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クリエーターの仕事場:オランダ編

クリエーターの仕事場:オランダ編

オランダのデザインユニット「Overtreders W」のスタジオ訪問

2013/03/27

レポーター:渡邉 広美

Overtreders W(オバートレダース・ウェー)は、Reinder Bakker(ラインダー・バッカー)と Hester van Dijk(ヘスター・ファン・ダイク)の2名からなる空間デザインを専門とするオランダのデザインユニットです。2012年は4つのデザインアワードにノミネートされるなど、これまでの活動の成果が形となって現れた飛躍の年でした。今年で活動7年目を迎えた彼らが、新しくかまえたデザインスタジオを訪ね、お話を伺いました。

オランダの若いデザインスタジオでは、人件費のあまりかからないインターンをサポート役として雇うことが少なくありませんが、これまでこのユニットはラインダーとヘスターの2名だけで運営されてきました。プロジェクトの規模が大きい場合は、そのつど彼らのネットワークを通して人材を集め、プロジェクトチームを編成するという形を取っています。ネットワークには、建築家やグラフィックデザイナーはもちろん、フォトグラファーや食品デザイナーまで名を連ねています。

彼らは以前、アムステルダム近郊の町ザーンダムの工業地帯にスタジオをかまえていました。複数のデザイナーとともに建物をシェアすることで、広い場所を安く借りられるメリットがありましたが、自宅から高速道路を使っての車通勤はあまり良いものではありませんでした。

昨年、偶然自宅裏にスタジオスペースを見つけた彼らは、思い切ってスタジオを移転させることにしました。自宅のあるオースト地区は、アムステルダム市中心部からほど近く、住宅や商店、文化施設が混在する活気あるエリアです。しかしながら、建物をへだてた裏庭にひっそりと佇むスタジオでは、表通りの雑踏は嘘のよう。近隣住民の生活音すら聞こえてこない静かで集中できる環境です。

活気のある便利なエリアでありながら、静かで緑豊かなスタジオ環境
活気のある便利なエリアでありながら、静かで緑豊かなスタジオ環境
デスクワークエリア、ミーティングエリア、ストレージエリアと3つに分けられた空間
デスクワークエリア、ミーティングエリア、ストレージエリアと3つに分けられた空間

移転前に自ら修繕を施した約65平米のスタジオは、デスクワークエリア、ミーティングエリア、ストレージエリアと3つに別れています。ラインダーとへスターの二人が同時にスケールモデルなどの制作作業をしても十分な広さがあり、資料や材料サンプルなどは規則的に整理整頓されています。

自宅裏の新しいスタジオでは、通勤時間のロスやストレスが無くなったのはもちろんのこと、市街地から近いので、以前より気軽にクライアントや友人を招くことができるようになりました。暖かい季節には、スタジオの外に出されたテーブル周辺が緑豊かな屋外スタジオへと変化します。そこでランチを食べながらメールをチェックしたり、ミーティングをしたりと、とてもリラックスした雰囲気の中で作業が進められます。今年は外での時間をより楽しもうと、庭の空きスペースの手入れをして、小さな家庭菜園を作る計画だそうです。

ミーティング風景
ミーティング風景

現在進行中のプロジェクト「Hotel Buiten(ホテル・バウテン)」は、アムステルダム市西部にあるスローターパーク周辺地域の活性化を目的にスタートしました。湖に浮かぶ小さなふたつの島を陸とつなげ、そこにカフェ・レストランを加えたサスティナブルな滞在型ロッジの新設を最終目的としています。閑散としていた湖畔を活気づけるために、彼らはまず野外に屋根付の長テーブルを設置し、地域住民を招待しました。そこで行われる作業や会話を通して人々が時間を共有することで、テーブルを起点に自然と生きた空間がうまれるのではないかというアプローチを進めています。

近年地方自治体とのプロジェクトが目立つ彼らですが、これからも小規模のデザインスタジオゆえの柔軟性を維持できる範囲で発展していきたいと二人は語っています。景気低迷の中、限られた予算の中で試行錯誤を繰り返しながら可能性を探求する姿勢がとても印象的でした。

湖に浮かぶ小さなふたつの島を陸とつなげて滞在型ロッジを新設する「Hotel Buiten(ホテル・バウテン)」プロジェクト
湖に浮かぶ小さなふたつの島を陸とつなげて滞在型ロッジを新設する「Hotel Buiten(ホテル・バウテン)」プロジェクト
ラインダー・バッカー(左)とヘスター・ファン・ダイク(右)によるデザインユニット「オバートレダース・ウェー」が担当
ラインダー・バッカー(左)とヘスター・ファン・ダイク(右)によるデザインユニット「オバートレダース・ウェー」が担当

Profile

渡邉 広美

渡邉 広美/デザイナー・デザインコンサルタント

東京都生まれ。1999年の渡蘭以来、ブランドコンサルティング、トレンド分析、大学講師など幅広い分野でのデザイン活動を行っている。武蔵野美術大学短期大学部、Design Academy Eindhoven、Sandberg Institute卒業。Studio Edelkoort(パリ)、Studioilse(ロンドン)などを経て現在Watanabe Design Amsterdam代表。