テクノロジーやメディアの発達で映像表現も変わっていく-関和亮インタビュー(2)

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テクノロジーやメディアの発達で映像表現も変わっていく-関和亮インタビュー(2)

マスゲーム、UNI-CUB、ドローン…前代未聞の要素がそろったワンカットのミュージックビデオ

OK Goの「I Won’t Let You Down」は、クリエイティブディレクターの原野守弘(株式会社もり代表)さんがOK Goと仲が良かったというのもあって、「一緒にミュージックビデオをつくろう」というところから話がスタートしています。OK Goは「コラボレーター」(協賛企業)とミュージックビデオを制作するのですが、原野さんが彼らに提案したなかに「UNI-CUB」というHONDAの新しいパーソナルモビリティがあって、おもしろいモノを使ってミュージックビデオをつくりたいというOK Go側の考えと、「UNI-CUB」を広くアピールしたいというHONDA側の意向が一致して企画が進みました。HONDAは日本の企業ですし、原田さんも日本人です。それならば日本のスタッフを使って、撮影も日本でしようということになって、そこに僕が召集された格好です。

撮影場所はショッピングモールの跡地で、駐車場もだだっ広いし、やりたいことがやれる環境がそろっていたんですよ。他にもいくつか候補地はあったんですけど、上空から撮影することが決まっていたので、Googleマップであらかじめロケハンして、「ここはダム湖のすぐ側だから上から見るとおもしろいね」というも決め手でした。

でも、OK Goからの要望はけっこう大変で…(笑)。まずはたくさんの人が出てくること。バスビー・バークレーのミュージカルみたいに人が群舞する様をグラフィカルに表現したいと。彼らのミュージックビデオは基本的にカットを割っていないので、ロングショットで制作するということ。そこが一番苦労した点で正直ワンカットの作品はしばらくやりたくないです(笑)。

アングルが上がったり下がったりするとなるとクレーンワークが考えられますが、最後には上空700mまで上がるのでドローンでの作業になることは想像できました。でも、最初は手持ちで撮影していたのをクレーンに乗るまではできたとして、その後にカメラがドローンに乗り代わるという話になった時に、かなり物理的に難しいので悩まされましたね。ふとカメラマンさんから「最初からドローンで撮ってみよう」と提案があって、みんな「え?そんなことできるの!?」と驚いたのですが、そこからこの企画でやりたかったことが一気に解決しました。イメージとしては「Powers of Ten」(チャールズ&レイ・イームズ監督作品)じゃないですけど、視点が色々と変わるのがおもしろいよねというのがあって、最初は室内で展開していたことが最後は地球規模という地域規模になる、それをリアルでやってみるという試みです。

撮影はどうしても外的な要素に左右されてしまうので悩まされましたね…。撮影期間は3日間あったのですが、最初の2日間は天気が悪かったんですよ。その間はドローンがほとんど飛べずで、みんなでかけ声をかけながらひたすらリハーサルをするっていうのが2日続いて(笑)。最終日は予備だったんですけど、なんとか晴れたので助かりました。いざドローンを飛ばしてみると、GPSで設定してはいるんですけど、風に流されて1メートルとか数十センチとかずれることもありました。でも、ダンサーや本人たちの動きはほぼ完璧に近かったので、もうあとはドローンが安定して飛べばイケるというのがありました。リハーサルを60回ぐらい重ねていますからね(笑)。

実際に使ったカットは最後から2番目のテイクですが、よく見ると日が陰ってきてるので、いま考えるとけっこうギリギリでしたね(笑)。でも、目線の移り変わりが何とも言えない目新しい感覚があって、僕自身も撮影していて楽しかったですね。

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見どころは「最後まで観てください!」としか言いようがないです。これでもかと盛り込んでいるので。あえてひとつあげるなら、最後の無音の空撮じゃないですかね、ココまで盛り込んでおいて最後はコレかよ!っていう(笑)。クリエイティブディレクターの原野さんの提案で、プランナーの西田さん、OK Go、スタッフのみんなが気に入っているところですね。なんか妙なカタルシスがあるよねって(笑)。上空700メートルまで飛んで、バッテリーの限界が近づいていたんですけど、もったいないから最後まで撮ろうということになって。ふつうだったらカットされちゃうところなんですけど、このシーンを入れて作品としようということになりました。本当に「ココはどこなんだろう?」という不思議な映像になっていると思います。

方法論にはこだわらない、テクノロジーやメディアの発達で映像表現も変わっていく

ミュージックビデオのバジェットはCMや映画に比べると少ないのですが、そのなかでキャッチーなものをつくろうとなると、どこに力を入れようかというのは毎回考えますよね。例えば、場所を面白くしようとなったら、特殊な撮影場所を借りなくてはならないのでお金がかかってきますよね。そこに予算の3分の1とか半分かかったとしたら、じゃあiPhoneで撮ってみようという風に考えていきます。逆にとにかくキレイに撮りたいとなったら、カメラのほうにお金をかけて場所をシンプルにしましょうとか。個人的には方法論にはあまりこだわっていなくて、こういう企画でこういう風にしようと決めたら、そっちに重きを置けるように予算配分を考えますよね。いまはカメラも本当に色々な種類があるし、iPhoneでも十分に撮影機材になりうるので、そこでの制限とかないほうがおもしろくできるかなというのは思っていますね。

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今後のミュージックビデオがどうなっていくか?みたいな話は実はあまり想像ができないんですよね。ネットが普及してからまわりの環境がどんどん変わり、そこでミュージックビデオにも多様性が求められてきて、つくりかたやアウトプットが変わってきた。テクノロジーやメディアがどんどん発達していくから、映像表現も変わっていくとものだと思うので、今後は映すものもぜんぜん違うものになるかも知れない。それこそ16Kのテレビとかになったら、カット割りの激しいガチャガチャした映像よりは、海のきれいな映像とか流しておいたほうが気持ち良い。そういう時代が来るかも知れない。

だからアートとして発展するというより、もっと日常的な映像の体感の仕方が変わっていくんじゃないかと。これだけテクノロジーが発達してくると、そろそろ毎回観るたびに内容が変わるミュージックビデオとか、そういうのが5年以内に実現するとかあり得る話だと思いますよ。音楽を体験するとか体感するということは、それぞれの時間と場所によって感じ方が異なるはずなので、ミュージックビデオがそうなったらおもしろいなあと思っていますね。

構成・文:瀬尾陽(JDN編集部) 

■第19回文化庁メディア芸術祭
アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門に、世界87カ国・地域から過去最多となる4,417の作品が寄せられた。「平成27年度[第19回]文化庁メディア芸術祭受賞作品展」では、それらの中から選ばれた受賞・審査委員会推薦作品、功労賞受賞者の功績等を展示や上映、様々なプログラムを通じて紹介。厳正な審査で選ばれた多様なジャンルの作品を一堂に見ることができるショーケースであり、新しい文化的価値を共有するプラットフォームでもある。シンポジウムやプレゼンテーション、ワークショップなどのプログラムには、国内外の多彩なアーティストやクリエイターが集い、同時代の表現や創作の世界を紹介。今年度を代表するメディア芸術に触れることができる12日間。

【会期】
2016年2月3日(水)~2月14日(日)
【会場】
■国立新美術館
(東京都港区六本木7-22-2) ※2月9日(火)休館
10:00~18:00 金曜日は20:00まで(入場は閉館の30分前まで)
■TOHOシネマズ 六本木ヒルズ
(東京都港区六本木6-10-2 六本木ヒルズけやき坂コンプレックス内)
2月6日(土)、2月7日(日)、2月11日(木・祝)のみ開催
■スーパー・デラックス
(東京都港区西麻布3-1-25 B1F)
2月3日(水)、2月4日(木)のみ開催
■セルバンテス文化センター東京
(東京都千代田区六番町2-9)
2月4日(木)のみ開催
※開館時間は会場によって異なります
【入場料】
無料 ※全てのプログラムは参加無料です
【主催】
文化庁メディア芸術祭実行委員会
【公式ウェブサイト】
http://festival.j-mediaarts.jp/
※関連イベントの申込方法はプログラムによって異なります、詳細はフェスティバルサイトで御確認ください