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中国上海の食品パッケージデザイン

中国上海の食品パッケージデザイン

2013年に世界最大の食品市場になると予測される中国。今後ますます重要視されるパッケージデザインの事例を紹介

2012/05/09

レポーター:東野 創

世界の市場としての存在感がますます増してきた中国。2013年には米国に代わって世界最大の食品・日用品市場になる見込みだという。成熟期を迎え、もはや味や品質だけでは差をつけにくくなった中国上海の食品市場でますます高まっているパッケージデザインの重要性。舌と目の肥えた消費者の心を掴むべく国有企業と外資系企業が入り交じり試行錯誤を繰り返している。今回は、それぞれの企業が戦略を練り展開するパッケージデザインの事例を紹介したい。

即席めん

即席めん消費量世界一でもある中国では、大型スーパーマーケット等では何十種類もの即席めんが陳列され、各メーカーが商品開発でしのぎを削っている。

即席めんの多くは、パッケージの面積の大部分が赤、青、黄といったはっきりとした色で占められている。赤はマーラー味、青は海鮮味というように、味から想起される色で商品が種類分けされており、さらに大きく料理写真を配置することでよりわかりやすく商品の特性と魅力を表現している。

中国では「开杯乐」という名で販売されている日清のカップヌードルシリーズのデザインも、中国市場にあわせ味を表現した明快な色で種類分けされたデザインで展開されている。日本のカップヌードルのデザインと比較してみると、好まれるデザインの傾向と違いがよくわかる。
また、料理写真だけでなく、タレントや著名人の写真が配置されたデザインも多い。ただしこの場合、タレントのイメージでブランドをつくっていくというよりも、アイキャッチとして一時的にイメージが用いられている商品がほとんどである。

スーパーマーケットで陳列されるインスタントラーメンの数々
スーパーマーケットで陳列されるインスタントラーメンの数々
「开杯乐」のシリーズ。左からえび醤油味、スパイシービーフ味、マーラー味
「开杯乐」のシリーズ。左からえび醤油味、スパイシービーフ味、マーラー味

お菓子

お菓子のパッケージもやはりはっきりとした色で種類分けされている。台湾のメーカー維力食品のスナック麺「張君雅」はキャラクターでブランドの構築がなされている。どこか日本の「ちびまる子ちゃん」を髣髴とさせる女の子のキャラクター「張君雅」は、若年層の女性の間での認知度はかなり上がってきているようである。ちなみに台湾ではかなりメジャーな商品だ。
キャラクターによるブランド構築の先駆けの「旺旺」は、こちらも台湾で生まれ1992年に中国大陸に進出した食品会社。お菓子を中心にお茶や牛乳まで幅広く展開される商品は、いずれも男の子のキャラクターが大きく配置されている。

お菓子
「張君雅」は女の子の名前。「小妹妹」は小さい女の子。
「張君雅 小妹妹」で「張君雅ちゃん」といった意味
後ろは煎餅で手前は乳飲料
後ろは煎餅で手前は乳飲料

ペットボトル・缶飲料

いかにも中国風といったクラシックなデザインの茶飲料「王老吉」は、缶・ペットボトルの冷茶市場の売り上げの70%を占める商品だ。赤×黄は中国で最も好まれる色使いのひとつである。

中国人なら誰でも知っている王老吉ではあるが、学生や若い世代の会社員の間では、そのデザインやブランドイメージを「古くさい」と感じる人が少なくない。そのように若い世代のデザインやブランドに対する意識が高まる中、2011年の夏頃発売された茶飲料が「東方樹葉」。パッケージにはそれぞれのお茶の伝来エピソードが書かれている。

イギリスのデザイン会社Pearlfisherによる、ヨーロッパのタイポグラフィの手法によるシンプルなデザインは他の茶飲料のデザインと一線を画している。

中国の茶葉が日本やイギリスに伝来するストーリーをベースに商品が開発されている点も中国では新しい。メインターゲットであろう若い世代の反応も上々のようでインターネット上では、パッケージの新しさや美しさに関する書き込みを目にする事ができる。

冷茶飲料の「王老吉」
冷茶飲料の「王老吉」
四角いデザインが新しい「東方樹葉」
四角いデザインが新しい「東方樹葉」

乳飲料

「光明」「蒙牛」といった国内大手乳業メーカーが販売する牛乳は、日本と同様「青×白×赤」の組み合わせのパッケージが多い。牛乳に対する安全と安心といったニーズが高まる中、アサヒビールが2008年より販売している品質管理や安全管理を徹底した成分無調整の牛乳「唯品 純牛乳」は、富裕層を中心に売り上げを伸ばしている。プレミアム感が演出されたパッケージの、特に中央に配置された金のラベルのような重厚感は中国の消費者に好まれる傾向にある。

斜めのロゴが特徴的な豆乳「維他奶」は、1940年に香港で生まれた豆乳のブランド。中国では豆乳は牛乳よりもよく飲まれている。ロゴやパッケージ等のVIを手がけたのは香港のデザイナー、アラン・チャン。庶民の飲み物である豆乳をスタイリッシュなイメージにすることで若年層の消費者の獲得を目指しているようである。

唯品 純牛乳
乳牛のイラストが印象的な「唯品 純牛乳」
豆乳
数種類のフレーバーを展開する豆乳「維他奶」

飲料水

日本の様に水道水を飲む事ができない中国では、数多くのブランドの飲料水が販売されている。トップブランドの「农夫山泉」は2010年にロゴとパッケージデザインをリニューアル。シンボルカラーの赤はそのままに、シンプルでより記憶に残りやすい明瞭なデザインとなった。
一方で、富裕層をターゲットに最近増加傾向にあるのが高級路線のミネラルウォーター。いずれも高級感を演出したボトルデザインで競合商品との差別化を図っている。

飲料水
「农夫山泉」。一番右は4リットルの容器。中国では一般的なサイズ
飲料水
左の2つはチベットの水。いずれも一般的な飲料水の2~4倍の価格

Profile

東野 創

東野 創/デザイナー

1979年東京都生まれ。東京造形大学卒業。
デザイン制作会社での勤務を経たのち、2006年に上海に渡る。現地制作会社マネージャー、北京博報堂ディレクターを経て、2011年より個人活動を開始。