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クリエイティブ都市・ポートランド

クリエイティブ都市・ポートランド

市民の意識が街を変える、クリエイティブ層が集まる
ポートランドのライフスタイル

2013/12/18

レポーター:井原 鉄吾朗

停車駅の標識
停車駅の標識
自転車用標識
自転車用標識

米国オレゴン州ポートランドは札幌市とほぼ同じ緯度に位置し、オレゴン州の中心的な都市の1つになっている。昨今、まちづくりが成功したクリエイティブ都市として注目されており、その源泉を探るべく現地を視察した。

ポートランドの中心部は東西2km、南北4kmほどで、東西に走るバーンサイドストリートと南北に流れるウィラメット川によって大きく4つの地域に分けられ、それぞれが京都市のようにグリッド状の区画で構成されていて、街中には6つの路線の路面電車が、おおむね3グリッドごとの停車駅間を走っている。また、米国では珍しく自転車交通が発達した都市でもある。

ポートランドはユニバーサルデザインにも関心が高く、街の中心部を歩いてまず目に付くのは標識類の充実ぶりだ。街区や通りの名称、路面電車の停車駅、自転車用の案内などがグラフィカルに統一された表示物として設置されており、現在地の把握や自転車移動の負担が少ない。また、店舗の看板は店先だけでなく区画の入り口にも置かれ、グリッド状の街並みにより見分けがつきづらいデメリットを補っている。

自転車と公共交通機関との融合も見逃せない。路面電車内やバスには自転車を積載する設備が整い、自転車と公共交通を併用することができるので、通勤に自転車を利用する人の姿が目立つ。街中にはそこかしこに自転車をロックできるポールがあるので駐輪も容易だ。また、上下への移動がほとんどない路面電車やノンステップバスの導入は、高層の建物が少ないまちづくりとあいまって、高齢者や障害者にとっても負担が少ない。私自身、滞在中に階段を上ったのは数えるほどだ。

バスに乗る時も自転車を持って行ける
バスに乗る時も自転車を持って行ける
駐輪用の設備もスタイリッシュ
駐輪用の設備もスタイリッシュ

ポートランドは市民運動が盛んで、こうしたまちづくりをNeighborhood(町内会)やDistrict(街区)をベースにした市民主導で行っているというから驚きである。すなわち、地域にとって何が良い街なのかを絶えず追求する市民の意識の高さが都市をかたち作っているのだ。行政もPDC(Portland Development Commission)という専門家からなる外局を組織して市民の活動を後押しする。ナショナルチェーンの出店を規制し、地元ならではの店舗を支援する意識や、農産物だけでなく建材の地産地消といった取り組みは、その街の特徴をより色濃いものにしている。

何気ない街の風景もアート
何気ない街の風景もアート

商業的なエンタテインメントがあるわけでもなく、史跡や世界遺産のような観光名所があるわけではないポートランドには、ツアー観光客もいなければ、みやげもの屋も皆無である。代わりに、緑に囲まれた街中には、ギャラリーや屋外彫刻が溢れ、毎週のようにアートイベントやファーマーズマーケットが開催されている。こうしたイベントは、外部から集客する大規模で非日常的なものではなく、身近なアートや地元の農産物を日常的に楽しむ住民同士の交流の場にもなっており、どことなく成熟した都市の雰囲気を感じさせる。何より来訪者の多くは、決して押し付けがましくないこの街の人々の心のゆとりや居心地の良さを堪能していくことだろう。

一方、課題もある。ポートランドは、住みやすさが周知され、近年では全米で最も住みたい都市の1つになっており、今後20年間で約100万人の人口増加が見込まれている。これまでは、ポートランドのライフスタイルに共感し、自らまちづくりに参加しようというクリエイティブ層が集まる傾向にあったが、近い将来、すでにブランド化したポートランドに住みたいさまざまな市民層を受け入れるステージを迎えることが想像に難くない。ポートランドの行政側は、サステナブルなまちづくりを標榜しているが、例えば東京都心のように昼間人口が増える都市構造になった場合、今のように、Neighborhood(町内会)を構成する市民一人ひとりの声が届き、意思疎通がとれるライフスタイルが保てるのか興味深いところである。

グリッド状の街中に路面電車が走る
グリッド状の街中に路面電車が走る
ギャラリーやカフェも多い
ギャラリーやカフェも多い

Profile

井原 鉄吾朗

井原 鉄吾朗

大学卒業後、バンダイナムコグループを経て(株)ソニー・コンピュータエンタテインメントに入社。デザイン、著作権業務に携わる他、クール・ジャパン関連業務を担当。東日本大震災を機に本格的に写真を撮りはじめ、写真を通じて日本のクリエイティブを伝える活動を展開している。