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METI Handmade School

METI Handmade School

バングラデシュの村に大きな変化をもたらした学校建築

2012/04/04

レポーター:松本満美子

バングラデシュは「いつも暑い!」というイメージですが、実は12月~1月頃は気温が10度位まで下がる日もあります。雨が降らず気温も丁度良く、バングラデシュの観光シーズンです。農村に建つ素晴らしい建築「METI Handmade School」をご紹介します。

バングラデシュの郊外に建つ、
Aga Khan Award for Architectureを受賞した学校

一般的な村の建物
一般的な村の建物。竹が多用されています
一般的な村の建物
一般的な村の建物

バングラデシュの北東部ディナジプール県の郊外には、建築を通した社会貢献に贈られる世界的な賞「Aga Khan Award for Architecture(アガ・カーン賞)」を2007年に受賞した、「METI Handmade School」があります。
「METI Handmade School」が建つディナジプールは、バングラデシュの中でも貧困層が多く、インド国境に近くヒンドゥ教徒の多いエリアでもあります。バングラデシュの首都ダッカからバスで10時間程。そこからローカルバスで1時間弱進み、荷台付き自転車に乗り換えて、平和な田園風景の中を進むこと約1時間、やっとその学校が見えてきます。ド田舎のこの小学校の設計者はなんとヨーロッパの建築家、オーストリア出身のAnna Heringerとドイツ出身のEike Roswagです。なぜこんなところに突然現代的なデザインの学校が? と不思議に感じますが、ここには出来上がった建築の素晴らしさ以上に素敵なストーリーと歴史が隠れているのです。

設計者のAnna Heringerは20歳の頃ディプシカというNGOで1年間ボランティアとして活動をしていました。バングラデシュのRudrapurという1,500世帯の村に派遣され、地域の教育や健康、農業のあり方を改善する仕事に従事しました。その後オーストリアのリンツ造形芸術大学建築学科に進学し、大学4年生の時再びこの村にフィールド調査に訪れます。村の建築のビルディングタイプ、工法、材料等を調べた結果、住宅の壁厚や基礎が不十分で庇も機能していない等の問題点に気づいたそうです。さらに村唯一の収入源である農業用地には無計画に家が建てられているという問題も顕在化しました。そして根本的には教育の問題が大きいとの気づきも得たと語っています。

機能美
竹がジュートの紐で縛られて組まれています。これぞ機能美
教室内部
教室内部。洞窟のような空間で子供たちは遊んだり、本を読んだりして楽しみます

村の住民が地元の資材で建設できるデザイン

その後Anna Heringerは大学院に進み、修士設計として「METI Handmade School」を設計します。そこには村の事を良く知る彼女ならではの視点が多く取り込まれていました。建築的な問題を根本から解決するべくRudrapurの伝統的な建築資材である竹と干し草を混ぜた土、ジュートの紐を使いながら新しい建築テクニックを提案し、敷地選定には大学の頃の調査結果が活用されました。村の社会的な問題を解くと同時に、学校のモットーである「learning with joy!」を体現するような空間も提案され2004年、村の学校を運営するRudrapur地区のNGOにより彼女のデザインが採用されることとなったそうです。

建設計画と資金集めに1年を費やした後、2005年にプロジェクトを開始。ベルリンの建築家Eike Roswagが現場監督を引き受け指導を行いました。建設チームは主に村人。村の大工さんや学校の先生、生徒、親御さんにリンツ造形大学の学生が数名加わり、手作りの作業が進められました。まさにHandmade school! 結果的には6カ月で学校が完成したのです。

学校建設の目的のひとつは住民が地元の資材を使った新しい建設技術を身に付けること。また夏に涼しく、風通しがよく、湿気が室内まで上がってこない住宅のつくり方を地域住民が学ぶこと、彼ら自身がメンテナンスに関わり続けられること。ヨーロッパから来た女性建築家に近代的な材料を使った学校を期待した人もいたようですが、今では村中の人が「METI Handmade School」を誇りに思っています。

METI Handmade School 建設後、村の建築物が変わり始めた

同じ敷地内にはその後教員住宅、学校の庭園、生涯学習の教室なども建てられ、安全でデザイン性も優れた建物が増えています。そしてほとんどが平屋だった村の建物に変化も現れ始めています。学校建設に関わった地元住民は「どうすれば強い壁がつくれるのかがわかった」と語り、同様の工法で作られた2階建ての住宅も村のなかに少しずつ建つようになってきました。

地元の素材を使っている為、325平米の2階建て学校が22,835ドルで建設され、実質建設期間は3カ月でした。同じ面積の学校を鉄筋コンクリートで作った場合最低でも60,000ドル、工期は1年近くかかる事を考えると、これも地元コミュニティに受け入れられた大きな理由の一つだと考えられます。この学校で学んだ子どもたちはいずれ母校と同じような住宅を建てることになるのでしょうね。本当に素晴らしい事です。

「METI Handmade School」は、実際に現地を訪れ、使っている人々の心地良さが伝わる雰囲気や村人の誇らしげな表情は建築の持つ社会性や一方でパーソナルな部分に直接的に働きかける力を感じさせてくれました。地元に密着したサーベイや個人的な心の繋がり、想いのベースがあってこそ、新しい技術や投資が良い成果を導き出す本当の意味での「援助」になる事も再確認できた訪問でした。

同じ建物内に建つ職業訓練の休憩所
同じ建物内に建つ職業訓練の休憩所
壁代わりの竹で編まれたルーバー
壁代わりの竹で編まれたルーバー
職業訓練校の教室
職業訓練校の教室
外壁には、小さなソーラーパネルも付いていました
外壁には、小さなソーラーパネルも付いていました

Profile

松本満美子

松本満美子/青年海外協力隊・建築隊員

大学・大学院で建築を専攻。
森ビル株式会社に入社。
内装部で5年程働き、青年海外協力隊・建築隊員として2010年3月よりバングラデシュへ赴任。
バングラデシュ政府建築局で活動中。