インタビュー 編集部が注目するデザイナー・クリエイターのアイデアと実践に迫る

「尾田栄一郎監修
 ONE PIECE展 ~原画×映像×体感のワンピース」
にみる展示デザインの現場 (2)

マンガという日本独自の表現フォーマットを、どのように空間へ変換するのか。原画の魅力を展示で伝える、クリエイティブの現場に迫る。

2012/03/28

JDN編集部

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コンセプトは“シェア”

漫画『ONE PIECE』の世界を空間に置き換えるとき、常に立ち戻るべき基本として、背骨になったコンセプトは「シェア」だった。

洪氏「漫画の場合は個人がページと向き合うものだけど、展覧会は空間の中で大勢と共有しながら『ONE PIECE』の世界を楽しむことができる、集団体験の世界がある。つまり展覧会そのものがシェアできる。そして、尾田さんの気配を感じる肉筆など、作者と読者も何かをシェアできる絶好の機会でもあります。会場では立体造形物や原画を見るだけではなくて、“漫画に入り込む没入感”を映像体験でも再現しました。具体的には大きく3つにゾーンを分け、各ゾーンのコアに映像を据えて、来場者の体験を演出していきました」。

洪氏
洪氏

石田氏「漫画は最初の3ページで読者の心を掴まなくてはならない、と聞きました。それを“つかみの3ページ”と呼ぶのだそうです。その意識を空間にも置き換え、展示前半からメインとも言えるような映像を見せます。空間の場合には、徐々に心を動かす要素を積み重ねていく手法が多いのですが、今回は冒頭でかなり大規模な映像を打ち出します」。

雑誌での引きつけ方と空間での引きつけ方は、それぞれ異なる。「週刊少年ジャンプ」の読者が求める高揚感や漫画の世界感については、雑誌の流儀に従った。 展覧会場には、『ONE PIECE』のストーリーに密接に関わる2つのシアターがある。ひとつ目のテーマは「冒険」。それが前出の“つかみの3ページ”にあたる部分だろう。
『ONE PIECE』は海を渡る海賊たちの冒険物語であることが最大の特徴であり、その冒険活劇シアターと言い切ってしまえるほどにダイナミックなシアターが登場する。そしてふたつ目は「仲間」だ。主人公ルフィと仲間達の硬い絆を感じさせる大事なエピソードが体感できるシアターが続く。

石田氏
石田氏
マストの平面図
マストの平面図
手配書の裏路地のスケッチ
手配書の裏路地のスケッチ

洪氏「シアターを効果的に配置することで展覧会の大きなうねりをつくり、そこに、尾田さんの原画や2次元世界を体感できる立体造形を落とし込みました。語源では<ひとつながり>を意味するワンピースを、空間で繋げていく構想です」。

吉田氏「映像も展示もとことん原画にこだわり、漫画の中に入り込んだかのような感覚、『ONE PIECE』の世界を体感できるコンテンツを追求しました」。

原画のどのコマを採用してどう展示や映像に活かすのか、スタッフ全員が漫画を読み込み、感情の起伏を捉えるシーンを選び出していった。

洪氏「集英社さんからは最初に、『漠然とONE PIECEという漫画を紹介する内容ではだめだ』と言われていました。何話のどのシーンか、明確に落としこまれるくらいのブレのなさ、熟知した構成でないと尾田さんは納得しないだろう、と」。

吉田氏
吉田氏

その点で高校時代から『ONE PIECE』の熱烈な愛読者であった吉田氏は適任のデザイナーだったと言えよう。

石田氏「尾田先生から『漫画なのに漫画じゃない、すごい』と評価していただいたのが嬉しかったですね。細部まで監修していただくことで、展示空間も実際の展示物も精度が上がっていきました。ほんの小さな部分にも鋭い指摘を反映し、ワンピースの世界が間違いなく表現できたと思っています」。
<つづく>

“つかみの3ページ“の代表である冒険パノラマシアターのCGパース
“つかみの3ページ“の代表である冒険パノラマシアターのCGパース
仲間シアターのスケッチ
仲間シアターのスケッチ