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クリエーターの仕事場:オランダ編

クリエーターの仕事場:オランダ編

オランダのデザイナー「Eric Klarenbeek en Maartje Dros」のスタジオ訪問

2014/04/30

レポーター:渡邉 広美

自らの代名詞を「unusual(普通でない、型破りの)」とするデザイナー、Eric Klarenbeek(エリック・クラレンベーク)が公私ともにパートナーであるMaartje Dros(マーチェ・ドロス)とスタジオを構えてから10年が経とうとしています。彼らのスタジオがあるザーンダム地区は、首都アムステルダムからほど近いにもかかわらず、今も牧歌的な風景が残るベッドタウンとして人気の高いエリアです。 日々実験的なプロジェクトに取り組む彼らのスタジオを訪問し、近況を伺いました。

シェアオフィスの中央には木製の小屋があり、集中したいデスクワークや打ち合わせに利用される
シェアオフィスの中央には木製の小屋があり、集中したいデスクワークや打ち合わせに利用される
共有の作業場があり、プロトタイプ制作にも不自由がない環境
共有の作業場があり、プロトタイプ制作にも不自由がない環境

川沿いに位置する大きな窓が特徴的な建物は、かつて塗料会社の工場として使用されていました。この建物には彼らを含め、常時6組から8組のデザインスタジオが入居しています。 エリックとマーチェのスタジオに入ると、まずスペース中央に木製の小屋が建っていることに気づきます。この小屋は、周りの作業音を避けてデスクワークに集中したいときや、クライアントとのミーティングが行われる際などに使用されています。また、天井の高いスタジオでは暖房の効果は乏しく、オランダの厳しい冬を乗り越えるためにも大きな役割を果たしています。小屋を囲むように配置された棚やテーブルには、リサーチ資料や制作途中のプロトタイプなどが陳列され、 過去の作品などが点在しつつも開放的な空間を作っているのが印象的です。

建物内にはほかのデザイナーたちと共有するスペースがいくつかあります。中でもワークショップは、 建物入居以来、デザイナー同士で協力しあいながら機材や工具を補充し、メンテナンスを施してきました。今では一通りの木工作業や塗装作業など、プロトタイプ制作に不自由の無い環境が整っています。そんなデザイナーたちの横のつながりは、彼らの昼食風景からも垣間見ることができます。その日たまたま居合わせたほかのデザインスタジオからも数名が加わり、インターンの学生達も含めた大人数でテーブルを囲みます。食事中は世間話からそれぞれのプロジェクトの進行具合まで会話の内容は様々で、彼らにとって昼食時間は貴重なコミュニケーションの場となっています。

エリックとマーチェはデザイナーとして活動する傍ら、それぞれArtEZ Institute of the Arts (ArtEZ芸術大学)にて教鞭をとっています。エリックは大学内でArTechLab(アーテックラボ)という学生の意思で学部や研究分野を超えたリサーチ・実験ができるプラットフォームの指揮をとっており、近年はとくに3Dプリンターのプロジェクトに力を注いでいます。ザーンダムのスタジオ内にも手作りの3Dプリンターが設置され、プログラミングを通しての成形技術はもちろん、使用する素材そのものの研究も行われています。昨年秋に発表したMyceliumChair(マイセリウム・チェア)は、生きた菌糸体とバイオプラスティックを3Dプリンターで成形した彼らの意欲作です。機械と自然素材という一見相反する要素ふたつを組み合わせ、プロダクト制作に応用のできる新素材を作ることが主な目的でした。結果、3Dプリンターで成形したものに強度を持たせるという課題も克服することが出来ました。

スタジオ内の3Dプリンターを用い制作
スタジオ内の3Dプリンターを用い制作
生きた菌糸体とバイオプラスティックを3Dプリンターで成形した「MyceliumChair」
生きた菌糸体とバイオプラスティックを3Dプリンターで成形した「MyceliumChair」

彼らのデザイナーとしてのアプローチは、様々なコラボレーションを通して発展してきました。各分野の専門家や企業そして学生達との対話やリサーチを重ねることで、他に例を見ないプロジェクトにこれからも取り組み続けたいと抱負を語ってくれました。「どんな成果が結果としてもたらされるのか予測のつかない課題ほど、デザイナーとして挑戦することに意義を感じる」とインタビューを締めくくりました。

Profile

渡邉 広美

渡邉 広美/デザイナー・デザインコンサルタント

東京都生まれ。1999年の渡蘭以来、ブランドコンサルティング、トレンド分析、大学講師など幅広い分野でのデザイン活動を行っている。武蔵野美術大学短期大学部、Design Academy Eindhoven、Sandberg Institute卒業。Studio Edelkoort(パリ)、Studioilse(ロンドン)などを経て現在Watanabe Design Amsterdam代表。