ひとつの生態系をつくるように、ジュエリーを生み出す「bubun」―身につけるまでインタビュー(1)

ひとつの生態系をつくるように、ジュエリーを生み出す「bubun」―身につけるまでインタビュー(1)

日々、出かけるときに身につけるジュエリーや装身具はありますか?

それは、その日の服装や気分に合わせたりするものでしょうか。なくても成立するけど、身につけることで自分の気持ちを少し高揚させたり鼓舞させたりする。はたまた一緒に連れ添ったお守りのようなものかもしれません。

ガラス、金属、布、石、木など、さまざまな素材でわたしたちを魅了するジュエリー。そのひとつひとつが生まれるまでの過程や、生み出したクリエイターの素顔、背景を知ると、またひとつ身につけたいと思うものが増えるかもしれません。このインタビューは、ジュエリーが生まれるまでの道のりを追うものです。

“あ、ここだけ空気がちがう”

はじめて「bubun(ぶぶん)」に出会ったのは、2016年末に開催されたジュエリーの見本市「New jewelry」。ジュエリーが持っている雰囲気も、つくり手がまとう雰囲気も、そこだけ切り取られたように、凛とした空気を醸し出している。陣信行さん・めぐみさん夫妻による「bubun」は、ガラスと革をつかったジュエリーブランド。お二人にブランドが生まれたきっかけや、ふだん大切にしていること、インスピレーションを受けるものについてお話を聞きました。

ガラスと革をつかった、bubunのジュエリー

ガラスと革をつかった、bubunのジュエリー

1つのピアスと、革の美しさからはじまったブランド

陣信行さん(以下、信行):もともとめぐみとは前職の皮革製品をつくる会社で出会ったんですが、それまではお互いまったくちがう道を歩いていました。僕の場合は大学時代から平面作品をつくっていて、卒業後もマンガや絵本を描いていたんです。でもなかなか芽が出ず、20代の頃はずっと挫折していたような感じでした(苦笑)。30歳くらいの時に私的な制作を1回リセットし、ものづくりを通して社会と関わりたいなと思いました。たまたま求人で見つけたのは皮革製品の染色の仕事。染色なら絵を描くことに近いし、なんとかなるかなと。

陣めぐみさん(以下、めぐみ):私は大学で工芸学科のガラス制作を学んでいて、その時からガラスで作品をつくっていたのですが、卒業してからは本格的な制作から離れていました。30歳手前くらいの時に「やっぱりつくることを仕事にしたい!」と思って入ったのが、前職の会社でした。

信行さんが20代の頃に描いていたというマンガ

信行さんが20代の頃に描いていたというマンガ

めぐみ:その会社の製品はビビッドな色に革を染めていたのですが、お互いに「染める前のヌメ革の色が1番いいな」という感覚が一致していました。その会社の仕事以外で、つくりたいものが出てきたこともあり、bubunを立ち上げたんです。だから最初はガラスを使うことは考えておらず、ヌメ革を使って何かつくりたいというのがスタートでした。

信行:僕はジュエリーについて詳しくなかったんですが、めぐみがいつも身につけているジュエリーはほかで見たことがないなと思っていました。宝石や貴金属をつかうファインジュエリーとはちがう世界があることを知り、その多様性にすごく衝撃を受けました。そこから日本での展開の仕方を調べ、「New jewelry」に行き着いたんです。実際に行ってみると熱気や多様性があって、チャレンジを認める土壌があった。その場所に出展したいと思い、「New jewelry」に応募してみない?と、めぐみを誘ったのがブランドを始めるひとつのきっかけでした。

めぐみさんが19歳の頃からつくり続けているというピアス「solo」

めぐみさんが19歳の頃からつくり続けているというピアス「A PAIR OF SOLOs」

めぐみ:この「A PAIR OF SOLOs」というピアスは19歳くらいの時につくったのが最初で、以降15年くらいずっとこれしかつくっていなかったんです(苦笑)。でもこれが気に入ってしまって動けなくなっていたのですが、2人で何かやりたいと声を掛けてもらってからは、爆発するようにアイデアが出てきました。

絵本がつないだ、「部分」というブランド名

信行:初めは本当に「A PAIR OF SOLOs」の1種類しかなかったので、まずこれをどういうイメージでつくったのかを僕がめぐみにインタビューしたんです(笑)。

めぐみ:私が想像していたのは、ずっと無限に長く続くようなものの一部分をピッと切り取ったようなイメージでした。

信行:そのイメージが新鮮に感じたのと同時に、「部分」という言葉にすごく引っかかりました。その「部分」をブランド名にしたいってことをめぐみに言ったら、全然ピンと来てなかったみたいで…(笑)。ジュエリーブランドらしからぬ名前ですしね。でも「部分」は、すごくおもしろい言葉だから説き伏せるために、自分が好きなレオ・レオニの『ペツェッティーノ』という絵本で説明していきました。

陣信行さん

陣信行さん

この本の副題が「じぶんをみつけたぶぶんひんのはなし」なんです。レオ・レオニの絵本はすべて谷川俊太郎さんの翻訳なんですが、「ぶぶんひん」という絵本らしからぬ言葉のチョイスに魅かれて。物語としては、グリッド状の四角い主人公が「自分が何の部分なのか探す旅に出る」という話です。いろんな人に「もしかして私はあなたの部分じゃないですか?」と、聞きながら旅をするんですが、最終的には自分自身もいろんな「ぶぶんひん」で構成されていたと気付き、今度はそのことをみんなに伝えに行く話なんです。これって、めぐみが考えてたジュエリーのイメージと同じじゃない?と、話したら、納得してくれたみたいです(笑)。

インスピレーションを受けるもの

信行:節目節目で立ち返って見るのは『ナチュラル・ファッション』という、アフリカのある部族がまとっている、ファッションについての写真集です。アクセサリーやジュエリー、服や化粧という境目が何もないし、ピアスやネックレスみたいにカテゴライズができない。自分たちも“ピアスをつくろう”とかではなく、体との関わりで腕におもしろい“何か”をつくれないかなと、ゼロベースで考えさせてくれる本ですね。

『ナチュラル・ファッション』

『ナチュラル・ファッション』

めぐみ:原始的な衝動でつくられたものばかりで、すごく自由なんですよね。本当に個人個人が好きなものを好きなようにして自分を飾っている。ちょっと考えが硬くなってきたなという時に本を見ると、自分たちの固定概念を1回壊してもらえるというか。“着ける”っていう根本的な衝動に気付かせてくれますね。

美しいと思うものは、自分の原風景に

信行:子どもの頃、栃木で古書店を営む叔父の家によく行っていたんです。栃木って緑は多いものの植林が多くて、あまり風景に興味をそそられませんでしたが、叔父の家の前は原生林に近い雑木林が残されていて、そこに入るのは楽しくて毎回発見がありました。杉の植林の中は鳥がたまに鳴くくらいでひっそりと静かだけど、そこの雑木林にはいろんな生き物がいて、自分では整理できないようなその状態がすごく好きだった。多様性みたいなものがそこにはあったんです。

めぐみ:両親が建築の仕事をしているんですが、私が小さい頃はまだCADとかもなかったので2人が手描きでよく図面を描いていました。トレーシングペーパーに光る、細いシャーペンで描かれた縦横の線の世界とか、スチレンボードでつくられた建築模型がリビングに飾られていて、その真っ白な世界が子ども心にもかなりグッときていました。「bubun」のアクセサリーは色を使っていないし、大学でもそのままの素材感をみせるような作品づくりをしていて、親の建築の仕事が自分の美意識に影響を与えてるんだろうなと思います。

bubun アトリエ

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