ガラスの「構造そのもの」を提示することで、AGC旭硝子の技術力を見せつけた圧巻のプレゼンテーション(2)

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ガラスの「構造そのもの」を提示することで、AGC旭硝子の技術力を見せつけた圧巻のプレゼンテーション(2)

超薄板ガラスだからこそできた
揺らぎで表現する原子の振動

太刀川:原子が振動していることは、僕らも高校の化学で習ったことですが、もちろんガラスも振動している。今回の案に決まる前から、こんな軽いガラスを使うなら揺らしたいという話を岡安さんとしていて。そういう揺らぎを使えば、原子が振動しているかのように見せることができるんじゃないかと。

ふつうの分子構造模型は静的ですが、今回の分子構造模型ならリアリティーを持った有機物的なものになりえるだろうという予感はありました。実際に十億倍に拡大してみると、その世界で起こっていることはものすごくエキサイティングな状況なはずです。相当な速さで色んなものが動いているということはイメージしてつくっています。

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小西:ガラスは構造がランダムなので、原子の振動の仕方もランダムなんです。結晶だと周期がそろって揺れたりするんですけど、それとは違ってガラスは振動の周期に広がりがあるんですよ。構造の揺らぎだけでなく、その振動の揺らぎまで再現されているようで。分子構造模型を見た時に、「こうやって揺らぐんだ!」と感動しましたね。

太刀川:実際そうなんでしょうね。振り子を置いておいたりすると、段々とそろっていきますよね?リズムって互いに影響を及ぼしあうので、例えば時計のクオーツとかはそろっちゃうんですよ。

小西:それがそろわないのがガラスで、十億倍の模型が目の前に現れた時に「ああそうなるんだ……」と思いました。構造の中の美しさに色んな人が感動したと思います。

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超薄板ガラスが持つこれからの可能性と拡がり

太刀川:来場者は去年の1.5倍、そのうちの3割~5割ぐらいの方は、サイエンスミュージアムのほうも見てくれていて。綺麗なものを見ただけでは興味を持たなかったであろう、ロジカルな部分に触れて帰っているはずなんですよ。数万人にガラスの科学が届いた可能性はある。そう考えるとガラスの展示としては成功といえるんじゃないかなと。

メインのインスタレーション「Amorphous」以外に、「ガラス」という物質や技術について紹介するサイエンスミュージアムも設けられた

メインのインスタレーション「Amorphous」以外に、「ガラス」という物質や技術について紹介するサイエンスミュージアムも設けられた

小西:ガラスは身の回りにあるものなので、あまり素材として興味を持たれていないのかな?と少しさみしかったんですけど、これはふつうのガラスとは違うものなんですよと伝えると、「こんなことまでできるの?」と興味を持ってくださいました。表現の幅があるんだということを知ってもらえたと思います。

今回、使用したガラスはスマートフォンやタブレット用のカバーガラスとしても使われているんですけど、こういうモノにも使えるのでは?といった提案や、「探していたのはこれだよ!」とおっしゃってくれる方も沢山いらっしゃいました。具体的なビジネスに繋がりそうなので、それはまさに私たちが望んでいたことでしたね。

一般的な窓ガラスとして使用されるガラスと比べて表面強度が高く、軽くてしなやかでキズつきにくいガラス

一般的な窓ガラスとして使用されるガラスと比べて表面強度が高く、軽くてしなやかでキズつきにくいガラス

太刀川:今回のインスタレーションは風で動かしているんですけど、揺らいだりとか変化したりとか、そういうものにガラスがなっていく可能性があるなら、AGCさんの技術はすごく有効なはずです。通常のガラスではあそこまでかんたんに動かすことはできない。モーターで動かすことはできても、風でそよぐみたいなレベルのことは、まず起こらないわけですから。そういうある種の揺らぎを受け止めることが出来るんですよね。静止物だったらふつうのガラスでも良いんでしょうけど、風力とか水力とか動きが常にあるようなものと関わったときに色々生まれそうだなと思います。

小西:モバイル関係、持って運ぶものに関しての可能性も色々とあると思います。何に使うのか具体的には分からないですけど、軽くて強くてかつ安全性も今までのガラスに比べて高いので。今までのガラスでは使えなかった領域のモノもできるのかなと思っています。

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太刀川:僕自身がデザインに対して誓っている倫理というか、僕がつくり手であるということを超えて、”それそのもの”がそうあるべき状態をつくりたいと思っているんです。そうなると、デザインってどんどん消えていくんですよね。”それそのもの”通りにすることができたら、極端にいうとデザインする必要がないんですよ。

本当に凄いものって誰が見てもすごいし、誰でもそのアイデアにたどり着きうる。僕じゃなくてもできるものにアイデアを帰着させるのが一番難しいし、一番エキサイティングだと思っていて。今回でいうと、分子構造模型に気づいた後に、僕はデザインをする必要がないんですよね。あとはいかに正確に具現化するか、脳内にある設計図通りにつくっていくのかということが問われるので。

今回は、そういう”それそのもの”どおりにできた仕事でしたね。ガラスでガラスの分子構造模型をつくります、以上と。でも、それで色んな事の説明がつくんですよね。ものすごくデザインをしながら、まったくデザインをしていないというところがとても気に入っています。

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-全体的なコンセプトを固めていった太刀川さんに対して、岡安さんがしたことは、”綺麗”を選び取って編み上げていく作業だ。ガラスの魅力を最大限に引き出した岡安さんは、「Amorphous」にどのように挑んだのか?

岡安泉(以下、岡安):太刀川君から分子構造っていうのはどうだろうかという話が来た時に、「それは上手くいく!素晴らしい!」と思って、それ以降は照明の話をほとんど共有しないまま進みました(笑)。太刀川君からの言い分としては、このおっさんが魔法をかけてくれるからもう良いんだということになり、僕は僕のほうで太刀川君がかっこいいものをつくってくれるだろうから照明は任せとけということで。ミラノでガラスを吊りはじめて形ができてきた時に、こうしたいああしたいという最終的な落とし込みをしていった感じです。

コンセプトの時点である程度イメージがあったから、上手くいくとは思っていたんですけど、ガラスのボリューム感や透け感がわからなかったので、現地での調整に重きを置いたというのもありますね。事前になにかやったところで、わからないものはわからないので。

岡安泉さん(岡安泉照明設計事務所)

岡安泉さん(岡安泉照明設計事務所)

3分40秒でループする
光が紡ぐガラスのストーリー

岡安:ストーリーのイメージをお話しすると、地球の中のひとつの物質として生まれてきて、他者との関係がなく自己完結している物質というのが最初のイメージ。ガラスでもないというところから、ガラスになるために他の分子たち、原子たちと関係性を持ちはじめ、ひとつの塊になり、その塊が他者との関係性を持ちはじめるという感覚でつくりました。

最初は5分、10分、20分と意気込んでどんどんつくっちゃうんですけど、そんなに長いと最初から最後まで見てくれない。経験からいうと3分くらいが限界だと思います。本当は3分に縮めたかったんですが、どうしても削りきれず3分40秒になりました。意外と何をやっても綺麗になってしまうので、3分もしくは4分にどう縮めるかという部分で苦労しましたね。

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あと、多分鉄分のせいだと思うんですが、ガラスに白い光を当てると何というか鈍いんですよね。一枚一枚で見ると分からないんですが、積層されてボリュームになった時に鉄分の緑が出てきちゃって、白い光がシャープじゃなくなるというか。「白」を見せたい時には、背景に少し青を入れています。視覚的には抜け感の良い「白」という感じなんですが、写真を撮ると青のほうが拾われちゃいますね。

でも、ふつうのガラスはすぐ緑色に見えてしまいますが、それに比べると緑の影響は少なかったです。このガラスのひとつの特性ですよね。面が光を受けた時に、ほとんど透過しちゃうんですけど少しだけ光が溜まってエッジが光る。全体のオブジェクトは透明感を持つんだけど、ガラスの輪郭のラインだけが、ばぁーっと浮き出る瞬間があるんですよ。それはこの薄さだからこそできた不思議な切れの良さですね。

全体のオブジェクトは透明感を持ち、ガラスの輪郭のラインだけが浮き出る

全体のオブジェクトは透明感を持ち、ガラスの輪郭のラインだけが浮き出る

超薄板ガラスが持つこれからの可能性と拡がり

岡安:あまりそういうことは考えていなかったので、何も素敵なことが言えないのですが……。今回でいうと、”薄さ”とか”強さ”は新しい何かをつくっていくものだと思うんですよね。今すぐ利用方法が見つかるかといわれると、よく分からないんですが、どこかのタイミングですごいものに至るチャンスはあると思いますね。

何かに似ているというコメントが沢山あれば、それが一番連想しやすいということでは正しい説明になるんでしょうけど。誰も何かに似ていると感じなかったということは、これが新しいものということだと思います。そうなると説明するには新しい日本語をつくるしかないかも知れないですね(笑)。

-目に見えないガラスの分子構造をガラスでつくる、文字にするととてもシンプルなことだが、根源的な美しさを見事に可視化したインスタレーションだと思う。ここで使われたガラスの”薄さ”と”強さ”こそ、ガラスの新たな可能性のひとつであり、多くのデザイナーの創造力を刺激していくことだろう。

構成・文:瀬尾陽(JDN編集部) 
撮影:葛西亜理沙(※インタビュー部分)/三嶋義秀(※インスタレーション部分)

AGC旭硝子
http://www.agc.com
Amorphous 特設サイト
http://www.agc-milan.com/mdw/2016/