クリエイションの発火点

千原徹也 / れもんらいふ

デザインから少し遠くに行って、デザインに上手く結びつける-千原徹也インタビュー(2)

つくってる時のめっちゃ楽しい感じを100%伝えたい

取材・文:瀬尾陽(JDN編集部) 撮影:寺島由里佳

「れもんらいふ」のお仕事

「装苑」の表紙のデザインをずっとやってきて、その影響力の大きさは感じています。あと、年に一度の特集「音楽とファッションとエモーション」っていうシリーズを、ここまで三回やらせてもらっていて、そういったものをミックスして表現するには「装苑」以上の場所ってなかなかないですよね。

「れもんらいふ」がデザインを手がけた「装苑」の表紙

「れもんらいふ」がデザインを手がけた「装苑」の表紙

「れもんらいふ」に面接を受けに来た子とか、「れもんらいふ」のファンですっていう子とか、ほとんどが僕のやっている仕事=「装苑」のイメージなんですよ。「装苑」=れもんらいふ感はすごいあるみたいで。吉田ユニちゃんも印象が強いから、ぜんぜん僕らだけじゃないんですけどね。僕はファッションとカルチャーが本当に好きだから、そういうイメージを持たれるのはうれしいですよね。

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つい最近の仕事で印象に残っているのは、Zoffのサングラスキャンペーン「A LONG SUNGLASSES V・A・C・A・T・I・O・N」ですね。ぼくが培ってきた映画とか音楽のエッセンスがすごい凝縮されています。「LONG SUNGLASS VACATION」というコピーは、言ってみれば大滝詠一さんの「A LONG VACATION」の丸パクリなんですよ(笑)。背景イラストは「A LONG VACATION」を手がけられた永井(博)さんに描いていただいているくらいですし。

「A LONG SUNGLASSES V・A・C・A・T・I・O・N」のチラシと、オマージュ元になった「A LONG VACATION」

「A LONG SUNGLASSES V・A・C・A・T・I・O・N」のチラシと、オマージュ元になった「A LONG VACATION」

そういうカルチャーに対して、いまのカルチャーを牽引する若い人、MAPPYちゃんとか、OKAMOTO’Sとか、そういうものをミックスして広告をつくっていく、僕はそこに興味というかおもしろさがあると思うんですよ。写真はいまをときめくカメラマンの奥山由之‬くんが撮っていて、こういうのがやれるのはデザイナー冥利に尽きるというか……楽しいな!と思うんですよ、楽しいことやれたな!って。永井さんのイラストを使えたことは改めて大きいですよね。

Zoff Park 原宿店では、OKAMOTOS‬と‪MAPPY‬の巨大シートを展開

Zoff Park 原宿店では、OKAMOTOS‬と‪MAPPY‬の巨大シートを展開

「A LONG SUNGLASSES V・A・C・A・T・I・O・N」 第2弾には、‎水曜日のカンパネラの ‪‎コムアイ‬ が登場

「A LONG SUNGLASSES V・A・C・A・T・I・O・N」 第2弾には、‎水曜日のカンパネラの ‪‎コムアイ‬ が登場

一緒によく仕事をしているコピーライターの小藥(元)さんが、「れもんらいふ」設立5周年を記念した展覧会の「かわいいと変とあたらしいを混ぜるとれもんになる」というコピーをつくってくれたんですけど、自分がかわいいとか変だなと思うものに、自分のルーツとしてあるものを混ぜて、それを広告にできることがいちばんおもしろいと思っています。

あと印象的な仕事は、ワコールの「BRAGENIC(ブラジェニック)」の「BRA&PEACE!(ブラアンドピース)」キャンペーンかな。あそこまで大きいマス広告はウチでやることはあまりなくて。このときは、キャンペーンムービーの監督もやったんですけど、僕もそこに出ちゃってるんですね(笑)。僕が出てるかどうかはどっちでも良かったんですけど、表方も裏方も全員出てくるんですよ。撮影したレスリー(・キー)も。つくっていることの楽しさを伝えるという意味では、それがやれた感覚があって、「WE ARE THE WORLD」じゃないですけど、「みんな出ちゃいましょう」みたいな(笑)。このごっちゃごちゃ感が良かったなと思います。

ワコール「BRAGENIC」の「BRA&PEACE!」キャンペーン

ワコール「BRAGENIC」の「BRA&PEACE!」キャンペーン

「れもんらいふ TOKYO MUSIC Vol.1」のようなイベントを開催したり、絵を描いてみたりとか、ラジオ番組をやったりとか、色々なことをやっているんですけど、やっぱり主軸はグラフィックデザイン。ですが、そこをベースにしつつも、そこじゃないところにも挑戦したいというのがあるんですね。

世の中のグラフィックデザイナーが、グラフィックデザインだけをしたくて生きてきたのかというと、僕はそれは少し違う気がする。やっぱり根本では面白いことをやりたいんだと思うんですよね。僕は色々なことをやって、デザインから少し遠くに行って、デザインに上手く結びつけるようなことをやれたほうが、いつか多くの人に分かってもらえるんじゃないかと思っています。今は分かってもらえないかもしれないけど。

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「デザイナーなのに、なんでラジオやってんの?」とか言われますけど、僕はネガティブなことを言われても、聞かないようにしています(笑)。あと、今年の4月から「れもんらいふデザイン塾」という、若手デザイナー育成プロジェクトもはじめたんですけど、そういう取り組みも面白いと思ってもらえた時に、アートディレクションという仕事の幅や、僕に対する依頼や要望も変わってくるのかなと思ったりします。

でも、アートディレクターって言われても、いまいち何している人かわかんないですよね?なんかわかりやすい説明ができれば良いんだけどね。結局、アートディレクター自体どうとでも捉えられるから、そこが良さだとも思いますけど。

デザインを通して本当に伝えたいこと

広告つくったりとか、CDジャケットつくったり、なんでもそうなんですけど、つくってる時ってめっちゃ楽しいんですよ!でき上がったものに対して、その楽しさが100%伝わってほしいけど難しいんですよね……。自分がつくってる状況においては楽しいんだけど、ポスターだったらその楽しさが10%ぐらいしか伝わってなくって、もっともっと本当はつくる過程は面白いんだよっていうことを、なんとかその1枚の中に込めたいなと思うんですけど、でも紙でそれをすべて表現するのはまあまあ至難の技というか。

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いかに楽しさを伝えるかっていうのがいちばんやりたいことかも知れないですね。もちろん広告表現ではその商品が売れるというのが大事なんだろうけど、でも楽しさが伝わればそれが達成できると思うんですよ。

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