなインスタレーション「スペクトラム」を手がけたクラウディオ・コルッチにインタビュー

2014/05/14

JDN編集部

カラーロープ90Km分でできた虹のシャワー

シンガポールデザインウィーク2014の期間中、注目のデザイナーやアーティストを招いて催された屋外展覧会「SINGAPLURAL」にクラウディオ・コルッチが特別招待デザイナーとして参加。カラーロープ90Km分を使った大きなインスタレーション「SPECTRUM(スペクトラム)」を出展した。会場となったのはシンガポールの街の中心に位置するDhoby Ghaut Green(ドビー・ゴート・グリーン公園)。シンガポール随一の目抜き通りであるオーチャード・ロードとバスの幹線道路に沿ったひと際目立つ場所に突如出現した「虹」が浜風に揺れ、人目を惹きつけていた。

カラフルなロープに触れながら色のシャワーの中を歩く
カラフルなロープに触れながら色のシャワーの中を歩く
真ん中はドーナツ状に空間があいている
真ん中はドーナツ状に空間があいている
風に揺れる虹色のインスタレーション
風に揺れる虹色のインスタレーション
―今回のプロジェクトの話を受けた時、まず感じたことは?

クラウディオ・コルッチ(以下C.C.):シンガポールの主催者たちが「デザインの大切さ」を街の人々にダイレクトに伝えよう! と熱心に注力していることに感銘を受けました。デザイン分野ではまだ歴史と経験の若いシンガポールが、国を上げて取り組む駆け出しのデザインイベントのために何ができるだろうと考えたとき、人々に驚きを与え、楽しんでもらえる時空間をつくりたいと思いました。そこで発想したのがカラフルな虹です。

―「SPECTRUM(スペクトラム)」には、どのような思いが込められているのでしょう

C.C.:デザインにおける最たる基盤である “色”、それも「ベーシックな原色の連続体 (= Spectrum、虹)」をシンプルにそのまま見せることで、普段デザインに興味を持たない人にもわかりやすく、スムーズにこのデザインイベントに引き込むような、誰にでも開かれたデザイン表現を目指しました。また、南国シンガポールの太陽の光と青空、公園の緑、街に吹き込む浜風が生きるデザインも意識しています。多民族・多文化が共生するシンガポールの多様性と普遍性、この国の生き生きとした強さを、ひねりのないダイレクトな手法で象徴化したつもりです。

―カラフルなロープがゆらゆらするこの形のインスピレーションはどこから得たものですか

C.C.:「虹」を具現化するだけであれば、他にもいろんな表現手法があると思いますが、ロープを用いることにした一番の理由は、人が自由に回遊することのできる「カラフルな森」の状況・空間をつくりたいと思ったから。でも、具象的な森をがっちりとつくってしまうと物質感と圧迫感が出てきてしまう。そこで、極限まで軽やかな繊細な森にしたいと。シンガポールの街や自然の何かしらを呼応させたいとも思っていたので、海から吹く風をはらむような手法がないかとあれこれ考えを巡らせていくうちに、無数のカラフルロープのシャワーで表現する手法に辿り着きました。

夜にはライトアップされ、多くの人でにぎわった
夜にはライトアップされ、多くの人でにぎわった
クラウディオ・コルッチ氏
クラウディオ・コルッチ氏
―体感・体験・共有することができるインタラクティブな展示をテーマとされていますが、どのようにデザインに落とし込みましたか

C.C.:カラフルなロープに触れながら色のシャワーの中を歩き進めると、突如真ん中に丸い無空間が現れます。この開口部を「青空と光を体感するための窓」にしたいと考えました。360度「色の森」に包囲された状態で青空を見上げるという体験です。まるで森の中の散歩途中、ふいに空から光が降り注ぐ空き地に足を踏み入れた時のような、そんなはっとする感覚・感動を演出したいと思い、この形状になりました。

―現地での制作はどのように進行したのでしょうか

C.C.:ロープ一本一本の取付けなど、現地の20名以上の大工さんたちが、三日三晩徹夜もしながら丁寧に仕上げてくれました。素材は全て現地調達しています。理想をいえば、ロープとロープの間隔をより狭くして全体の密度がもっと欲しかったのですが、時間にも職人さんにも限りがありますし、仮設のインスタレーションということもあり、ロープの合計の長さは10万メートル分までとリミットを設け、可能な範囲でベストな表現をしました。

―展示を訪れた人たちは、どのような反応をしていましたか

C.C.:そばの大通りや公園内を通りかかる誰もが足を止め、外からゆっくり眺める人、ロープをくぐり抜けながら遊ぶ親子連れや友達同士、ロープにタッチしながら踊り出す人、中に入り真ん中で長い間座り続けるカップルなど、 皆思い思いに過ごしていました。シンガポールの人々は仕事後や夕食後の夕方から夜にかけて、公園で仲間や家族とくつろぐ習慣があるので、ライトアップしたインスタレーションも楽しんでいただいたようです。

―展示を終えての感想を聞かせてください

C.C.:今回のインスタレーションは、風をはらみ、太陽の光を受け、訪れる人々の動きや笑い声、街の喧騒まで全てが合わさわることで、一時として同じ表情はない作品として完成します。「色」が持つ力 ×「触れる」という動作によって、人間のピュアな感覚があらわになってくるのだなと、「SPECTRUM」を楽しむ人たちを見てしみじみ思いました。足を運んでくれた全ての人たちが何かを感じてくれて、シンガポールの街の人々に対してデザインへの敷居を下げること、社会とデザインを繋げることに微力ながら貢献できていたら嬉しいです。

クラウディオ・コルッチ 氏

クラウディオ・コルッチ

1965年スイス・ロカルノ生まれ。イタリアとスイスのハーフ。ジュネーブのデコラティブ・アート校のグラフィック・デザイン科を卒業後、パリのENSCI-les Atelier校にて工業デザイン、その後、交換留学生としてロンドンのキングストン工業大でデザインを学ぶ。1996年より東京をベースに活動。2000年にC.C.DESIGNを設立。商業空間、ディスプレイ、プロダクト、パッケージ、インスタレーション、アートなど多岐に渡り手掛る。ダイナミックな曲線とカラフルな色使いが織り成す、ユーモア溢れるデザインスタイルに定評がある。現在、日本、中国、フランス、スイスをベースに、グローバルに活動中。

http://www.colucci-design.com/