「観た楽しさ」と「伝える楽しさ」、インターネットがもたらしたミュージックビデオの変化-関和亮インタビュー(1)

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「観た楽しさ」と「伝える楽しさ」、インターネットがもたらしたミュージックビデオの変化-関和亮インタビュー(1)
PerfumeやSEKAI NO OWARI、星野源など、さまざまなアーティストのミュージックビデオを手がける関和亮氏。一度観たら忘れられないインパクト、最後まで飽きさせることなく観させる演出力で高い注目を集めている。関氏が手がけた、サカナクションの「アルクアラウンド」が第14回文化庁メディア芸術祭で優秀賞(エンターテインメント部門)を受賞したのは記憶に新しい。また、2015年に手がけた、アメリカのインディー・ロックバンドOK Goの「I Won’t Let You Down」は、マスゲーム、UNI-CUB、ドローン…と前代未聞の要素がそろったワンカットのミュージックビデオで、音楽ファンのみならず多くの人に衝撃を与えた。本作も第19回文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品に選ばれている。映像ディレクターだけでなく、アートディレクター、フォトグラファーとしても活動する関氏に、「I Won’t Let You Down」の撮影エピソードや、映像表現とインターネットの関係性などについてお話をうかがった。

ビジュアルイメージをディレクション、映像表現にとどまらない関和亮の多岐にわたる仕事

もともと映像をつくりたいという漠然とした思いがあって、映像と言っても色々とあると思うんですけど、そのなかでもミュージックビデオが若い時分にはとても刺激がありました。19~20歳ぐらいから撮影現場で働きはじめていて、ドラマとか映画とかの色々な現場で仕事をさせていたのですが、やっぱりミュージックビデオをつくりたかったので、人づてでトリプル・オーの仕事を紹介してもらいました。それからずっとお世話になっています。もう18年とかになるのかな。

僕は映像の仕事だけでなく、写真撮影やデザインもしているので、自分の肩書を説明するのが困るっちゃあ困るんですよね。だからディレクターと言うようにしています。その時々で映像ディレクターだったり、アートディレクターだったりするので。昔から音楽が好きだったのでジャケ買いもしましたけど、正直言って平面のデザインが自分の仕事になるとことはイメージしていませんでした。だから、ほとんど独学でやってきたような感じですね。

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インターネットがミュージックビデオにもたらした圧倒的な変化

映像をつくっている人間からすると、Webでもつくったものを観てもらえるようになったのは、仕事をしはじめた時とは圧倒的に違いますよね。技術的にアナログからデジタルに移行したというのもあるんですけど、YouTubeに動画がアップされていれば、ちょっと検索しただけでパッと出てくる、それは本当にすごいことだなと。いまでは当たり前のことなんですけど、かつてを知っているだけにそこは大きく違いますね。

もちろん「タダで観られちゃうじゃん」という意見もあるんですけど、つくった側からすると観てもらえないと広がってもいかないので、それが入り口になるという意味ではアリだと思っています。いままでは観た人の反応や、お客さんの顔がなかなか見えてこなかったけど、リアクションがあるとモチベーションにもつながりますしね。評判が悪かったら「この野朗!」と思ってがんばれますし、評判が良かったら「自分は間違ってなかった!」と思ってがんばれますし(笑)。そういう意味では良い方向にあるなあと思います。

いまミュージックビデオを観る環境は、テレビよりもPCのほうがぜんぜん多いかも知れないし、スマホの割合もかなり多いと思います。5~6年前くらいから、YouTubeにアップされたものがTwitterで一気に拡散していくみたいなのが急激に増えたタイミングだったし、そうした再生環境のことを考えると編集や絵づくりにも少なからず影響がありますよね。

文化庁メディア芸術祭で優秀賞(2010年・エンターテインメント部門)をいただいた、サカナクションの「アルクアラウンド」とかも、やっぱりYouTubeでの再生回数とか、Twitterでの拡散の仕方が本当にびっくりするくらいのことだったし。多くの人に観てもらえる動画はどういうものか?というのを、サカナクションのメンバーやマネジメントと話し合ってつくりましたけど、予想以上の驚くべき反応でしたね。でも時代が違っていたら、ああいう作品にはならなかったかも知れないと思います。ミュージックビデオの世界にも流行りの手法がありますけど、最後まで観てもらうにはどうしたら良いか?という企画のつくりかたに変わってきていると感じます。

「観た楽しさ」と「伝える楽しさ」というのはけっこう大事で、やっぱりおもしろいものは人に伝えたくなるじゃないですか?「俺こういうのを知ってるんだよ」みたいな。そういうアクションを起こしやすい土壌がTwitterにはありますよね。

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