クリエイションの発火点

石浦克 / TGB design.

社会実証実験から生まれた「TGB lab」が目指すもの-石浦克インタビュー(2)

「TGB lab」は"絆"と"クオリティー"でつながっている

構成・文:瀬尾陽(JDN編集部) 撮影:葛西亜里沙

社会実証実験から生まれた「TGB lab」

ドコモさんの「4D」と「japan jikkan」というアプリマガジンを、ウチがプロデュースすることになったのが「TGB lab」の設立のきっかけです。ドコモの法人事業部さんと一緒に開発したんですけど、彼らはスマートデバイスを今後どう活用するのか?どんな表現ができるのか?お客さんに「こういうことができますよ」と提案したいという悩みがありました。そこでアプリでなにができるかというのを社会実証実験を2年かけてやりました。

NTT DOCOMO「japan jikkan」/PRODUCE, ART DIRECTION, GRAPHIC DESIGN, MOTION GRAPHICS, SOUND DIRECTION

NTT DOCOMO「japan jikkan」/PRODUCE, ART DIRECTION, GRAPHIC DESIGN, MOTION GRAPHICS, SOUND DIRECTION

ウチはデザイン事務所なんですが、結局は全てプロデュースをすることになったので、編集チームを見つけてきて、予算の管理もしてということまでやるのは大変でしたね。「4D」というアプリマガジンは1年間で終わって、次の1年をどうするかという話になった時に、アプリは雑誌と違って流通というものがないので、もう少しグローバルに展開できるものにしたほうが良いんじゃないかという話になり、編集長をルーカスB.B. (「PAPER SKY」編集長)にお願いしました。元々ドコモは国営企業なので、全国津々浦々ビジネスになりづらいところにもネットワークを通すという考え方で、つまり各地方をつないでいくのが彼らの仕事なんです。日本各地の良いものをアプリケーションで紹介すれば、東京だけでなく世界中の人がそれを知ることができる。日本の良いものが資源になると思ったんですね。日本各地には100年以上続いている企業もあるし、これからの100年を生きていくためのヒントみたいなものを伝えていけるかもと考えました。

アプリケーションは平面と映像の間の子みたいなものだと思うんですよ。僕らがやってきたエディトリアルと映像の両方ができないと難しい。さらにプログラミングの技術も必要になってくる。そこでどういう表現ができるのか、例えばフォントの大きさだったり、センサーを使ってどういうことができるかとか、適正文字量や写真の大きさ、そういったことを色々な人の力を借りて、四苦八苦しながら進めたこと経験が、「TGB lab」の設立に至ったきっかけです。その甲斐あって「japan jikkan」はグッドデザイン賞をいただきました。(※「japan jikkan」は2014年で社会実証実験は終了しているがダウンロードは可能)

アプリで感情に訴えかけることはできるのか?

紙とWEBのデザインは違うし、アプリもまたWebのデザインと違うんですよね。Webはある意味で無限なんですよ。サッカーについて調べていたつもりが、いつの間にか映画を観ていて、最終的にはFacebookをチェックしてるとか、けっこう意識が散漫になりやすい。アプリはある情報に特化しているので、その遮断したなかでどういう世界観をつくれるか?「japan jikkan」で取り組んだのは、アプリを使うことによって感情を動かすということです。

「japan jikkan」では、旅をしたくなるような映像の撮り方をしています。その映像を見て、自分も同じ場所に旅してみたいと思ったら、GPSをたどれば行くことができます。あとは、けん玉のやり方、折り紙の折りかた、お味噌汁のつくりかた、そういったハウツーの情報も数多く入れました。アプリを使った後に、リラックスできたとか、やってみたくなったとか、行ってみたくなったとか、そういった行動を喚起させることを意識してコンテンツをつくりました。

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多くの雑誌の目的は何かを売ることにあると思うんですよ。でも、「japan jikkan」は社会実証実験だったので、感情に訴えかけるところに集中できた。何かを売るためではなく、体験をアプリケーションでどうやって表現するか?というところからスタートしているので良い経験になりましたね。

専門技術者の力を集約、「TGB lab」が目指すもの

「TGB Design」として関わる領域もデザインだけにとどまらず拡大。企画立案や編集、写真やイラスト、映像やCG製作など、さまざまな分野のクリエイターと有機的につながってた。現在は、エンジニアやプログラマなど技術者との交流も活発に行なっている。こうした専門技術をもった人々をまとめるために、「TGB lab」としてプロデュースやマネジメントといった領域にも足を踏み入れるようになっていった。

彼らは、アーティストのマネジメントもデザイニングの一環だと捉えている。現在、「TGB lab」に所属しているのは、ふうせん写真家・岩谷圭介氏と、音楽ユニット「ONE Hundred MONTBLANC」。どちらも既存の価値観や評価軸にはとらわれない、未来を見すえた若きクリエイターだ。

岩谷くんは、個人として日本で初めて高度30,000~48,000mからの宇宙撮影に成功した“ふうせん写真家”で、世界でもトップクラスの宇宙映像を撮影してきました。でも、その技術をどうPRして良いかわからないので相談に乗ってほしいと、知人から紹介されたところからはじまりました。どうやって彼のプロジェクトをプロ化していくか?というところを2年間ぐらい一緒にやってきています。メディアの部分をサポートするだけでなく、テクニカル的な部分ではプロのカメラマンと一緒に完成度の高い写真や映像の撮影、そういうことを最初にやってきました。大学生ががんばってやってます!みたいなところから、ノースフェイスさんに衣装提供していただいてスタイリングをきちんとつくり、アマナさんに写真や映像をライブラリーにしていくカタチでビジネス化しています。

1年目に世界ではじめて、ブラックマジックのシネマカメラで宇宙撮影に成功しました。ふつうはデジカメのバッテリーはマイナス50度以下では動かないんですけど、そういう状況下でも動かすことができる技術を岩谷くんは持っています。2年目からクライアントワークという感じになってきています。例えば企業の時計とか、ふなっしーとかを風船で打ち上げることで、これまで観たことのないような映像をつくってビジネス化していきました。

僕らが19歳からやってきて、大人にだまされないようにしてきたっていう言い方も変ですけど(笑)、名前が知られると良からぬ人たちが近づいてくるわけですよ。どうプロテクションしていくかというのは自分たちでやってきてたので、岩谷くんにも同じことが起こるだろうなというのが予測できたし、どうやってブランディングしていくかのノウハウがあった。僕らが培ってきた人脈やPRの仕方、そういうのを形づくってきた2年間です。

「ONE Hundred MONTBLANC」に関して言えば、大学の教え子の友達なんですね(石浦氏は武蔵野美術大学の非常勤講師)。僕らがBASEMET JAXXとか、MIHO HATORIさんの映像をつくっていたことを知っていて、「石浦さんミュージックビデオつくってください」とかいきなり言ってきて。予算いくらなのか聞いてみたらぜんぜんない(笑)。でも、おもしろそうだから投資するよと言って、2本つくりました。

彼らは若いけれど、イギリスのマンチェスターで行われた「IN THE CITY」という音楽市で「Cool Foreigners award」受賞したり、ピンクフロイドのニック・メイスンに絶賛されたり、インディーながらワールドワイドな活動をしているので、世界で闘うためにどうしたら良いかをすごく考えいてる。僕らの世代でも海外に出ていった人もいるけど、実際はなかなか思うように活躍できなかった、彼らはそこをひょいっと飛び越えているので、僕らができなかったことを応援する気持ちがあります。

ミュージックビデオは、山梨のキースヘリングミュージアムで撮影しました。最初は作品を映さないならOKという条件だったのですが、ニューヨークのキースヘリング財団に撮影後に内容を確認してもらったら、すごく気に入ってくれて作品を全面に出してOKということになったんですよ。それで改めて再撮して、キースヘリングの作品を収めた世界初のミュージックビデオが完成しました。さっきも言ったように、予算が本当に少なかったので、スタイリングからなにから僕がやりました。結果的に、タワーレコードやHMVでCDが買い取りなったので、そういう意味ではミュージックビデオの役目は果たしたかなと。

「TGB lab」には関わるメンバーは、カメラマン、編集者、技術者、プログラマー、業種も職種も様々です。ぼくらは「クリエイティブ・プラットフォーム」と言っていますけど、会社で囲うのではなく各自が独立しているんですよ。プロジェクトによって一緒に集まってやるだけで、みんなお金ではつながってない。「絆」と「クオリティー」でつながっているとしか言いようがない関係です。

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